10 拷問イベント3
「信用できない、かぁ。それじゃあ一つずつ誤解を解いていこうか。ねぇ、エリザベスは俺に嘘をついたよね。ちゃんと謝れるかな?」
「嘘……?」
どれが嘘なのだろうか。
嘘と考えると、私もたくさんの嘘を吐いてきた。
それは私が生き残るための術で……。
「黙ってたら、自白剤をいれるよ」
「しゃ、喋るっ……! 喋るからっ……!」
廃人になんてなりたくない!
嘘といえばたくさんある。
まず、あぁ……あれだ。
「乙女じゃないって……嘘を吐いたわ。私は……異性と触れ合うどころか話せてもいなかったわ……」
つい張ってしまった虚言。
彼を怒らせてしまったのは、この発言かもしれない。
「そうだね。それはさっき確認させてもらったよ。じゃあ、ごめんなさいって言おうか」
――『確認させてもらった?』
背筋がぞぞぞっと凍りついた。
え? どうやって?
「ど、どうやって確認したの?」
「あぁ、大丈夫だよ。エリザベスの身体は今も純潔のままだ」
「そうじゃなくっ! どうやって確認したのよ!」
「そんなことよりも、ごめんなさいは?」
冷たくて細いものが首筋に当てられる。
もしかして、追加の自白剤!?
「ご、ごめんなさい! 嘘をついてごめんなさいっ!」
「よく言えました。えらいえらい」
頭を撫でられる。
どうやら追加投与は避けられたらしい。
「……どうやって確認したの?」
「そういう魔具があるんだ。乙女じゃないと反応しない魔具が。今はもう廃れたけど、魔女裁判っていうのがあってね、そこでよく使われたものなんだけど……」
「……っ!」
よかった。魔具か。
――って良くない!
「安心した?」
……心の奥を見透かされて、私は唇を噛んだ。
この野郎。私の反応を見て遊んでやがる。
「じゃあ次、なんでエリザベスは俺と婚約解消したがるのかな?」
「それは……」
そんなのわかりきっていることじゃないか。
『……私、本当は……本当は……エリザベス様には申し訳ないのですが、貴方をお慕いしております。好きなんです。優しい笑みも、甘い声も、すべてが好きです』
『……俺も貴方を好ましく思っております。花のように美しいアリア。――禁断の想いだとはわかっております。エリザベスには申し訳ないけれど……俺は貴方を愛しています』
アリアの求愛に、リチャードが答えたから。
「貴方と……」
「リチャード」
「……え?」
「ちゃんと名前で呼んで? エリザベス」
「り、リチャード……?」
「そう。よく言えました」
その瞬間、首筋にチクリと何かが刺さった。
――嘘っ!? 自白剤を追加してきた!?
なんで? 彼の言うとおりにしたのにっ……。
冷たい液体が私の身体に入ってくる。
「う……そ……」
「ご褒美だよ」
リチャードが優しく言った。
眼の前を塞がれているけれど、彼はきっといつものように笑みを浮かべているのだろう。
あぁ……。
もう、やだ。
もう駄目だ。
もう廃人になっちゃう。
「おねがいっ! おねがいっ……もう離してよっ……! もうやだっ……やだぁっ……お兄様、アリア、お母様、お父様っ……っ! 誰か、誰か助けてっ……」
涙が溢れて止まらなかった。
どうしてこんな仕打ちをされるの?
私は心だけじゃなくて身体まで壊されてしまうの?
「泣いて喚いても、誰も助けにこないよ。残念だったね」
「いや、いやよ……もういや……全部いや……っ!」
身体をじたばた動かしたい。でもそれすら出来ない。
こんな人間以下の扱いを受けるなんて最悪だ。
「それじゃあ、エリザベス。ちゃんと答えてくれるかな? どうして婚約を解消したがるの?」
「そんなのリチャードが嫌だからに決まってるじゃないっ! こんな仕打ちをされて、なんで好きでいられると思ってるの!?」
「……本当に?」
足がすくむ。
彼にはすべて見透かされているような気がした。
「最初は……リチャードとアリアがお似合いだと思ったから……身をひこうと思ったの」
すらすらと言葉が出てくる。
自白剤のせいだろうか。
もう、何もかもどうでもいい。
好きだったことも。
愛していたことも。
幸せになりたかっただけなことも。
「アリアには本当は他の人を選んでもらいたかった。リチャードじゃなくて、お兄様を選んでもらいたかった。……でも、彼女は貴方……リチャードを選んで、リチャードもアリアの好意を受け取ってる……その言葉を聞いて、潔く身をひこうと思ったのよ」
色々とやれることはやった。
アリアに対して距離を縮めない兄に叱咤をした。
リチャードとアリアを引き剥がそうともした。
でも邪魔をすればするほど、吊り橋効果のように二人は引き合ってしまうんじゃないかって……。
だから『やめて」と口を出すこともできなかった。
「ということは……あぁ、あの時の会話を聞いていたのか。じゃあ、なんでそんな誤解をするんだい?」
「え……?」
誤解? 誤解ってどういうことよ。
「エリザベスには申し訳ないけど、俺は貴方を愛していますって話してたじゃない……」
「あぁ、あの嘘か」
「嘘……?」
どこからが嘘なんだろう。
彼はたくさんの嘘をついていて……なにがホンモノの言葉なのかわからない。
「あのあと、アリアに『貴方は聖女ですか?』って確認をしただろう? まぁ、アリアからは、はっきりとした返答は返ってこなかったけど」
「そこまで……聞いてない……」
私はリチャードの返答を聞いて、すぐその場から立ち去った。
だからその後の会話は聞いていない。
「あれは……確認のための嘘だったの?」
「そうだよって言ったら、信じてくれる?」
「……わかんない」
いま私の前にいる人の吐く言葉がわからない。
本心が見えない。
いつだってそうだ。
だから私はゲームのシナリオを思い出して、身を引いたのに。
「……アリアのことを探っていただけなの?」
「そうだよ」
「信じて、いいの?」
「疑い深いなぁ……。エリザベスはもっと素直だと思ってたんだけど……」
リチャードはアリアを好きになっていない。
私は全部ゲームのシナリオ通りに進むと思っていた。
けれど、兄が聖女との結婚を考えたり、リチャードが私のことを付け回したりと、イレギュラーなことが沢山あった。
ここはもうゲームの世界じゃない。
私の現実世界なんだ。
「……私のことを……愛してくれるの……?」
つい、言葉に出てしまった。
今まで口に出せなかった言葉を。
恋も愛も沼だ。
落ちたら這い上がれない。
だから私は避け続けた。あの日、アリアとリチャードがくっついたと勘違いした時に始まった、自分の本当の気持ちから。
でも、ちゃんと彼と向き合おう。
――私はリチャードのことが好きだ。
「………………」
リチャードは黙り込んでいる。
目の前が見えないから、彼の表情が読めない。
「り、リチャード……?」
かちゃかちゃ、と何か金属の鳴る音がする。
……え? なに……?
「最後の最後に全部教えてあげるよ。エリザベス、君には散々疑われたからね。まぁでも密偵だったこともハニートラップを仕掛けていたことも本当だけど」
「最後って……なんの最後……?」
その時、口元に布が引っ掛けられた。
――目だけじゃなく、口元まで!?
これじゃ、まともに話しが出来ない。
「……ゲームだよ。エリザベス。君の想いを全部語ってくれるまで、俺は君を離さない」
こ、この状態でどう喋れば良いのよっ!!!
リチャードの本心はもう少し先までお預けで……まだ続きます。拷問イベント……。




