眠りの底でひびく子守歌
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ふたりに投与された真実血清は、やがて静かに効果をあらわし始めた。
地下室の空気は濃く、湿り気を帯び、どこか遠いところで何かが軋むような音がした。
やがて、松三郎と玲司のまなざしが宙の一点に固定される。
そのまま、ふたりの口がゆっくりと開いた。
「──むかしむかし、ふたりの騎士が……」
それは、彼らが幼いころ、ユキチとマコトに抱かれて眠る前に聞かされた子守歌だった。
龍を封じるために、自らの血を捧げ、城の扉を閉ざしたふたりの騎士。
その封印は血の継承者にしか解けない──そんな物語。
ふたりの声は震えてはいない。
ただ、深い湖の底から湧き上がってきたように淡々と、どこか痛ましいほど静かだった。
歌が終わると同時に、ふたりのまぶたがふるえ、意識がゆっくりと地上へ戻ってきた。
ナガトが短く息を飲む。
その隣で、ミナトが思わず眼鏡の位置を整えた。
ショウヘイはまるで予想していたかのように目を細めていた。
「……そうか。歌そのものが“鍵”だったのか。」
ナガトは低くつぶやく。「血統、そして本人の意思。それでしか起動しないように仕組まれていたとは。」
ジェンキンスとオドネルが、玲司と松三郎の腕に小さな切り傷を作り、採取した血を端末に流し込む。
だが──
《Access denied》
冷たい電子音が地下に響いた。
ミナトが息を吐く。「やはり、血だけでは足りないか……。」
少しのあいだ、彼は松三郎の顔をじっと見つめる。
その目に、ほんの一瞬だけ、かすかな迷いの影が揺れた。
だが、その影はすぐに消える。
「意思だ。」
ナガトは静かに断言した。「彼ら自身が望んで鍵を開く。それが条件なんだ。」
そして、奥の棚から、奇妙な“仏頭”の形をした二つのヘルメットを取り出す。
柔らかな金属と陶器のあいだのような質感。
光を吸い込むように鈍く、静かに沈んでいる。
「初期実験で使った装置だ。」ショウヘイが説明した。「超音波の照射で“最初の思考”を消す、あのプロトタイプだ。」
ミナトがふたりの前にしゃがみ、落ち着いた声で語りかける。
「覚えておいてください。新しい世界では──あなたたちも、あなたたちの母親たちも、もう苦しまなくていい。」
唇の端に、笑っているのか哀しんでいるのかわからない表情が浮かぶ。
「もう、何も思い出す必要はない。」
ヘルメットがゆっくりと松三郎と玲司の頭にかぶせられる。
内部の冷たい金属が触れた瞬間、ふたりの視界は白に塗りつぶされた。
世界が消えた。
声も、記憶も、痛みも、祈りもない。
ただ、底のない静寂──
静寂の奥底で、かすかに揺れる子守歌だけが、最後に残った。
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