06 ルート確定
タイトルを変更しました。
ゲームのストーリーが進んでいく。
ヒロインのアリアは攻略キャラ全員と出会った。
私は常に隣で反応を見守っていた。
フラグを見逃さないように。
アリアの瞳が一番輝いていたのは、リチャードを見た時だった。
「ルーカスお兄様の甲斐性なし!」
「突然何を言い出す」
私はまたノーノックでお兄様の書斎に乗り込んだ。
ルーカスお兄様に甲斐性がないから、アリアは、ヒロインはリチャードにときめいている。
出会いイベントも、リチャードと会う頻度の方が多い気がする。
私になにか用事が入った時、リチャードとアリアはよく出会う。
この前は談話室で、二人きりで話しているところを見た。
『リチャード様は本当に素敵な人ですね。エリザベス様が羨ましいです』
『アリア嬢も素敵ですよ。貴方と結ばれる男性が羨ましい』
リチャードは甘い声でアリアに囁いていた。
本来ならアリアは自重するべき立場だ。
リチャードはエリザベスの婚約者なのだから、二人きりで話すなんて言語道断。
でも、それをはっきりと「やめてほしい」と、私は言えなかった。
アリアとリチャードの親愛度はどんどん上がっていっている。
このままだとアリアはリチャードとくっついて、エリザベスは拷問ルートまっしぐらだ。
そもそもアリアはルーカスお兄様と結ばれるべきだ。
そのためにこの城に匿われているのだから。
「全部お兄様が悪いんです! アリアに対してちゃんと誠実でいますか? ちゃんと話をしていますか? このままじゃアリアを他の男に盗られちゃいますよ!」
「……なんというかなぁ。アリアは確かに聖女だ。俺と結婚する話は進んでいるけど……俺はアリアの意思を尊重したいと思ってる」
「はぁああああ!?!? そんなふにゃふにゃした回答求めてないんです! ちゃんとアリアは『俺のもの』だって無理にでも引き寄せてください!」
「人をモノ扱いするのは良くないぞ」
「うるさいバカ兄様!」
どこからどうみてもルーカスお兄様とアリアの親密度は上がっていない。
「今、俺はアリアよりも、エリザベスのほうが気になっている。最近のお前はなんというか……余裕がないぞ。まぁそんなところも可愛いが」
このシスコンがっ!
妹を心配する前に自分の婚約者を心配しろ!
……という言葉をぐいっと飲み込む。
駄目だ……。
ルーカスお兄様は『優しすぎる』
ヒロインの意思を尊重しようとしている。
つまり、アリアを無理やり自分のものにしようとしない。執着がない。
そもそも縁談関係の話に、兄は興味がないんだ。
だって愛がないのだから。
このまま放っておけば『聖女』が幸せならそれでいいと見守るポジションになってしまう。
ただ、王子としてそれはどうかと思う。本音を言えばもう良い年齢なんだから、さっさと子どもを作ればいいのに。
第一王子ルーカスお兄様の子は、つまりこの国の次の王になるべき宿命を持つ子になるのに。
「とにかくルーカスお兄様はアリアを大事にしてください! ちゃんと花を贈ったり、愛の言葉を囁いたり……色々しっかりしてください」
「うぅむ。……あぁ、そうか。エリザベス。お前、リチャードが盗られそうだと思って焦っているんだな」
いきなり図星を当てられて、息が詰まった。
「大丈夫だよ。リチャードはお前しか見てない」
ルーカスお兄様は笑っていいのけた。
「何も知らないくせに……っ!」
リチャードが密偵なことも。
私以外のたくさんの女性と関係を持っていることも。
そして目的のためなら手段を選ばない――拷問すらしてみせる男であることも。
全然知らないくせに。
リチャードは私しか見てない?
そんなわけない。逆だ。
――リチャードは私を見ていないんだ。
視界が滲む。
虚しくてたまらない。
なぜかわからないけど、苦しくて堪らなかった。
私だけに向けてくれていた微笑みを、アリアは知っている。
私だけに囁いてくれていた甘い声も、アリアは知っている。
誰も私を見てくれない。
私はまた一人になる。
「……っく……ふぇ……うわぁぁあん……」
涙が溢れて止まらなかった。
「え、エリザベス? どうしたんだ、いきなり……」
おたおたとする兄の横で、私は大泣きをした。子どものように、わんわんと声をあげて。
感情が溢れて止まらなかった。
死ぬのが怖い。
奪われるのが怖い。
愛されないのが怖い。
そして、一週間が過ぎた。
ダンスの稽古が長引いてしまった。
確か今日はリチャードが家に来るはずだ。
もう来ているかもしれない。
私は談話室まで急いで向かった。
談話室の扉の向こうから、男女の会話が聞こえた。
「……リチャード様、こんなことを言って戸惑わせてしまうかもしれません」
アリアの声が扉越しに聞こえる。
「……私、本当は……本当は……エリザベス様には申し訳ないのですが、貴方をお慕いしております。好きなんです。優しい笑みも、甘い声も、すべてが好きです」
扉越しに聞こえたのは、愛の告白だった。
――はぁああああ!?
危惧していたことが起こってしまった。
アリアがリチャードルートを選んでしまった。
私は談話室に入れなかった。
リチャードがどういう答えを返すのか、知りたかった。
断ってほしい。私を選んでほしい。そう強く願いながら。
「……俺も貴方を好ましく思っております。花のように美しいアリア。――禁断の想いだとはわかっております。エリザベスには申し訳ないけれど……俺は貴方を愛しています」
甘い囁きは、リチャードの声だった。
この女の敵!!!
けれどルートは確定してしまった。
ヒロインが選んだのはリチャード。
つまりリチャードルートだ。エリザベス拷問ルートに。
折り返し地点です。リチャードルートに入ってしまったアリア。エリザベスはどう行動するのか、お楽しみいただけると嬉しいです。