表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

09 拷問イベント2

「……聖女、聖女、聖女……?」

 聖女はアリアだ。

 まだリチャードにはそこまで明かされてないのか。


 自白剤が身体中に回り切る前に、ちゃんと言わないと!


「聖女のことなんて言わないわっ」

「言わないということは知ってるんだね」


――くっ!

 つい言ってしまった。


「じゃあエリザベス。聖女は誰なんだい?」

「言わないったら言わない……っ! 聖女についてはウチの国家秘密よ。他国の人に……密偵(スパイ)なんてしてる人に言いたくないんだからっ!」


 言えないじゃなくて、言わない。

 嘘をつけないから私は本音で語る。


密偵(スパイ)……? なんでエリザベスは僕のことをそう言うんだ?」

「知ってるからよ。あんたが密偵ってことも、ハニートラップで色んな女を口説いて、はたまた拷問まで平気でする最低野郎って、私は全部知ってるんだから!」


 自白剤の効果なのだろうか。

 全部口に出してしまう。


「――そんなことまで知ってたんだね。嬉しいなぁ。エリザベスにとって俺は眼中にない(ただ)の許嫁だと思ってたんだけど、ちゃんと俺のことを知っててくれたんだ」

 リチャードは一切否定をしなかった。

 認めやがった。


 それにしてもリチャードの思惑がよくわからない。

 聖女を探しているのはわかった。

 けど、エリザベスの写真が一面に貼られているこの部屋はなんなんだ⁈


 もしかして、テスト前とかに『打倒!歴史!』とか書いて壁に貼って意気込むように、『打倒エリザベス!』と意気込む用の部屋なんだろうか。


「どうせ聖女を見つけたら、私との婚約を解消して、聖女の方に行っちゃうんでしょ。私のことを眼中に収めてないのはあんたの方よ!」


 聖女のことを知ったら裏切るくせに。

 私たちの婚約は紙切れだけの存在だ。いつでも破いてしまえる。


「言いたいことは沢山あるけど、一つずつ解決していこうか。時間はたくさんあるからね」


 リチャードはそう言って、いつも通りの爽やかな笑顔を浮かべた。

 時間――

 そうだ! 寝ていたから時間がわからなくなっていたけれど、もう結構な時間が経過したんじゃないだろうか。

 アンナに影武者をしてもらうのにも限界がある。

 けれど部屋の中に時計はなかった。

 しかもこの部屋、窓もない。


 蝋燭が揺れている。この部屋の光は吹いて消えるほど儚いものだった。


 これじゃあ、現在の時間が全くわからない。

 朝なのか、まだ夜なのか……。


「殿下にはちゃんと伝えてるよ。婚約者を暫くお借りしますって。だから時間は気にしなくて良い」

「――……」


――あの馬鹿兄貴!!!

 リチャードが婚約者だから「良し」と安直に許可を出したのだろう。


「じゃあ質問を変えようか。最近城内に住んでいるあの子――えっと名前は……あぁそうだ、アリアだ。彼女が聖女なんじゃないの?」

「それは――」


 気づいてる。リチャードは見抜いてる。

 唐突に城に住まうことになった食客のアリア。しかも聖女が現れるとされるこの時期に、唐突に住まうことになった女の子。


「イエスかノーで答えられるよね?」


 私は顔を背けた。


「ねぇ、エリザベス」


 吐息が耳元に当たる。

 くそぉ。無駄にイケボめ……。


「おかしいなぁ。自白剤が足りないのかな? もっと入れないと駄目かな。あんまり入れすぎると廃人になっちゃうけど」


――脅されている。

 確かに自白剤の大量摂取は脳に影響を及ぼす。

 たくさん使われたら廃人になる可能性は高い。


 私はまだみくびっていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 優しく花を贈ってくれる誠実な一面もあるのだと。


 違う。

 この人の本性はやっぱり鬼畜の拷問狂いなんだ。

 聖女の情報を聞き出せればエリザベスは用済み。それなら廃人になろうと構わないのだろう。優しさなんて欠片もない。


『愛してる』という言葉はやっぱり嘘だったんだ。


 涙が溢れてくる。

 目元を拭いたいけど、腕を動かせられない。


「あぁ……泣いちゃったかぁ」


 リチャードはそう言って、指先で私の涙を拭ってくれた。


「怖い? エリザベス。 それならちゃんと言葉にしてよ。聖女はアリアなんだね」


 私は目の前にいる悪魔が恐ろしくて、声が出せなかった。

 だから、首を縦に振ってしまった。


「そっか。やっぱりあの子が聖女なんだ」

「秘密……ちゃんと話したからっ……! お、お願い。ここでのことは誰にも言わないからぁ、聖女のアリアと結婚してよぉ。私は邪魔しないから。ちゃんと婚約も破棄するから……お願いっ、お願い……解放して……」


