第24話「帰還するライト」
ザッザッザ……。
「ん……」
ごくごくごく。
荷物を少しでも軽くするため、ワインを開けるライト。
「ぷはぁ」ぽいす
──パリンッ!!
「うん!!」
アグニール達がおいていったものだけに、なかなかの高級品。
「うまい!」
ぐぃっと拭った口の先。
視線の向こうには、ようやく見えてきた教会都市が、昼の陽気で少し霞んで見えた。
「……さぁ、もう少しだ。一気にいくけど、大丈夫か?」
「こくこく」
腕の中でぐったりしているヤミーが小さくうなづく。
……これでも、がんばった方だ。
なんだかんだで午前中の数時間は彼女も一生懸命歩いてついてきていた。
だけど、だんだん足が遅くなり、ライトの歩調についていけなくなったヤミーを見かねたライトが抱き上げて今に至るというわけだ。
「ある、く……」
「気にすんな。お前くらい、羽みたいなもんだ」
実際ヤミーは軽い。
以前ならいざ知らず、Lvの上がったライトなら、どってことはない。
「さ、それより。街についたらどうしたい?」
「ま、ち?」
街くらい知っていると思ったが……。
「ん、んんー。そうさな、人がいっぱいいて、おいしいものがあって──」
う~ん、語彙が少ないな俺!!
「ま、ここよりはいいとこだ」
おそらくな。
「こくり」
うん。多分、わかってない。
まぁいい。
ライトが決めればいいだけのこと。
「とりあえず、荷物を軽くしたいから──まず、ギルドによっていいか? あー……安心しろ、先に道々なにか食べるからさ」
ライトがそういう前に、キュルルル──とかわいらしくお腹の音が鳴るヤミー。
困った顔で見上げてくるので、ポンポンと軽く頭をなでてあやしておく。
「むー」
ありゃ、なんかむくれちゃった。
こゆときは、
「パンとか魚。たっぷり買ってやるぞ」
「ぱん、さかな!」
目ぇ、キラッキラ!
早いわー。子供機嫌直るの早いわー。
「おう、遠慮せずいえ──」
金はないけど何とかしよう。
「うん!!」
……遠慮はしてね。一応ね。
──そして、
「ようこそ、教会都市へ! お、ライトか? それは?」
「おっす。帰還しました──。まぁ、あれです、遭難者みたいな?」
「ふ~ん?」
キリリとした衛兵はそれ以上は突っ込んでこなかったので、その挨拶を適当に流し、ようやくライトは教会都市の外壁城門をくぐるのだった。
さすが巡礼者向けの都市──。入出門の緩いこと緩いこと。
だからこそ、冒険者が集まる街でもあるんだけどね。
ガヤガヤ
ざわざわ
「はぁ、ようやくついたな……」
「これ、まち……」
おう、そうだ。
目を丸くしているヤミーの頭を撫でながら、なんとかこうして街に帰還したライト。
数日離れていただけなのに、命からがら帰還したこともあってなんか感慨深い。
「っていうか……」
ジロジロ
ジロォ……。
(う~ん、めっちゃ注目されてね?)
すれ違う人が多くなる中、その人々の好奇の視線を受けつつ、そそくさと歩を進める。
まぁ、女の子を抱っこしながら、山のように荷物を抱えてたら、何事かと思うわな……。
あー衛兵が顔見知りでよかった──。
クエストの途中で保護したと言ったら、二つ返事で通してくれたのは助かった。
実際、嘘をついているわけではない。
ヤミーはヤミーで、すれ違う人をみて、「ほぇー」と目を丸くしている。
いろんな人がいるから、色々驚きなのだろうか?
昼間の教会都市は様々な人の出入りがある。
教会信者に、関係者。
そして、商人やらその傭兵。
または冒険者や衛兵の往来も激しい。
時には、近場の農業から野菜なんかを売りに来る行商の人もいたりでかなりの人だかりだ。
城壁近くでこれなんだから、中に入ったらヤミーの奴、きっと腰を抜かすぞー。
ちょっと、悪い笑みを浮かべるライトであったが、
ヤミーはライトが抱えているので、腰も何もあったもんじゃないけどね──。
「あるく」
「ん? まだ大丈夫だぞ」
ふるふる
拒絶の首振り。
どうやら、降りたいらしい。
「どうした? 何か欲しいもんでもあったか?」
子供だしなー。
「ううん、みんな、あるいて、る」
え?
あ、あー。
どうやらヤミーなりに気を使ったらしい。
抱えられているのが不自然だと気付いたのだろう。
どうも地頭はそれなりにいいらしい。
「わかった。だけど、疲れたら言えよ?」
「うん!」
おっし、素直ないい子。
さりげなく、手をつないでアピールするので、一瞬どうしようか迷うライト。
フィールドと違ってここは街──……。
えぇい! ままよ!!
