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第15話(その4)

 吉田の足腰は現役時代に鍛え上げたままだが、日常の緩んだ生活が影響してか思うように動けない。金属が擦れ合う音と、梱包材の埃が混ざる独特の臭いが充満する中、様々な音が響き渡る。


 そこで男を見失う。

 仕方なく次の甲板へ行こうと階段室へ入った時だった。


「あれは……」と、思う間もなく息がつまる。

 必死で目を開けば、階段の上が煙っている。


 襷掛けにかけたウォーキートーキーを手にした吉田の手は震えていた。

「メーデー・メーデー!」

 と掠れた声で叫び、監視室に連絡を入れる。

 予め遭難信号を合図に決めていた。


「はい、吉田さん――、どげんしたとですか?」

 どこか間の抜けた声が雑音に混じって響く。


 吉田は首に巻いたタオルを口にして叫ぶ。

「通行口から登って3層目、そこの階段で煙が上がっとるけん――」

 そう言って息を吸うなり煙で息が詰まる。


 咄嗟に体を低くした吉田は、息を継いでまた口をタオルで塞ぐ。目を上げると、階段の踊り場で砂袋が燃えている。耳元で聞こえる微かな炎の音が、心臓の鼓動と重なる。視界は白煙に飲まれ、手元さえもぼやけて見えない。


 煙が目を刺し、息苦しさが増していく。それでも吉田は足を止めない――現場の責任を背負う者として。駆け寄って砂袋を蹴るとばらけた。


 と、小型の固形燃料が燃えていた。

「消えろ――」と叫んで砂を被せる。

 ほんの数分……息が続かない。

 そこで気を失った。


 激しい炎が立ったのであろう、煙が充満して息苦しいばかり。そこへ着いた監視員の手で、吉田は船外へ担ぎだされた。だが監視所へ戻った所で、不審者を見た監視員が叫んだ。


「おい――、ちょっと、そこのヘルメットを被った――」

 通用口から出てくる男に声をかけた。

 だがそれに気づいて男は船内へ引きかえす。

 直ちに監視員2人が男の後を追った。


 彼らが戻ったのは5分ほど経った頃、若い男を取りかこむようにして事務所へ入った。その男、まだ二十歳前後か顔に幼げな表情が漂っている。


「ちょっと話を聞くだけやけん、まあ、ここへ座らんね――」

 監視員はそう言いながら、男を事務所の椅子に座らせた。


 確かに男は本工の制服を着て、艤装課のヘルメットを被っている。そ

 れなりに気を遣いながら、吉田が男に問いかけた。

「所属と名前を教えてくれんね」

 と、問うが、体を強張らせる男は下を向いて黙ったまま。


「何も言わんのなら、身体検査するしかなかね」

 吉田がそう言うと、監視員が男を抑えてポケットに手を入れる。


「何ね、これは」

 と、その手の中で、黒く焦げた小型の金属片が鈍く光る。


 監視員たちは、その焦げた金属片を見つめたまま動けなかった。

 それが放火を示す証拠だと気づいた瞬間、場の空気は一変した。                   


(第16話へつづく)


 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 第15話では、会議の場面を通じて組織の歪みを浮き彫りにし、現場での不審火発見シーンでストーリーに緊張感を持たせる構成を目指しました。

 不審火の謎をめぐる今後の展開に加え、柿岡たちがどのようにこの危機に立ち向かうのか、ぜひ次回もお楽しみいただければと思います。ご感想やご意見もお待ちしています!

 船木千滉

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