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第15話「白い少女」

 ライトの照明に照らし出されるBOSS部屋の広大な空間。

 そこはまるで戦場のような有様だった。


 だが、戦いが終わった今。

 そこにあるのは宝の山だ──。



「ふ~む……」



 正直、途方に暮れるライト。

 レベルアップとヤミーの治療のおかげでかなり体力も回復しているため、普通にしている分にはふらつくこともない。

 だが、今は別の問題で頭がクラクラする思いだ──。


 そう。

 ドロップ品である。


 通常、アンデッドからはあまり有用なドロップ品は出ないものだが、それでもいくらかはドロップがある。


 例えば骨とか灰とか──。


 くいくい。

「ん?」


 服を引っ張る気配に視線を下に落とすと、ヤミーが地面に転がるドロップ品を興味深そうに指さしている。


 ……欲しいのか?


「……あー。その、なんだ。……せっかくだから、回収していこうか?」

「…………」


 コクリ。


 よくわかっていない様子でうなづくヤミー。


「そうだな。今のまま町に帰っても赤字確実だしな……」

 ボロボロになった装備に、報酬金の未払い。

 ……アグニールが金を払うとはとても思えないからな。


「よし、じゃあ、俺が回収するから、ヤミーは周りを見ててくれ」

 敵は殲滅したけど、念のためね──。


 ……と思っていたのだが──。


「……はぁ、はぁ」

「うん。無理するな……」


 ポンポン。


 頭を軽くなでると、ライトがヤミーをヒョイッと担ぎ上げる。

「……?!」

 一瞬びっくりした表情を浮かべたが、抵抗らしい抵抗もせずにライトの頭に体重を預けるヤミー。


 どうやら、慣れているらしい……。

 というか、諦めたのか?


 まぁ、最初手をつないで歩いていこうとしたのだが、ドロップ品を拾い始めてすぐにへたり込んでしまい、つらそうに吐息を漏らすので、苦肉の策としてライトが背負うことにしただけだ。


 背負うと言っても、まさかタンクの中に再び押し込めるようなことはしない。

 いわゆるオンブ。


 ……どうやらヤミーは、随分長い間あの中(携帯魔力タンク)の中にいたらしい。

 病的なまでに白い肌と髪がそれを証明しているかのようだ。体の力が入らないにあのもそれが原因だろう。


 なのに、怪我したライトを治療してくれた。


 それを想像するだけで、感謝の気持ちと同時に、アグニールに対する嫌悪感でギリリと奥歯が鳴る。

 だけども、それをすると、ヤミーが怯えそうなので、そっと口元を覆って隠すライト。


「ごめん……」

「ふるふる」


 無言で首を振るヤミーの頭を三度撫でつつ、

 ずり落ちないように背負いなおすライト。


 さて、

 BOSS部屋を出るのは、いいが──ヤミーがいうように回収できるものは回収しとかないとな。

 ドロップ品はいくらあっても困らない。

 持って帰ることさえできれば──だけどね。


 しかし、侮るなかれ。

 長年雑用をしていたライトだ。


 このくらいのドロップ品回収できなくてどうする! 

 ……もっとも、そのほとんどをレーザーで溶かしてしまったので、1000体分というわけにはいかないだろうが、いくらかは回収できるのだ。


 とくに、覚醒の初期に吹っ飛ばしたリッチだ。


 こいつはは、灰にはなったものの、

 消滅した場所に、何かを落としている可能性がある。


 なにせ、リッチはBOSSだ。

 そのドロップ品ならば、かなりのお宝が期待できそうだ。


 さらには、リッチ自体の素材も高く売れるだろう。


 ……消滅したとは言っても灰は残る。

 そして、その灰にも価値があるのだ。



 ──つまり、リッチに捨てるとこなし!!



 また、レーザーで消滅させたとはいえ、倒したモンスターは一定確率で魔物の『核』を落とすことがある。


 これがまた、いい錬金材料になるのだ。


 魔法杖に使ったり、

 薬にしたり、

 まぁ、用途は様々だ。


 その他にも、回収する品として、アグニール達が放棄していった荷物がある。

 大半は消耗品などの捨てていっても惜しくないものだろうが……いくらかの価値はある。


 なにより、

 ……ヤミーはどうやら、そこから回復アイテムを漁って、ライトを治療してくれたのだから、それ系がまだ残っているはずだ。


「あー。その……あ、ありがとな……?」

「……?」


 治療に感謝しているライトの気持ちがわからなかったのか首を傾げるヤミー。

 相変わらず無口だが、それでもいい。

 ずっと一人だったライトにはこれくらいの方が、いい……。


 って、


「……??」


 この格好はいく(・・)ないな。

「ちょ、ちょっとあれだな。み、身支度だけは整えような──」


 さすがに、今のヤミーの恰好はアレすぎる。

 まさか、ダンジョンを脱出したとしても、こんな格好の少女を連れ歩いていては、お縄を頂戴してしまう。


 冒険者ギルドのメリザさんにも軽蔑の目をむけられて──……「えー。ライトさんて、ロリコンだったんですかぁ?」なんて言われたりして……。


「──うぐぉぉぉおお!」


 ダ、ダメだ!!

