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04 強硬手段に出ることにしました。

 まず情報を整理しよう。


 この物語のヒロインは『聖女』だ。

 聖女は必ず私の住むリウォード国に生まれることになっている。

 まず聖女が見つかれば騒動になる。


 だって、聖女は50年に一人生まれると言われているほど希有な存在なのだ。

 だから見つかっていれば騒動になっているはず。


 まだ私の耳にその情報は入っていない。

 というよりも国の情報を耳にすることはあまり無い。

 私はリウォード国の末姫で、政略結婚用の存在なのだから。


「でも、まだ希望はあるわ……」


 私の兄、つまり第一王子である『ルーカス』お兄様になら情報が入っているはずだ。

 なぜなら、兄はこのゲームの攻略対象なのだ。しかもメインキャラクターでパッケージのセンターを飾っているほど。

 ついでに第二王子である『リューク』お兄様も攻略対象である。


 リチャードお兄様のシナリオは、王道シンデレラストーリー。

 聖女である主人公が王子に見初められて、王妃になる物語である。


 ついでに思い出したけれど、第二王子のリュークお兄様のシナリオは、第一王子のお兄様に劣等感を抱いている第二王子を聖女が慰めて一緒に乗り越えていくストーリーだ。


 ゲームの舞台はこのリウォード国なのだから、攻略対象がゴロゴロ転がっていてもおかしくはない。


「――ルーカスお兄様!」

 私は兄の書斎にノックなしで入った。


「なんだ……エリザベスか。いきなり入ってくるな。ノックは常識だろう」

「急用なので」

「しかたないなぁ。あぁ、エリザベスは今日もかわいいなぁ」


 私と同じ漆黒の髪と、ルビーのような赤い瞳。

 整った顔――イケメンで更にイケボである兄。

 このルーカスお兄様は、実は超シスコンなのである。


 ゲーム内で明かされることはなかったけれど、実は超仲良しな兄妹なのだ。


「お兄様。『聖女』は見つかってますか?」

 全力疾走したせいで、ぜぇぜぇと息を吐いてしまう。

「大丈夫か、エリザベス」

「いえ、大丈夫じゃないんです。『聖女』は見つかってるんですか?」

「いや、そんな情報は入っていない」

「絶対ですか? 嘘偽りはないですか?」

「疑り深いなぁ、俺の妹は。俺がお前に嘘を吐くわけないだろう」

 ルーカスお兄様はそう言って、私の頭を撫でてくれた。


 ヒロインはまだ見つかってない。

――確か物語はヒロインが聖女に目覚めて、ルーカスお兄様と出会う共通ルートがあった。

 つまり共通ルートにすら辿り着いていないのなら、まだ物語は始まってない。


 ということは。

 リチャードの野郎、ヒロインじゃない女にも『愛してる』なんて言ってたのか!


 クソ男だわ! 女の敵だわ!

 彼の設定は確かにハニートラップを平気で行う密偵なんだけど……!

 ゲーム内ではときめいてたけれど、実際に存在していると考えると、クソ男としか感じない。


 なんで私、リチャードなんかにときめいていたんだろう。

 やっぱりフィクションとノンフィクションは全然違う。


 ヒロインが見つかっていないなら、幸いだ。

 リチャードルートに入らなければ、エリザベス拷問イベントは存在しなくなる。


 ルーカスお兄様ルート、もしくは第二王子のリュークお兄様ルートに誘導すれば、私に活路が芽生える。


 そのために私がすることを考えよう。


 まず道具を集めたい。

 リチャードから逃げるための道具を。


 このゲーム内には、『魔具』と呼ばれる物質が存在している。

 魔具はレアアイテムで、一瞬で任意の場所に飛べる空間転移の魔法や、対象人物を追跡する機能など、用途は様々だ。

 空間転移の魔具を持っていれば、リチャードに捕まっても逃げ出すことが出来る。


「お兄様、空間転移の魔具をください」

「いきなりだな……。なんでそんなものが必要なんだ」

「理由はその、色々あって……お願いします。どうしても必要なんです」


 婚約者に殺されるなんて正直に説明しても鼻で笑われるだろう。

 だからもう説明は省略してやる。

 シスコンのお兄様ならきっと渡してくれる。


「……だめだ。お前はこの国の姫だ。お前にとって、この城は一番安全な場所なんだ。どこかに飛ぶ魔具なんて渡せるわけがない」

「どうしてもですか?」

「……そんな上目遣いで強請っても駄目だ」

「どうしてもですか?」

「二回も言うな。断りづらくなるだろう」

「……お兄様?」

「くっ……駄目なものは駄目だ!」

 兄はどんっと、机の上を叩いた。


 おねだり作戦は駄目か。

 確かに兄の言う通り、姫がその辺の街を歩いてたら騒動になる。


 それならもう強硬手段に出るしか無い。


「わかりました。お兄様なんて嫌いです」

 私はそう言って、踵を帰した。

「――エリザベス、わかってくれ……っ!」

 シスコン兄の苦渋の声を聞きながら、私は次の作戦に出ることにした。


「リュークお兄様も、きっと同じことを言うわ。だったらもうやるしかない……」


 私は廊下を歩いていたメイドに声をかけた。


「アンナを私の部屋に呼んで」

「は、はい……姫様」

 私の迫力に気圧されたメイドは、慌てて走っていった。


――アンナ。彼女は私の影武者だ。

 彼女をここに置いて、私は街に行く。

 そしてヒロインを見つけて、ルーカスお兄様に出会わせる。

 ヒロインの住所はゲーム内で出てきたから知っている。


 まさに強硬手段。

 だけど、これしか手段はないんだ。


「エリザベス様、本当に街にいかれるのですか? お供も付けずに?」

 唐突に呼ばれたアンナは困惑していた。

 私と同じ色の髪、同じくらいの身長のアンナ。

 ベッドに寝込んでもらうふりをすれば、数時間くらいは誤魔化せるはずだ。


「えぇ、どうしてもやらないといけないことがあるの。すぐに戻って来るから、時間を稼いで頂戴」

「……わかりました、姫様」


――私はアンナのメイド服を着て、念のためメガネをかけて城から脱出をした。

 メイド服で街を歩けば目立ってしまう。

 だから手頃な店に立ち寄って、私は平民の女性用の服を買って、その店で着替えた。

 これなら街を出歩いても不自然じゃない。


「よし、あとはヒロインに会いにいくだけよ!」

 順調だ。

 ヒロインの家はそう遠くではない。馬車を使えば一時間くらいで――

――と考えていたら、誰かに肩をぽんっと叩かれた。


「誰に会いに行くの?」


 聞き覚えのある声。

 そんな、嘘……。

 変装して城を抜け出したのに。

 あとは馬車に乗るだけだったのに。


「こんなところで会うなんて偶然だね、エリザベス」


 そこに立っていたのは、一番会ってはいけない人。

 見覚えのある茶色い髪に青い瞳。爽やかな笑顔を浮かべて『彼』は立っていた。


 衝動的に城を抜け出した。作戦なんて立てていなかった。誰も私の行動を予想している人がいるわけがない。


 それなのに……なんでよりにもよってリチャードに出くわすの!?


じわじわと気づいてくださると思いますが、この物語は決してシリアスストーリではないです。

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