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光の石

ルカは、いつもの崖の上に立っていた。潮の匂い、海鳥の声、風の音……すべてが彼の心を落ち着かせる。しかし今日は、どこか空気が違った。雲の形が奇妙に揺れ、遠くの海面がほんの少し光を反射している。小さな変化だったが、ルカはなぜか胸騒ぎを覚えた。


「今日も平和だな……」

そう呟くと、手を広げ、指先で風を感じた。空気の冷たさ、ほんのわずかな湿り気、潮の香り……細かい感覚まで心に刻む。


そのとき、空の彼方に青白い光が閃いた。流星のように落ちてくるその光は、やがて雲を割り、森の中へ消えていった。ルカの胸は跳ねた。これまで空を眺めてきた時間の中で、こんな現象は一度もなかった。


「……なんだ、あれ?」


胸の高鳴りを抑えながら、ルカは森へ駆け出した。木々の間を縫うように進む。枝に手を引っかけ、倒木を越え、落ち葉を踏みつける音が耳に届く。鳥は逃げ、虫たちの羽音が強くなる。まるで森全体が、彼の存在を意識しているかのようだった。


やがて、光の石が横たわっている場所にたどり着く。手に取ると、じんわりと暖かい。微かな振動が手に伝わり、まるで生き物のようだ。触れた瞬間、ルカの頭の中に映像が流れ込む。


見知らぬ空中都市、空を舞う黒い翼、輝く石……そして声なき声が耳に響く。「来たれ、選ばれし者……」


「……な、何だこれは……」


ルカは目を閉じ、深呼吸をした。心臓の鼓動が速まり、手のひらの石が熱を帯びる。これはただの石ではない。そう直感した瞬間、背後の森からかすかな足音が聞こえた。振り返ると、人影があった。


「……あなた、その石を持ってる?」

声の主は、長老でもなく、村人でもなく、森に住む何者か。だが今はまだ近づいてこなかった。


ルカは迷った。逃げるべきか、声の主に話すべきか。しかし、手の中の石が、答えを急かすかのように震えた。


「……持ってる、けど……」

口ごもるルカ。


夜になり、ルカは村の長老の家を訪れる。長老は火の明かりの下、静かに石を手に取り、深いため息をついた。


「ルカ、これはただの石ではない……失われた天空王国の鍵だ」


「天空王国?」

ルカは目を見開く。長老の声は、静かだが重みがある。


「遠い昔、この世界には空を支配する王国があった。しかしその力は闇に飲まれ、今は誰もその存在を知らぬ。お前が見た映像は、王国の未来を映すものかもしれぬ……」


ルカの心はざわついた。平和だと思っていた日常が、一瞬にして冒険の幕開けに変わった。

夜空を見上げ、ルカは星々を追う。遠くの星々のひとつが、確かに青白く瞬いた。あの光の石と同じ色だった。


「……僕は、この冒険に向かうんだな」

小さな決意を胸に、ルカは石を握り締めた。手のひらに伝わる暖かさは、まるで未来の可能性そのもののようだった。


森の奥、風がざわめき、木々が囁く。「選ばれし者よ、覚悟を決めよ……」


ルカは頷き、夜の森を歩き出す。冒険の始まりを、彼は静かに心に刻んだ。

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