新しい世界への鍵
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
再び、全員があの地下室に集まっていた。かすかな湿気と静けさが、まるで時間そのものを沈めているかのように漂っている。
ダンも、オドネルも、ジェンキンスも黙って立っている。その中央で、永門、湊、翔平が、長いあいだ眠り続けてきた機械のまわりから、埃と蜘蛛の巣を取り除いていた。
超音波送信機。その隣には、無機質な光沢を放つあの巨大なコンピュータが静かに佇んでいる。
古いどころか、むしろ世界で最も進んだ計算機の一つだと、見るだけで分かった。
しばらくして──
永門がふっと息を吐き、こちらへ向き直る。
「そろそろ、話しておくべき時ですね」
その声音は柔らかいのに、どこか避けられない重みがあった。
湊と翔平も、それぞれうなずく。
「俺たちは……“コグノコープス”の研究員だ。神経生体技術の医療応用を研究する組織だよ」
湊の言葉は淡々としていたが、その奥には長い時間を抱えた影が潜んでいた。
レイジと又三郎が息を呑む。
「君たちの両親──ユキチさんとマコトさんは、かつてコグノコープスに所属していた。だが、会社が進もうとしていた方向に強く反対し、逃げ出した。そして……この超演算機を動かす“鍵”となるコードを持ち去ったんだ」
翔平が、清掃で汚れた手を胸の前で組みながら続ける。
「彼らが亡くなったと知った時、俺たちは思った。きっと……信用できる場所へ、コードを託したのだと。そして辿り着いた結論が──家族だ」
永門が、ゆっくりと二人に歩み寄る。
光の少ない地下室で、その表情はどこか祈るようだった。
「レイジ君、又三郎君。もし君たちがコードを渡してくれれば、この機械は完成する。
そして──人の心を苦しめる“記憶”も、“感情”も、“それ”も……すべて痛みから解き放つことができる。
誰も、もう苦しまない世界だよ。君たちも、その世界の一部になれる」
静かな声が、地下室に染み込むように落ちた。
「……だから、お願いだ。コードを教えてくれないか」
しかし、二人は同時に首を横に振った。
「知らない。そんなもの……聞いたこともない」
湊がそっと二人の肩に手を置く。その手つきは驚くほど優しい。
それが逆に、不気味なほどに静かだった。
「思い出してみてほしいんだ。ほんの少しでいい。
人類の未来が、君たちの記憶にかかっているんだよ」
しかし又三郎は、固く目を閉じて再び言った。
「……本当に、知らないんだ」
静寂が落ちる。
次の瞬間──翔平が、わずかに顎で合図した。
ダン、オドネル、ジェンキンスの三人が、一斉に動き出す。
無言のまま、レイジと又三郎の両腕を押さえ込み、床へと押し倒した。
地下室の空気が、きしむように重く沈む。
そこで、章は幕を閉じる。
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