【行きはよいよい、帰りはどすこい】
キクガ:この前、現世でとても素敵な村を見つけた訳だが
キクガ:極東の山の中だったか
キクガ:仕事で立ち寄っただけなのだが、全員が平和そうに暮らしている小さな村だった
ショウ:父さんがそこまで言うのだったら、とても素敵な村だったのだろうな
キクガ:ああ、とても素敵な村だった訳だが
キクガ:その話をアッシュとオルトにも話したら興味を持ってくれてな
キクガ:今日、有給を取ってその村に遊びにきた訳だが
ショウ:おお
ショウ:それはさぞ楽しい旅行になっているだろうな
ショウ:どうか楽しく過ごしてほしい(*´∀`*)
キクガ:そう思っていたのだが
【廃村の中に佇む黒髪の青年と二足歩行する銀色の狼の獣人の写真】
【枯れた井戸の写真】
【雑草だらけの廃屋の写真】
キクガ:1週間で廃村になっていた話をしてもいいかね?
ショウ:前置きが長すぎる
ショウ:何かと思った
キクガ:この位置で合っているのだが
キクガ:村の名前も『巨頭村』とあった
ショウ:父さん、その村の名前って巨頭オとかになっていなかったか?
キクガ:なっていただろうか?
キクガ:覚えてない
キクガ:オルトに聞いてみたら村の名前を示す看板が『巨頭オ』になっていたらしい
キクガ:では巨頭オだな
ショウ:今すぐ離れてくれ、父さん
キクガ:何故?
キクガ:廃村になってしまったのは残念だが、廃墟はどこか興奮しないかね?
ショウ:そういう問題じゃないんだ、父さん
ショウ:巨頭オには怪物がいるんだ
ショウ:見つかる前に早く逃げてほしい
ショウ:お願いだ、父さん
キクガ:第一村人発見
ショウ:父さん?
ショウ:俺の話は聞いていたか?
【頭だけが異様に大きくて両手をピッタリと足につけている人間の写真】
キクガ:頭が大きいな
キクガ:魔フォーンに入らなかったから結構下がらなければならなかった
ショウ:父さん、緊張感を持とう
ショウ:そいつが巨頭オに出てくる怪物なんだ
キクガ:人間だが
ショウ:頭だけが異様に大きくて両手をピッタリと足につけながら歩く人間がいると思うのか?
キクガ:おトイレを我慢しているだけかもしれない訳だが
ショウ:そんな訳なくないか?
ショウ:この場面で?
キクガ:おや、オルトが対抗し始めてしまった
【黒髪の青年が同じように両手をピッタリと足につけたまま、左右に首を振りながら怪物に詰め寄る写真】
キクガ:相手が怯えてしまっているな
キクガ:あとで注意しなければ
ショウ:それはそうだろう
ショウ:いきなりそんな頭のおかしな行動されれば怪物でも怯む
ショウ:何で怪物の方が怯むんだ、情緒不安定なのか
キクガ:落ち着きなさい、ショウ
キクガ:ひっひっふーだ
ショウ:おめでとうございます、元気なため息が生まれました
ショウ:頭が痛い
キクガ:風邪かね?
キクガ:早く寝るといい訳だが
ショウ:誰のせいだと?
ショウ:父さんはこんな頭が大きな怪物を前にしても冷静だし、オルトさんは逆に喧嘩を売りに行く始末だし
ショウ:誰か怖がるとかしないのか?
キクガ:毎日のように死者を相手にしていると幽霊とかに耐性がついてしまうものな訳だが
ショウ:愚問だった
ショウ:父さんは毎日のように百鬼夜行を束ねているんだった
ショウ:盲点
キクガ:今日はここでキャンプをすることになりそうだ
キクガ:オルトがサバイバル知識もあるし、星も綺麗に見えるだろうからキャンプをしようと提案してきた
キクガ:アッシュも薪割りとか出来るし安心だな
ショウ:そして怪物の中心地で寛ぎ始めてしまった
ショウ:もうダメかもしれない
キクガ:まずは焚き火かな
ショウ:危機感持とう?
ショウ:頭が大きな怪物たちに囲まれた状態で、何でキャンプしようだなんて提案が出来るんだ?
ショウ:さすがユフィーリアのお父さんなだけある
ショウ:父さんも正気に戻ってくれない
キクガ:私はいつだって正気だが
ショウ:正気の人間はかんかんだらを捕まえてムカデみたいに改造したりしないし、巨頭オでキャンプをしようだなんて発想にはならない
キクガ:何か、おかしなことが……?
キクガ:焼きマシュマロ出来た
ショウ:今までのやり取りは呑気に焼きマシュマロを作りながらやっていたのか?
キクガ:すまない、ショウ
キクガ:食欲には勝てなかった
ショウ:もうどうしたらいいんだろう
ショウ:冥府で働くとこんなに肝が据わるようになるのだろうか
ショウ:怯えているのは俺だけか?