「ほら、遅れるなよ!」
「ん!」
ちょっと顔を赤くしたライトと、ご機嫌のヤミーが手つないでいけば、街の人が何やらニヨニヨしてござる。
これをほっこりした目で見られていると感じられないあたり、ライトの心はだいぶ擦れてしまっているようだ。
……うるへー、ほっとけ。
そうして、外壁周りを抜けるとギルドに向かうライト。
このあたりともなれば街に中心地に近く、たくさんの店や屋台が並ぶ。
複数の教会と、周辺にダンジョンを抱えた『教会都市』では、巡礼者や冒険者向けの屋台が並ぶ。
お店も、一人もの相手の店屋物の頻度が高い。
その匂いがフワフワ漂い、空腹を刺激する。
う、うーむ……。
どうしようか──。
さっきから、ヤミーのすっごい視線を感じる。
うんうん、わかってるわかってるって……。
「たべ、……ううん」
「我慢すなッ」
言わずとも、わかっとる。
ライトだって、朝めしとそのあとに食べた間食の魚の骨せんべいくらいしか食べていないのだ。
当然腹が減っている。
「よし、なんか食うか!」
「こくこくこく!」
はは、素直よろしい。
「食いたいもの遠慮せずいえ、名前が分かんなかったら、ほしいの指さしな──」
「ん!」
しゅば!!
「はやッ!! って、それでいいのか?」
「ん!! ん!!!」
しゅば、しゅば!!
「それも、これも?!」
ヤミーは指さしたのは、薄い生地に、野菜と細く切った肉をを巻いてソースを絡めた、『総菜クレープ』
そして、分厚い肉を部ッとい串で焼いただけのシンプルな『肉串』。最後に、葉っぱを皿代わりにした、ライ麦と砂糖を混ぜて一度油で揚げた『ライ麦かりんとう』の3種。
「お、おう。しぶいチョイスだな……」
香りを漂わせたものの勝利と言ったところか。
他にも食いたそうだが、まずはそれだけにしておこう。
「よし! 待ってろ────といいたいとこだけど、」
カラッ。
財布ふりふり……埃しかでなーい。
「しょぼん」
「らいと、しょぼん?」
うん……。
だって、ライトにはわずかな小銭もない。
クエストに行くので、お金や貴金属の類は預けておいたのだ。
なので、
「よし。……ちょっと、先にここによるぞ?」
親指でクイクイっと路地を示すライト。
「……え」
ライトの反応が予想外だったのか、
屋台から離れて、路地にある小さな店に入っていこうとするのを悲しそうな目で見るヤミー。
……すまん、騙すつもりじゃなくてだな。
「金がないんだよ……」
とほほ。
「しょぼーん」
「……そんな顔すんなって、金なら今から作る──」
ニィッ。
そう笑って、ライトが入ったのは行きつけの店。
建付けの悪い、小汚い看板には、
『錬金万事~妖精王商店~』
無茶苦茶名前負けしている店構えを抜けると、
ガランゴロ~ン♪
手入れのしていないドアベルが、汚く鳴り響く。
……ここは相変わらずだ──。
「いらっしゃー……なんだい、ライトかぃ?」
店の奥にいたのは全身ローブの怪しい風体の店番。
ローブの中から目のようなものが光るだけで、男なのか女なのか──。
「なんだとは、ご挨拶だね。上客が来たってのに──」
「まっとうな取引に、上も下もあるかい」
で?
「今日は何だい? 『月光草』なら間に合ってるよ?」
「そっちじゃねーよ」
ギルドで買い取りしてもらえなかったものは、時々この怪しい錬金素材屋に卸しに来ることがあるので手慣れたものだ。
何の用途に使うのかわからない物まで買ってくれるので重宝している。
この街では、知る人ぞ知る店なのだ。
「ふん。アンタがそれ以外にこっちが欲しがるもんだせんのかい──」
フ~……。
と、どこから取り出したのか、キセルがローブの中からプカプカと燻らされている。
「んなの、見てから言ってくれよ。……とりあえず、全部じゃなくてていいからさ」
ついでに相場の確認だ。
え~っと、
たしか、こういったとき用に小分けした袋が……あーあったあった。
「なんだなんだい? 随分、仰々し────……こ、」
コト、コトッ!
・グレーターファントムの核
・グレーターファントムの灰
・グレーターファントムの骨片
・マナグールの核
・マナグールの骨
乾いた音を立てて並べていくドロップ品のサンプル。
「ッ!?」
「ん?」
売れるかどうかわからないから。まずは馴染みにここに出してみよう。
そして、商品として価値があるならギルド買い取りとの比較────。
「ちょぉぉ! ど、どこでこんな素材を!」




