第15話(その3)
所長が招集した会議が伯仲する中、1番船の艤装工事は間断なく続いていた。
艤装岸壁を2基のジブクレーンが忙しく走り、トラックやフォークが運んできた荷物を甲板上まで吊り上げ、それを小型重機で船内へ搬入する。それらの荷は防熱材や家具部材、電装ケーブル、エアコン類など多岐にわたり、それぞれが厳重に梱包されていた。
それを所定の位置に置く時、下敷きにダンボールを使う。最も火を嫌う進水後の船内は、そうして可燃物に満たされていく。そこで数多の作業員が様々な作業を行うのである。
すべては工程表に進んでいくのだが、そのすべてが段取り通りに行くわけではない。
「おい、そっちは、まだ配線が終わってないぞ!」
「いや、これは先に入れんと、後が詰まるんだ!」
「そんなもん先に入れたら仕事にならんけん、外へ出しとかんね――」
「そげんこと言うても、通路の方はカーペットでいっぱいやけん――」
「そんなら隣の部屋へ入れとかんね。部屋は一杯あるっちゃけん――」
そんなやりとりで電装と内装の作業員がぶつかり、居室区画は足の踏み場もないほど。その結果、可燃性カーペットや家具が混在し、火を使う環境の中に放置されるのである。
2002年8月、1番船の試運転まであと3か月。関係者立ち合いの下で行われる海上公試運転は、契約上の大きな通過点である。もしこれが伸びたら、分割払いの契約金も入らない。それでなくともコストが増え続ける中、本社が最も嫌う工程遅延は避けたかった。
「なんとしてでも、予定通り試運転を実施し、契約通りに引き渡せ――」
それが本社から渡部所長に下された業務命令である。
それは全部門の管理職に伝達され、工程厳守と共に、一層の防火が命じされた。
だがそれで特保部が増員された訳ではない。
ただそこで工作部長は、元検査主席の吉田を長として嘱託5名に監視を委ねた。彼らは艤装岸壁沿いの倉庫を監視事務所にして、舷側の工事通行口の見張りを始めていた。
そんなある日の朝、通行口付近にいた1人の嘱託が不信な顔で事務所に戻ってきた。
「吉田さん、あん男……、あんまり見たことはなかですね?」
そう吉田に話しかけた。
他の監視員と共に吉田が、通路口下の喫煙所を注視する。
「なんね、下請けの人間じゃなかと?」
「あのヘルメット、艤装課のもんです」
それを聞いた吉田はヘルメットを被り、「ちょっと見てくる」と言って外へ出た。だがその時、男は忙しなく煙草を消して通行口へ。吉田も後を追って船内へ向かったのだった。
(つづく)