静かな夜、ポーカー卓の向こう側
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
その週末、オドネルから招待を受けた玲司と又三郎は、彼の家を訪ねることになった。ジェンキンスとダンも来るらしい。ポーカーをしながら軽く飲もう──そんな、気楽で穏やかな集まりのはずだった。
オドネルの家に着くと、彼はいつもの朗らかな笑顔で二人を迎えた。
「よく来てくれた。紹介したい人たちがいるんだ」
リビングに通されると、そこには三人の中年男性が静かに座っていた。三人とも五十代半ばほどで、日本人のような優しい顔立ちをしている。
「雪上湊先生、六山長門先生、清谷翔平先生。俺が学生の頃に哲学を教えてくれた恩師たちだ」
三人は落ち着いた笑みを浮かべて、軽く頭を下げた。その雰囲気はどこか 人畜無害そのもの といった感じで、又三郎は思わず姿勢を正してしまった。まるで実家にいる優しい親戚のような、そんな空気が漂っていた。
全員がテーブルにつくと、オドネルがキッチンから大皿を運んでくる。
「ベニエとカナッペだ。好きなだけ取ってくれ」
甘い香りとバターの匂いが部屋に広がり、自然と笑みがこぼれる。
ポーカーの最初の数ラウンドは、和やかな雑談と軽い冗談で進んでいった。しかし、いつの間にか会話は別の方向へと流れていく。
「記憶というのは不思議なものですね」
雪上がカードを置きながらつぶやいた。
「人は、覚えているから苦しむのか。それとも、思い出そうとするから苦しむのか」
六山が穏やかな声で続ける。
「でも、そこにこそ生きる価値が宿るのかもしれません」
清谷が微笑んだ。
重くはない。ただ静かで、心にすっと染み込むような話題だった。玲司と又三郎も、いつの間にか真剣に聞き入っていた。
ベニエの砂糖が指先に残るころ、テーブルの上にはポーカーの手札と哲学的な問いが並んでいた。笑い声も、考え込む沈黙も、すべてが心地よく混ざっていた。
やがて夜が更け、集まりはお開きとなった。
「送るよ。夜道は冷えるからな」
オドネルはいつものように親切で、玲司と又三郎を家の前まで歩いて送ってくれた。三人で並んで歩くその姿は、ただの友人同士のように見えるだろう。
深夜の風は少し冷たかったが、その夜の記憶は妙に温かかった。
こうして静かな夜は幕を閉じた。
――次に訪れる嵐を、誰もまだ知らないまま。
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