第21話「大変な変態」(ライバル視点)
その頃──。
カランカラ~ン♪
ギルドのドアベルが涼やかに鳴るなか……。
「だーかーらー! お金を下ろさせてくださいっていってるんですよー!」
ギルドにやって来た半裸の元聖職者が、窓口で騒ぎを起こしていた。
「い、いえ。ですからぁ……。身分証がないんじゃ、照会しないと。それには時間がですね……」
「だから! どうみても、こうみても、『銀の意志』のクッソですよ! クッソ神父!! 神聖魔法使いで登録してるでしょぉぉお!」
ねぇ!
そう言って、ボロボロの聖典を腰にまいたクッソ神父が、窓口のメリザに詰め寄っていた。
「いや、どこをどう見てもって──」
じー……。
頭のてっぺんから、つま先まで──じー……。
「……いや、何べん見ても、どこに出しても恥ずかしくない不審者ですよ?」
ズルゥ!!
クッソ神父が窓口でズッコケる。
「どこが不審者ですか!!」
「全部」
即答ぅぅぅうう!?
「いや、即答でしょうに? 神父の「し」の字もないですよね、アンタ?」
「んな!! み、見て見なさい!! この聖なる文字を書き連ねた聖典を──」
ピラッ!
「いや、見せんな!! 見せんでいいわ!! っていうか、聖職者いうなら、んなもん腰に巻くな!!」
どーみても変態やんけ!!
「んなぁぁあああ! わ、私が変態ですとぉぉおお!」
「ほかに形容する言葉があったら教えてほしいですよ」
そろそろ通報しようかなーと、メリザがカウンター下の緊急通報スイッチをいつでも推せるように待機している。
すわ、その時となったら連打してやるとばかりに──。
「な、なら! 照会してくださいよ!! Aランクの『銀の意志』です!! ほら、ほら、ほら、ほらぁぁあ!」
いや、近づくなし!!
……って、いうか、なんで顔赤くしてんねん!!
「そ、そういわれましてもねぇ。規定で決まっておりまして……。こちらは支店なんですよ? えーと、『銀の意志』さん? おたくらは、登録は王都でされたんですよね? なら、身分証明の書類は向こうにあるってことですよね?……なので、一度問い合わせないと──」
「あーもー! だから、それを証明するものがないから、困ってるんでしょうが!!」
「いや、そういわれましても──……」
「まったく、そんな杓子定規なこと言ってないで! みればわかるでしょ!」
ばーん!
「いや、見てもわからないですよ? どこの変態さんですか?」
半裸で、腰蓑スタイルでAランクで~す。って……どう見ても変態やん??
「っていうか、み、見せないでくださいよ! そんなん、 ばっちいなーもー!」
「は? ば、ばっちい……?」
パラリと落ちていたクッソの腰巻(?)。
見せちゃいけないもんが見えそうです──……。
パラリ
って、
「おわぁっぁあああ! どこ見てんですかぁぁあ!」
「って、アンタがその恰好でギルドに入って来たんでしょうがぁぁあああ!!」
──びっくりしたわ。
こっちが一番びっくりしたわ!!
「昼休み終わって優雅に午後の業務してたら、バーン! で肩でスイングドア開けて入って来たのはアンタやろがい!!」
初手で衛兵呼ばなかっただけでも感謝しろい!
「って、なんでだんだん息荒くしてるんですか? 衛兵呼びますよ!!」
ちょ、ちょちょ!
「ちょぉぉおお! わざとじゃないですよ! こんな環境じゃ、緊張して興奮したってしょうがないじゃないですか!」
「こ、興奮? へ、へ、へんたいよー!!」
大変な変態よー!!
「衛兵! 衛兵ぃぃいい!!」
「衛兵、呼ぶなし!! あーもう!!」
ドタバタドタ!
慌てて逃げていくクッソ神父……らしき人──。
っていうか、ほんとクッソ氏でいいんですよね?
ギルド中が顔を引きつらせる中、対応をしていたメリザがホッと息をつく。
「びっくりしたー。まさか、白昼堂々変態がくるなんて──」
「お、おつかれ──ひぃ!」
ばーんッ!
カラン、カラ~ン♪
「変態じゃありません!」
──いや、変態やん!!