 そんなの耐えられん!!


 そもそも、ヤミーの歳だって知らないのに!!

 い、いや、歳が合法だったらいいとかいう意味じゃないよ?!


 ロリコンはクッソ神父だけで十分だ。


 ……あ!

 思い出したらむかついてきた、あのクソロリコン神父が!!


 話は逸れるが、

 クッソ神父の悪行は、じつは孤児院時代からたびたび耳にしていたものだ。


 外面はいいが、内面はクソだった。

 クッソ神父なだけにな!


 そう。

 たとえば、あの野郎は、孤児院に預けられている少女に手を出しているだの、

 孤児院をでたあとの少女を囲っているだの、

 または、人身売買にも関わっているなんて話も聞く。


 そして……おそらくサーヤも、当時はアイツの愛人だったのだろう。


「けッ」


 お似合いだよ。


 マジのクソ野郎の愛人だ。今はアグニールの専属らしいけどな

 だが──。


「……まてよ? クッソ神父と、アグニールにつながりがあるとすれば、ひょっとして……」

 あの孤児院って……。


 かつて自分がいた孤児院を思い出すライト。


 身寄りのない子供が多数いたが、

 サーヤの扱いを見るに、クッソ神父とアグニールの間でなんらかの、人材交流(・・・・)があってもおかしくはない。


 なにより、ライトのような光属性と言った「外れ属性」を授かった少年少女であっても孤児院はとりあえず追い出すような真似をすることもなく、生きていける年齢までは面倒をみてくれるのだが……。


 チラリとヤミーを見るライト。



「ま、まさかな……」



 アグニールのヤミーの扱いと、容赦なくライトを見捨てたあの態度。

 ……今思えば、それはいっそ手慣れてさえみえた。



 おいおい。

 まさか善行と人道を傘に、悪行を……?



 ──いやいや、まさかまさか……。

 ……まさかだよな?


 しかし、悪い予感ほどよく当たるものだ。

 詳細はヤミーに聞かないとわからないのだろうが、

 彼女の存在だけで、その考えに至ってしまい、ライトはぶるりと身震いする。


 だとすると、ライトを見捨てた事件そのものの根本には、とんでもない巨悪が潜んでいそうな気がする。


 ……もしかすると、

 孤児院のロリコン神父レベルが、かわいいクラスのとてつもない悪の存在が──。


「ちッ……知りたくもなかった」


 そのいったんを垣間見てしまったのかもしれないライト──。

 なるほど、アグニールが生かしておかないはずだ。


「…………だとしても、だ。──きっちり落とし前は付けるぞ、アグニール!」

 だが、その前に……。

「まず、家に帰ろうか──」


 ポンッ! ヤミーの頭に手を乗せるとニカッと、笑いかけるライト。

 慣れないことをしているなと自覚しつつも、怖がらせないように、怖がらないように、スマイルスマイル。


 …………うん。


「っと、ちょっとその前に──懸念事項一件。その……なんだ。──か、体を洗おうか、ヤミー」

「……?」


 うん。


 この子、少し臭うのだもん。

 ごめんよー。



※ ※ ※



 ──バチャバチャ……♪



 アグニール達の放棄した荷物の中にあった水やら、石鹸を使ってBOSS部屋の中で体を清めるライトとヤミー。

 ダンジョンの奥で何やってんだかと言われそうだが、敵をせん滅した今──ここがもっとも安全なのだ。


 ……ダンジョンはどういうわけか、一度モンスターをせん滅しても、時間を置けば、リポップすることが知られている。

 もっとも、殲滅した後は、人がその部屋にいる限り、敵がリポップされることはないという。


 だから、洗う!

 文句あるか?!


「……っと、どうだ? 綺麗に洗ったか?」

 水に余裕はないので、湿らせる程度で、あとは石鹸で汚れを落とし、再度湿らせた布でこするだけ。

 石鹸が取り切れないかもしれないので念入りに──。


「ん? お、おい!」


 ヒョコヒョコと、ヤミーが衝立代わりにした棺に影から姿を見せる。

 さっきとなんもかわってねーし──。


「って、まずは服着ろ、服を!! 今すぐぅぅううう!!」

「……ふく?」


 服!

 拭く!


 服着る前に拭いて、服ぅぅぅうう!!


「ほら! っていうか、全然汚れ取れてないぞ!」

「……ふ、ふく……」


 しょぼん。


 ……あかん。

 この子分かってない……。


 しょんぼりしちゃったヤミーに業を煮やしたライト。

 ……しゃーなし。


「へ、()な気はないからな?」

「……へん」


 変じゃねー!!


