宝石が消えた理由
私の大切な宝石が、なくなってしまったわ。
とても高価なものなのに。
私がなくしたなんて考えられない。
きっと誰かが盗んだのよ。
一体誰が、私の大切な宝石を盗んだのかしら。
いつも私に家事をすべてやらせる旦那かしら。
具合が悪い時も全然いたわってくれないから、私のものも平気で盗むの違いないわ。
それとも、いつも好き勝手に家に上がり込んでくるママ友かしら。
冷蔵庫のものを勝手に食べたり、古着だから使わないでしょと勝手に持って帰るような人だから、宝石もあれこれ理由をつけて盗んだのかも。
もしかしたら、きつく注意したことのある習い事の生徒かしら。
向上心のある生徒だから、びしばしお琴の指導をしているけれど、心の中ではうっとおしく思っているかもしれないわ。
私への嫌がらせで盗んだのかも。
ああ、だれもかれもが疑わしいわ。
「おかあさんただいまー。あれ、まだご飯作っていないの? おなかすいたよ」
あらいけない。
もうこんな時間だわ。
夕飯の支度忘れてた。
息子は成長期だから、健やかに育ってもらうために、どんどん食べさせなくちゃね。
「あ、そういえばお母さん。習字のぶんちんなくしちゃったから、ちょうど良さそうな石かってに持ってちゃったよ。はい返すね」
私は、加工されていない状態の宝石が、息子の習字道具入れから出てきたのを見て脱力した。