森の少女
森の中、ルカは光の石を握り締め、足音を忍ばせながら進んでいた。葉の間をすり抜ける風、枝が軋む音、遠くで水が流れる音。すべてが冒険の鼓動のように感じられた。石の光が微かに揺れ、ルカの手に伝わる暖かさは心強さにもなり、不安にもなった。
「どうして僕が……こんなことに巻き込まれるんだろう……」
ルカは小さくつぶやく。心臓の高鳴りと共に、森の空気が重く、湿って感じられる。小さな森の生き物たちが、ざわざわと警戒する音が耳に届いた。
その時、風に乗って声が聞こえた。
「そこのあんた、持ってる?」
声の方向を振り向くと、少女が木の陰から姿を現した。黒髪を肩に垂らし、目は鋭く光っている。薄紫色のマントが風に揺れ、まるで森と一体化しているかのようだった。
「え、あ、ああ……持ってるけど……」
ルカは声を震わせながら答えた。
「危ないわよ。それ、黒翼の帝の狙いになってるものよ」
「黒翼の帝……?」
ルカは思わず後ずさりする。少女はさらに前に出て、森の奥を指差した。
「この森を越えた先に、あなたに必要なものがある。だけど、私も一緒に行く。守るから」
少女は自分の名前を「ミア」と名乗った。風を操る力を持つと言い、森の小道を軽やかに歩く。枝を踏むこともなく、草の上を滑るように進む姿は、まるで森そのものが彼女の一部であるかのようだった。
ルカは驚きと不安が入り混じった気持ちで、黙ってミアの後を追った。心臓が速く打つ。手の中の光の石が暖かく脈打ち、まるで彼の心の鼓動と呼応しているかのようだった。
森の奥深くで、ルカは自分の不安と向き合った。村を離れること、未知の世界に踏み込むこと、仲間と呼べる存在と出会うこと……すべてが新しい。心は期待と恐怖で揺れていた。
「ルカ、気を抜かないで。森には危険がいっぱいよ」
ミアの声にルカはハッとした。周囲の影が動き、何かがじっとこちらを見ている気配がする。
二人は小川のほとりで一息つく。水面に映る月光と光の石の青白い輝きが揺れ、幻想的な景色を作り出す。ミアは石を手に取り、軽く手のひらに置くと、風が渦巻き、石の光と反応して微かに輝きが増した。
「……これは私の力と関係してるのね」
ミアは驚きと興奮の入り混じった表情で言った。
ルカは石を握りしめ、決意を新たにする。胸の奥で冒険心が膨らむ。森の中、風がざわめき、木々の間から月光が差し込む。二人は互いに見つめ合い、無言のまま理解しあった。
その夜、二人は森の中で簡易の休息場所を見つけ、焚き火を囲んで座った。火の揺らめきが顔を照らし、石の光が優しく照らす。ミアは自分の過去や風の力のことを少し語った。ルカはそれを聞きながら、仲間としての信頼が芽生える感覚を覚える。
「……君と一緒なら、僕も頑張れる気がする」
ルカは自然に口にした。
「私もよ、ルカ」
ミアは微笑む。その微笑みに、ルカの胸は少し温かくなった。
森の奥では、夜の生き物たちが静かに息をひそめ、風が木々の葉を揺らす。遠くでフクロウが鳴き、森全体が二人を見守るかのようだった。ルカは石を握り、冒険への覚悟を改めて心に刻む。
翌朝、二人は森を抜け、光の石が示す方向へ進む。草原を渡り、小川を越え、丘を登る。光の石は手の中で微かに震え、次の目的地を示すように青白く輝き続けた。ルカは時折立ち止まり、景色や風の感触を確かめる。森を抜けた先には、未知の空と新しい冒険が待っている。
「準備はいい?」
ミアが振り返る。ルカは頷き、手の中の石を握りしめた。
「……ああ、行こう」
二人の影が長く伸び、草原を横切る。光の石が未来を示す灯火のように、二人の行く先を照らしていた。冒険は、確かに始まったのだ。




