メアリーの大誤算
「ダメなの~、設備投資にお金掛けすぎなの~、倒産する企業と同じなの~」
「ヒィ、帳簿読めるのですか?」
「だから、全面ガラスのショーケースはやめるの~」
「わ、分かりました」
今、私は前世の記憶を頼りに帳簿を読み。指導するようになった。
この店はシマ内にあるモーリス商店、雑貨屋さんだ。
喫茶店なのに『冷やし中華始めました』みたいなワケの分からない状態になっている。
この店は『アナグマの毛皮入荷しました』と張り紙が貼られている。
「全然、売れないのです。貴族のご令嬢の間で毛皮が流行ると聞いていたので」
ほしいな。アンテナは張っている。しかし、センスがない。
「じゃあ、どうすれば・・」
店内を見たがあまり几帳面には見えない。細かい事を言っても無理だろう。
「少し待つの~」
私はシマの見回りをする。随伴保護者をつけられた。マリーさん。メイドさんだ。
しかし、幼女の体力では限界があるな。
「メアリー様、おんぶいたしますか?」
「なの~、それはダメなの~、威厳がなくなるの~」
「まあ、では少し休みましょう。お水持って来ますわ」
「よろしくなの~」
橋の欄干に背を預けて休む。あれ、橋の手すりに上半身を乗り出している男がいた。
だから声をかけた。
「おじしゃん。何をしているの~」
「グスン、グスン、止めないでくれ、・・・・幼女?貴族様?迷惑をかけません。放っておいて下さい」
「おじしゃんがここで死ぬと迷惑がかかるの~、衛兵隊に痛くもない腹を探られる人もいるの~」
「ウワ~~ン、グスン、グスン!」
泣き出した。頭をヨシヨシして事情を聞いてあげた。
何でも馬車工房の主人で負債が重なり倒産寸前、職人達の給金を払えない?
良く聞く話だ。
「なら、仕事を依頼するの~」
「ええ、今、それどころではありませんよ」
「メアリーは客なの~言う事を聞くの~」
どうする?トーマスさんはやり手の実業家だ。ただのプレゼンをしてもほぼ100パーセント。
『無理ですネ』と言うに決まっている。
実物を見てもらおう、私はお義父様にもらった宝石箱を渡した。
「これで人力車を作って欲しいの~」
「人力車?」
この方はハンスさん。工房に案内してもらい一生懸命にお絵かきをして人力車のイメージを伝えた。
すると顔つきが変わった。
「これは・・・何とかなりそうだな」
「既存のパーツを使えば・・・」
「そうだ。馬車用のソファーの在庫があったな・・・」
よし、これで何とかなるかもと。トーマス商会についたら。
マリーさんが号泣していた。
「グスン、メアリー様が迷子になられました。私の責任ですわ」
「今、人を出しているネ、あ、メアリー?」
そうか、はぐれたのか?しまったな。
トーマスさんに怒られた。
「ダメネ、使用人を心配させてはいけないネ!」
「ごめんなしゃいなの~」
「私じゃないネ、マリーに謝るヨ」
「はいなの~、マリーさん心配かけてごめんなしゃいなの~」
「グスン、無事で良かったです」
それから一月もたたないうちに人力車が完成した。
そしてプレゼンをした。
「新事業なの~、馬車で行くほどでもないけど歩くには遠い距離をカバーするの~」
「人はどうするネ」
「冒険者がいるの~」
冒険者という名の非正規雇用がいる。
食えない冒険者や、王都に仕事を求めて来た人に依頼しても良いだろう。
最近、無職者による犯罪が増えているらしい。
「収益はどうするネ?人力車を買い取らせるネ?」
「リースにしても良いの~、買取りもOKなの~、但し整備はハンス工房に依頼するの~」
「ふむ・・・」
トーマスさんは考え出した。
「まあ、良いネ、お金出すネ」
OKをもらい10台ほど生産をさせて・・・無職の人達に貸し出した。
「売り上げに関わらずにリース料は一律月銀貨一枚なの~」
これは・・・ボチボチ好評だった。
「注文追加なの~もう10台なの~」
「はい!」
「リヤカータイプも製造なの~」
「はい、メアリー様」
あれ、段々と増えていく。
しかし、良い事だけではない。寒くなってきた。寒いと苦情も来るようになった。
そりゃ、風を感じる仕様だからな。
じゃあ。
「モーリス商店に発注なの~、アナグマの毛皮欲し~の」
「ヒィ、売れた!」
膝掛けとして売り出した。
やることは山ほどある。人力車の管理、料金設定表、足し算引き算が出来ないお釣りトラブル、あらゆる事態を想定しなければならないな。
そして馬車ギルドとの調整だ。
「それは私に任せるネ、商売は戦争と同じネ」
「お願いしますの~」
「それとメアリー、ダメネ、あなた報酬の話はしていないネ、これビジネス人として失格だヨ」
あ、そうだ。衣食住だけで満足していた。まだ幼女だ。
「ゴホン、かなりの金額になっているネ、どうするネ?」
良い子なら貯金だろう。でも・・・ふと、ゼークト領の孤児院を思い出した。
「ゼークト領の孤児院に寄付して欲し~の」
「分かったネ、基金にするネ、残った分はメアリーの物ネ」
「はいなの~」
シスター元気かな。お年を召しているけど独りで頑張っていたな。
故郷は遠くで想うものメアリーで目を細めてゼークト領の方を見ておすまし顔を決めるが、王城が邪魔しているな・・・・
「メアリーはトーマス商会の幹部ね。一部決裁権をあげるネ」
「ヒイなの~」
裏組織の幹部か?これはとんだ大誤算だぜ。
☆☆☆王城
「陛下・・・ご報告があります」
「うむ。『失われた王女』のことか?何か分かったのか?」
「いえ・・・王都での雇用問題、解決しつつあります・・」
「そうか・・・引き続き捜索をせよ」
「御意」
・・・事態は少しずつ動き出した。




