第31話「撃っていいのは撃たれる覚悟──」
ちょいちょい……!
「あん? なんっすか、今いいとこなんですけどぉ?」
肩をしつこくたたくメリザさん。
ちょっと鬱陶しいけど、今はそれよりも──。
「くっくっく、いい顔してんじゃねーか、アグニールぅぅう」
「……いや、だから、」
*型に陥没したアグニール達が瀕死で呻くのを尻目に、やや強めに肩を叩くメリザさん。
そして、
「「「うぶぶぶぶぶぶぶ……」」」
「なんだよ? 聞こえねぇよ?」
くっくっく。
ボキボキと拳を鳴らしながら、
*型に陥没したアグニール達の顔面を順繰りに眺めながらにっこりするライト。
戦士系統でなくとも、雑用で鍛え、大量レベルアップを果たしたライトの膂力は貧弱な魔術師系統をボコすくらい余裕だ。
「さーて、お次は──」
まだだ、まだ終わんねーぞ、アグニール。
殺さねぇ代わりに存分に……。
「だ・か・ら──!!」
ん??
なんか、肩が────
「──存分にじゃねーーーーーだろうが、人の話聞けやぁぁぁああ!」
「ひ、ひぇ?」
キーーーーーーーーン……!
耳をつんざく大音声にライトの体がびくりと震える。
反射的に肩を潜めて小さくなろうとするライトの肩をメリメリメリメリぃぃい!
「いだだだだだだ!」
なんか肩が痛たたたたたたたたたたたたたたたあぁぁああ!!
「いてぇだろうが、バカ、ライトさんーーーーーーーーーーー!! わかったら、まずこっち向けやぁぁぁあああ!」
「は、はいぃぃいいいいい!!」
肩ごと無理矢理ゴリゴリゴリィ……と、向きを変えられるとメリザさんに向き合わされるライト。
「んーーーーーーー! よーーーーーーやく、こっちを向きましたねぇ、ライトさーん?」
「は、はい……。えっと、あの──??」
お、おぉ。
そうだった、メリザさんに帰還報告しないと。
あと、ドロップ品の査定を────……。
「『えっと、あの』じゃ、ねーーーーーーーーーーーーーっつーーーーーーーーーーの!!」
なにが、査定じゃ、
何がドロップ品じゃぁっぁああああああ!!
「あれを見ろぉぉおお!!」
「は? あれ?」
ズビシィ……!
すさまじい勢いで指さすメリザさん。
何か知らんが天井とか、壁とか指さして──……おー、青空だ。
「あーあれね。綺麗な空──」
ゴンッ!!
「綺麗な空、じゃねーーーーーわ、アホ!! アホ!! このアホ!!!」
なにやっとんじゃ、アホーーーーーーーーーーー!!
「いっだ……?! え? ええ? えええ?」
なんでぇ?
「『なんで』が、なんで出るんじゃぁぁぁああああああああああああ!」
むしろ、お前がなんでじゃぁぁぁあああああああああ!!
「うわ!! こわ!!」
メリザさんこわぁぁぁああああ!!
「こぁーい!」
キャッキャッと喜ぶヤミーと、ドン引くライト──「ゴンッ!!」
「いっだ?!」
「なんで、『え? なんで、いま殴ったん?』って顔しとんねん!! お前、さっきドン引きしとったな?! あああん!!」
いや、だって、いきなりのテンションでドン引く────……「ごんッ!!」
いっだ!!
「だから、なんでお前がドン引くねーーーーーーーーーーーーん!! みろ、このバカ!!」
ジュゥゥゥウ、ジュゥゥゥウウ……。
ドロロロロ……。
「おー」「おー」
ライトとヤミー。おんなじ顔して、溶けた天井と穴の開いた壁を見やる。
「おー……じゃねーーーーーーーーーーーーーーわ、バカ!!」
このバカ!!
ここはギルドじゃぁぁぁああああああああああ!!
メリザさん、怒髪天。
ギルド中がビリビリ震える声で、ライトを怒鳴り散らす。
これには、ライトも驚くが確かに冷静になってくれば、やりすぎたかもとちょっと反省──。
「もっと、反省しろよ、バカ!」
「いや、だって──」
だって、じゃねーよ!!
「えー……つーか、メリザさん性格変わりすぎじゃない?」
「お前に言われたくはないわ!!」
むがー!!
メリザさんの怒りの声に、ちょっと、回復してきたアグニール達がニチャニチャ笑っていやがる。
*型の顔面が盛り上がって、逆に今度はパンパンに張れているが、それはそれでむかつくな──。
「おう、ゴラ! アグニール! なにニヤニヤしとんねん!!」
「ひ!」
ひ! だってよ、ブプー!
「だから、ライトさん性格変わりすぎでしょ!! なにその、きっつい性格?! どうしちゃったの、あの優しいライトさんは」
「そんな奴しねぇよ」
とっくにあのダンジョンの底で死んだっつーの。
「まったくもー……。これ、どーすんですか?」
あーもー……。
メリザさん、ついに頭を抱えてしゃがみこんじゃった……。なんか御免。
しかし、ライトはこれで矛を収める気は全くなかった。
なにをコソコソ逃げようとしているか知らんが、見えてるぞ、アグニールさんよぉお……。




