第23話「人でないなら、金にあらず」(ライバル視点)
……──で、市場へ馬を売りに行き、トボトボ帰って来たクッソ神父。
幸いにして馬の取引商館は街の郊外にあったので衆目からはすこ~し免れている。
とはいえ、その背中がそこはかとなく寂しい……。
市場を行くときは、馬車ないし、馬を曳いていたから少しはましだったが、商館からの帰りは下取り金だけを持っているので、ほぼ半裸のオッサンがトボトボと……。
「ぷぷー」
「あはははー!」
これで街を?! ブッ、プププ~!
「わ、笑い事じゃないですよ!」
だ、だって、その恰好で市場を、ぶぷぷー!
「アンタらだって似たようなもんでしょ!」
馬なしの馬車で、小汚い恰好の男女が詰め込まれているのだ。
どこの変態カップルなんだか……。
「で、いくらになった??」
「ふふん、いい馬だったしねぇ。金貨5枚はかたい──」
チャリン。
「ぎ、銀貨2枚と、銅貨50枚です」
「「…………は?」」
クッソ神父が寂しげに差し出した革袋の中には金貨の輝きがない。
それどころか、やたらと軽い……。
「ぎ、銀貨2枚と?」
「それと、銅貨50枚ぃぃっぃいいい?」
「……しょぼ~ん」
しょぼ~ん、じゃねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「ど、ど、ど、ど、」
「どーいうことよぉぉぉおおおおおおおおお!」
どッかーん!
「ひぃぃい! だ、だってぇ! ここの商館のやつ、なんか足元みやがって──」
ポカポカ殴られつつもクッソ神父は必死で言い訳をする。
だって、涙涙の物語なんだもん。
「足元ぉ?」
「あ、まさか、アンタその小汚い恰好で──」
小汚いって……あと、アンタとかいうなし!!
昔は愛人だったでしょうが、この小娘ぇぇぇ! とクッソ神父が怒り狂うが二人はお構いなしだ。
「くそ! つっかえねぇ坊主だな!」
「そうよ、この放送禁止用語野郎が!!」
「む、むがぁーーーー!」
す、す、す、
「好きかって言いますけどねぇぇえ! これでも結構、粘ったんですからねぇぇぇ!」
最初は銀貨1枚と言われたので、さすがにそれはと泣きついたクッソ神父。
しかし、小汚い恰好のクッソ神父が困窮していることを見抜いていた商館の主人は、滅茶苦茶に足元をみた。
で──……この金額だ。
ハッキリ言って、くっそ買いたたかれている。
「ちっくしょー……! これでなんとかしろってか? そもそも、これじゃ、再発行できねーじゃねーかよ!!」
「そーよそーよ、このばーか! ロリコーン!!」
「馬鹿はアナタでしょうサーヤ! あと、ロリコンちゃうわぁぁああ!」
「「いや、ロリコンやん」」
「ち、ちがわーい!」
「ふん。それはそうとして──」
「そうとしないでくださいよー!」
黙れロリコン。
「……ち。とりあえず、いまさら言ってもしょうがねぇ。まずは……服だな」
「そ、そうね。こんな格好じゃ、外にも出れないわ」
じー……。
「はいはい、はいはいはーい!! 行けばいいんでしょ行けばぁ!!」
半ばやけくそのクッソ神父。クソなだけに。
そのまま、いっそ堂々たる風格で市場に戻っていく。
のっしのっし。
「……ある意味すげぇな」
「……同感」
きゃー! へんたーい!!
たいへんなへんたいよー!!
なんか、奴の行く先々で悲鳴があがっているが、まぁ、見なかったことにしようかな──。
そして、
「ただいま、戻りましたよー」
……のっしのっしと、市場中に大スカンを食らいながらも、なんとか古着を買い集めてきたネトーリ。
──だが、
「な、なんだこりゃ! まるで平民の服じゃねーか! なんかくせーし!」
「臭くないわよ!!」
いや、くせーよ。
「……って、お前じゃなくて、服だよ服!!」
お前も臭いけどさー!
「はぁ……。中古の安物なんて、大抵こんなもんですよ……。残りの金で、宿と飯を確保しなきゃならないんですよ! 贅沢いわんでください」
「ぐむ……」
どっかの廃品を再利用したらしい服は、垢じみており、着れるだけマシといった程度。
サーヤのものに至っては、ほとんど布切れだ。
「……文句あるなら、返品しますか?」
「い、いいわよ! その代わり、宿はちゃんとしたとこにしてよね!」
そんなの無理ぃ~。
「アナタねぇ、残金いくらだと思ってるんですか……。とりあえず、パンを一個買ってきました。残り銀貨1枚と銅貨20枚! これで何とかするんですよ!」
「なんとかってなんだよ?! いつまでだよ」
「それを考えるのがリーダーの仕事でしょーがぁぁあ!」
超正論。
「く……! わかったよ。と、とりあえず宿だ! 宿で体と服を洗うぞ!」
「賛成賛成!!」
「はいはい。ですけど、個室なんて無理ですからね? 木賃宿に泊まれるだけでもありがたく思わないと……」
「「く……!」」
贅沢が身についたアグニール達にはなかなかきつい話だった……。
あ、そうだ!
「な、なぁ。──お前、昔この町にいたんだろ? サーヤも!」
「へ? いたけど」
「そりゃ、孤児院の先生でしたし──」
にやりっ。
「だったらよー。多少なりとも、知り合いくらいいるんだろ?……金借りて来いよ」
「「はぁ?!」」
金を借りるったって……。
「あはは、アグニ様、無理ですって! コイツ、孤児院で散々やらかしたせいで、追い出されてるんですよー。ね~先生ぇ♪」
しっとりくっついて艶っぽい目でクッソ神父を見上げるサーヤ。
さすがにこれには反論できず、ぐぬぬ……と、押し黙るクッソ神父。
「じゃ、お前はどうなんだよ」
「ドキ」
……なんだよ? ドキって──。
「ぷぷぷ。サーヤさんもたいがいなもんですよー。い~ったい何人の女に憎まれてるんだか──知ってます? こいつ、」
「ば! いらんこと言うんじゃないわよ! このロリコン!」
「なにをぉ!──孤児院中の神父やら、街の既婚者相手に、」
あー……。
「もういいもういい……」
……はぁ。
なんとなく察したアグニール。
ようするに、こいつらクソ野郎でクズ野郎で、変態なんだわ。
「……お前らに期待した俺が馬鹿だったわ。しゃーねぇ、一度休んで態勢を整えなりしてから、ギルドでクエストを受けよう。冒険者認識票がなくても、フリークエストくらいならいけるだろう。それでなんとか金を溜めるか、王都行きの馬車代を稼ぐ、だな」
「「え、ええー」」
なんで、「えええ」やねん!
どいつもこいつも、使えねーーーーーーーーと、心の中で叫んだアグニールであった。
「いいから黙ってついて来い、バーーーーーーカ!」
士気がガタガタに下がっていくアグニール率いる『銀の意志』なのであった。
チーン♪
──残金銀貨1枚と銅貨20枚なりー。
……そして、無駄足を踏んでいる間のこと。
アグニール達が、わずかな残金で過ごす間に、まさかまさかの人物が帰還しようとしているなどつゆとも知らない。
そう。
運命(?)の再会まであと────。