キクガ:オルトは料理が上手だな、焚き火でもう2品目も出来てしまった
キクガ:飯盒炊爨もお手のものだ
キクガ:うまし
ショウ:試しにユフィーリアへ写真を見せたら悲鳴を上げてくれたので、俺の感性は間違っていないと再確認できた
ショウ:なんかもう飯盒炊爨までやってるし
ショウ:緊張感はお留守のようだな
キクガ:アッシュが頭の大きな人たちと相撲を取り始めてしまった
キクガ:負けたら蒸し焼きにされるらしい
ショウ:怖
ショウ:誰だ、そんな発想をするの
キクガ:オルトだ
キクガ:いつのまにか火酒の瓶を空っぽにしている
キクガ:酔っ払っているな、あれは
ショウ:ついに酒盛りまで始めてしまった
ショウ:正気な人間はこの場に誰もいない
キクガ:私はジュースだが
ショウ:父さんは元より正気じゃないから
キクガ:なるほど
キクガ:それは仕方がない
ショウ:納得しちゃった
ショウ:せめて納得しないでほしかった
キクガ:アッシュのどすこいで頭の大きな人が転がってしまった
キクガ:頭が重いから起き上がれない
キクガ:蒸し焼きにするらしい
ショウ:食うのか、その人
ショウ:頭が大きな怪物とは言ったが人間の姿をしているのに?
キクガ:いいや、食べない
キクガ:ショウ、人間は食べられない訳だが
キクガ:アッシュもオルトも「不味いから食えたもんじゃない」と言っている
ショウ:アッシュさんもオルトさんも経験者の口振りなのだが
キクガ:キャンプの邪魔をしてくるから蒸し焼きにするそうだ
キクガ:私も手伝おう
ショウ:何で手伝うんだ
ショウ:何で手伝おうとしちゃうんだ
キクガ:まずい
ショウ:どうした父さん!?
ショウ:怪物に襲われてしまったか!?
ショウ:父さん、返事をしてくれ!!
ショウ:父さん!!
【怪物の大きな頭が取れてしまった写真】
キクガ:乱暴にしすぎたせいだろうか、頭が取れてしまった
キクガ:動かなくなってしまったな
ショウ:何をしたらこうなったんだ
キクガ:アッシュが手加減なしで「どすこい」したら頭がポロッと
キクガ:暴力狼と頭のいい戦闘狂に見つかったのが運の尽きだったな
キクガ:おいたわしや
ショウ:まるで他人事
ショウ:まだ相撲をしていたのか
キクガ:それどころか次々と「どすこい」で仕留めている
キクガ:熟れた果実みたいにポロポロと大きな首が転がっていく
キクガ:楽しいのか、あれ
ショウ:興味本位で聞くのだが
ショウ:オルトさんは何をしているんだ?
キクガ:転がった首を枝に突き刺して焼いている
キクガ:それはマシュマロではないのだが、楽しいのであれば文句はない
キクガ:マシュマロ独り占めしている
ショウ:完全に置いてけぼりではないか
ショウ:素直に帰ればよかったのに
キクガ:オルトもアッシュも現場組だからな
キクガ:私もかつては現場組だった訳だが
ショウ:父さんが現場を駆け回っていたことが想像できない
キクガ:む
キクガ:確かに現場から離れて久しいが、私もまだ動ける
キクガ:大丈夫だ
キクガ:ショウ、見ていなさい
ショウ:その場にいないから見れないな
ショウ:父さん?
ショウ:父さん??
ショウ:また連絡が取れなくなった、きっと無事なのだろうが
キクガ:オルトレイだ
ショウ:父さんの魔フォーンでどうしたんですか、頭のいい戦闘狂さん
キクガ:さすが息子、切れ味が凄まじいな
キクガ:そうではなく
キクガ:お前の父親、あの逃げる頭でっかちな怪物どもを冥府天縛でまとめて縛り上げて振り回しているのだが何を言った?
キクガ:廃村を作った原因があいつになりそうな勢いだが
ショウ:父さん……
ショウ:すみません、父がぎっくり腰をしないように見張っていてくれますか?
キクガ:よかろう、引き受けた
キクガ:ただお前の父親、オレとよく似て運動神経いいからその心配はいらんがな
キクガ:しまった
キクガ:引火した
ショウ:え?
【燃え盛る廃村を前に呆然と佇む神父服の男と二足歩行の狼の後ろ姿】
ショウ:父さーん!!
キクガ:素直に最初取っていた温泉宿に行くことにした
ショウ:最初からそうしてくれ!!
《登場人物》
【ショウ】尊敬している人物を問われれば迷わず「父さん」と答えるほど父親は尊敬しているのだが、怪異のど真ん中でキャンプをし始めてマシュマロを焼く度胸のある父親を尊敬できるのか遠い目をする。ただ心配しているのは確か。
【キクガ】ど天然を発動するグレートビックダディ。ショウの実父であり、冥王第一補佐官を務める優秀な人物。優秀さとは対照的に仕事を抜かすと危なっかしいほど天然を発揮する。
【オルトレイ】冥府総督府の呵責開発課に所属するユフィーリアの実父。キクガの天然発言に冷静なツッコミを入れる側で、自分もまた楽しんでいる。自由奔放だが頭がいいので迂闊に敵へ回せない。
【アッシュ】獄卒を束ねるリーダーだが、力が強すぎて魔法兵器を壊す回数が天元突破しているエドワードの実父。キクガ、オルトレイとは仲が良く色々と巻き込まれるのだが、本人も割と楽しんでいる。