()変そうだから、手伝ってやるだけだ! いいな!?」

 うん。

「へん、たい……」

「おう!」

 ……て、


 ──繋げるなぁぁあああああああああ!!


 変じゃないし、

 大変でもないわぁぁぁあああああ!!


「あーもー! 外に出ても、変態とか言うなよ?!」

「こくり」


 だ、大丈夫だろうな……。

 地上に連れて帰ってから変なこと吹聴されたらどうしよう。


 メリザさん、絶対根掘り葉掘り聞くだろうし──。


「うーむ。とりあえず、ほら、しゃがんで」


 垢の臭いとフケの凄まじい頭を整えてやる。

 サーヤの持ち物というのが業腹だが、質のいい櫛で、髪を漉いて、大雑把に汚れを落とし、湿らせた布で洗ってやる。


 石鹸をぐりぐりと優し目に塗り込むと、ちょっと痛そうに見上げてくるが、我慢せい! と再び前を向かせる。

 体も同様──。


 ある程度洗ったところで、ちょっともったいないけど、水袋を丸々一個使って汚れを落とす──。


「お……」


 石鹸がヤミーの汚れを落とすと、なんとまぁ……綺麗な子だ。


 っと、

「ん、んん-。ほら、向こうむいてるから着てこい。まさか着方わからないとかいわないよな?」

「ふるふる」


 よしよし。

 ほれ。


 サーヤの予備の服を渡してやる。下着みたいな際どいのしかないので、あれだけど、ないよりはまし。

 つーか、アイツなんちゅうーもん着とってん! こんなんほぼ紐やん……。


 衣擦れの音。


「着たか?」

「こくり」


 ……ほんとかよ。


「着たよな? 振り向くぞ?」

「こくり」


 ……ちらっ


「って、なんでやねーーーーーーーん!」


 あかん!!

 この子あかん!!


 パンツ被っとる。

 色々わかってない!!


 多分見様見真似でライトの真似をしているんだろうけど、パンツは頭にかぶるものじゃない!!


 つーか、俺も被ってねぇわ!!


「わかったわかった! 着せてやるから、はい、ばんざーい」

「ばんざーい」


 万歳はしっとんのかい!!

 なんというか、生活に関する知識がごっそり抜けている。


 ほんと、生きているだけの生活だったのだろうか……。


 ギリリ。


「……アグニールめ」


 タンクに詰め込むくらいだ。

 人として扱っていなかったのだろう。ならば教育などしているはずもない。


 とりあえず、サーヤの予備の服を着せてやるが、これじゃあなぁ……。


「お?」


 アグニール達の放棄した荷物の回収とともに、ドロップ品も大雑把に回収したライト。

 さらに、リッチが最初に出現した棺をのぞき込むと、


「ローブ……?」


 ボロボロになった布切れが棺の底にへばりついていた。

 おそらく、リッチが着ていたものだろう。あるいは生前の使用品を副葬したか、だな。


 リッチ自前のローブは身体とともに朽ち果ててボロボロになっていたが、この数枚重なったローブは外側に羽織っていたものかもしれない。


「ふむ」


 効果はわからないが、戦利品として何か持って帰るのもわるくはないだろう。

 ついでに、数枚あるし、一つばらせば、ヤミーの服の代わりを作ってやれる。


「ちょっと待ってろ」


 ボロボロのそれだが、埃とちょっとのかび臭さのほか、思ったよりしっかりとした生地だ。

 それをアグニールが残していった高価そうなナイフで採寸しながら切ると、旅荷物の中から針と糸とを取り出し、縫い合わせていく。


 孤児院出身者はある程度なんでもこなせるのだ。


「……ん。こんなもんかな?」

 子供(?)用のローブをでっちあげると、ヤミーに着せてやるライト。

 ついでに自分の装備もボロボロだったので、この布を何枚かつなぎ合わせて作った。

 贅沢に内ポケットにヤミー用の服の切れ端を使っています!


「お、似合うじゃないか」

「にあう?」


 ヨロヨロと立ち上がったヤミーが、乏しい表情ながらも、クルリクルリと不器用に回りながら、ライトに笑顔を見せる。


 白い少女が、リッチの残した漆黒のローブを纏う、か。

 本当に似合うな。


「えへへ」

「……ふっ」


 屈託なく笑うヤミーの頭に手を置き、ポンポンと軽くなぜるライト。

 笑えるなら十分だ。


「さぁ……」


 そっ、とヤミーに手を差し出すライト。

 それを不思議そうに見つめながら、おずおずと握り返すヤミー。


「……帰ろうか」

「かえる……?」


 ……ヤミーの帰るべき場所をライトは知らない。

 知らないけど、二人のいる場所はこんな闇の底じゃないはずだ。


 そう。

 光の差す地上へ────陽の元へ。


「…………うん!」


 ライトとヤミー。

 見捨てられたもの同士が手を取り、笑いあった瞬間だった。


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