メリザの同僚が腰を抜かさんばかりにタイミングで入って来たクッソ(?)神父。
……帰ったと思いきやのフェイント再入店──落とした腰巻(?)を取りに来たらしいクッソがそそくさと戻っていく。
「な、なんなんですか、いったい……? た、たしかに『銀の意志』の人だったと思うんですけど──」
うすぼんや~り。
「う~ん……覚えてない」
首を傾げるギルド受付嬢のメリザさん。
あの時、窓口対応をしたのは、主にサーヤとアグニールだったので、クッソの顔はぼんやりとしか覚えていなかったのだ。
イケメンの顔ならともかく、じじいの顔なんかいちいち覚えてるはずもなし……。
なのに、突如、ほぼパンイチ半裸の恰好で、のしのしやって来たかと思えば、金を下ろさせろと詰め寄って来たもんで──。
「……そりゃ、身分証みせろってくらい、いいませんー?」
うんうん。
「言う言うー」「当たり前ですねー」と、言葉少な気にギルド中が頷いている。
みんな、真昼間から汚いもん見せられ気分最悪だ。
酒がまずくなると、管をまく冒険者も吐き捨てているほど。
「──……そもそも、なんであんな格好を? 『銀の意志』って、Aランクですよね? それに、あのクエストの帰りなら、ライトさんはどこに?」
そうだよ。
このギルド所属のライトがいればそれで一発で話がつくというのに……。
「でもそういえば……」
──ちょ~っと、遅いような?
たしか、奇妙な依頼を受けて、ライトがAランクパーティの『銀の意志』に同行したのは、数日前のことだ。
距離や準備した物資のことを考えればそろそろ戻ってきてもおかしくはない頃なのだが……。
「ま、まぁ、ライトさんに限って、クエスト失敗なんてありえないと思うんですけどねー」
……ライトは自己評価が低いところがあるが、実はギルドではそれなりに高く評価されている。
一見して戦闘力ばかりが注目されるが、冒険者ギルドは傭兵団ではない。
……れっきとした営利組織なのだ。
つまり、
依頼を達成する人間こそが評価されるのだ。
その点でいえば、ライトは依頼達成率はほぼ100%を誇る優秀な人材であった。
……まぁ、戦闘系のクエストが受けられないので、実質失敗というのは採取系クエストなどの期限切れだが、ライトはその辺をわきまえていたので、失敗することはなかったし、
なにより、希少な『月光草』や、その他夜間でしか取れない薬草を採取してきてくれるので非常に評価が高い。
そんなライトであったが、ひそかに向上心も持っていたため、メリザも積極的にパーティ募集系のクエストを彼に回していたのだ。
もっとも、パーティの募集とはいえ、基本は雑用系のクエストしかないので、誰も受けたがらないものだ。
なので、選びさえしなければ、その手の依頼は結構余りまくっている。
それを受けてくれるのがライトだったので、ギルドとしてもかなり助かっていたのだけど──。
そんなライトに舞い込んできた奇妙な依頼。
それが、先日のAランクパーティへの同行……。そして、ライトが帰ってこない……。
「う~ん、おかしいですねぇ」
おまけの変態の出現だ。
「う、うーん。基本、高ランクパーティからの指名依頼は断れないんですけど、今思えば不審点だらけな気もしますね……?」
そもそも、Aランクパーティに、ライトを雇うメリットがあるというのだろうか?
稀に、レベリングのために、低レベルの身内を連れていくこともあるっちゃあるが──。
「う~ん。ですが、あの時いたのは、たしか……」
あのクエストを仲介したのはメリザに他ならないので、もちろん、覚えている。
……も、もちろんね。イケメンに限ってだけど──。
え、え~っと。
そうそう、確か──。
メンバーは、
イケメンのアグニールと、ライトの幼馴染だといういけ好かない頭空っぽそうなお色気メスガキ。
そして、う、ウン〇──あ、いや……クソ神父だっけ?
「う、う~ん……ダメ、思い出せない」
そも、身分証を出せばいいだけの話だ。
それすらもなく、いきなり金を下ろさせろなんて虫のいい話あるわけないない。
……っていうか、それならせめて王都にいけよ──というだけのこと。
つまり、
「──うん! 二度とくんなしッ!」
ペッ!
吐き捨てるメリザに、何も見てないよー。と顔をそらす冒険者たち。
メリザさん、荒れくれものを相手にするだけあって、美人だけど、ちゃ~んと強いお人なのです──。
「それか、ライトさんか、アグニールさんがくればいいだけじゃないですかー。まったく……」
ホント、な~んであんな変態をよこすんだか。
新手の詐欺かしらね? そう思って業務日誌に書き込むのだった。
カリカリカリ──。
業務日誌、
《変態現出》
カリリッ……これで良し──っと、日々の業務に戻るメリザ。
「さーて、お昼もバリバリ働くぞぉー」
えいえいおー!
一人カウンターの奥で気合を入れるメリザ。
しかし……。
だが、まさかまさか、あれが本物のAランクパーティのメンバーで、そのAランクパーティが囮要員を雇った挙句に、まさかレーザーの至近弾を食らって装備一式燃えたなんて──思いもよらないメリザなのであった……。