 私は涙声で縋るような言葉を吐いた。


「そっかそっか。エリザベスは俺が聖女と結婚すると思ってるんだね」

「だってそうでしょ? 聖女を手に入れるのが貴方の目的なんでしょ?」

「まぁ、そうだね。聖女が欲しかったのは事実だ。でも、それは任務で俺の私情とは関係ないんだ」


「私情……?」


 恐る恐る尋ねてみる。


「そうだね。さっきからずっと気になってる。どうしてエリザベスは俺と婚約解消がしたいのかな?」

「それは……アリアがいるから……」

「聖女は関係ないよ。俺には君が『俺から逃げようとしている』ようにしか見えない。


 実際そうですし。


 婚約者をこんな椅子に縛りつける人なんて、全く持って信用できない。

 早く城に帰りたい。


 まず城に帰ったらお兄様にドロップキックを喰らわそう。

 でも……私は城に帰れるんだろうか……?


「うーん。なんだかエリザベスは怯えているみたいだし、ちょっとおまじないをしようか」


 そう言って、彼は私の目元に布を当ててきた。

 目元が塞がれて、何も見えなくなる。


 真っ暗闇の中、耳元にザラリとした生暖かい何かが触れた。

 吐息が混じっている。耳たぶを舐められている!?


「ちょっ……やぁっ……!」


 うなじに何かが触れる。彼の手だと気づく。

 びくんっと身体が反射的に動いた。


 次は何をされるのか、まったくわからない。

 彼の行動が予想つかない。


 もしかして鞭とか持ってるのかもしれないし、追加の自白剤を作っているのかもしれない。

 でもやたらと身体に触れてくる。


「……あぁ、やっぱり敏感な身体だね。眠っているときに確認したけど……その時もたくさん反応してくれたし……」


――眠っていたときに何しやがったー!?!?


 そうだ。私は無防備に眠ってしまっていたのだった。

 彼の前で。しかもベッドの上で。


「な、何をしたのよ……」

「さぁ……何をしたでしょう。ヒントは……そうだなぁ、いやらしいことだよ」


――本当に何しやがったー!!!!


 確認ってなんだ?

 私は眠っている間に、彼に何を確認されたの?


「……エリザベスは今までの俺のことを知っていて、軽蔑せずに接してくれていたんだね。こんなに汚れた俺に」

 足に柔らかいものが触れる。唇……だろうか。


「優しい君の本性を見れて、俺は今すごく機嫌が良いんだ」

「機嫌がいいなら拘束を解いてよっ!」


「嫌がっているエリザベスを見ていたいから、解放してあげない」

「そんなに……そんなに私を嫌ってるの!? 私が何をしたっていうのよ!」


 私は声をあげる。早くアリアとくっつけばいいのに。

 聖女について、私はもう答えを吐いた。用済みなのに、なんでこんなに追い打ちをかけてくるのか……。

 そんなに嫌われることをした?


「……やっぱり勘違いしてるようだね、エリザベスは」

 リチャードの吐息を近くに感じる。

 ……その瞬間、唇に触れられた。


「好きだよ。エリザベス。心から君のことを愛している」


 甘い言葉だった。

 エリザベスにもう話すことなんてない。

 なのに、彼は気を持たせる言葉を吐く。


「……私は……私は……」


 自白剤と甘い言葉のせいで頭が回らない。

 なんて答えたらいいんだろう。

 あぁ、本当のことを言えばいいんだ。


 私はリチャードのことを好き。

 だけど――


「……貴方を信用できない」


『愛している』なんて言葉は信じない。


 お願いだから、この境界線を超えないでほしい。


 境界線を超えられたら、私はきっと本気でリチャードのことを好きになってしまう。

そしてまた傷つくのが目に見える。


 お願い。もう私に近づかないで。


10話で終わる予定だったのですが、拷問イベントが終わらない……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