第14話「闇の目覚め」
「ぐ……!」
鋭い痛みに、目が覚めるライト。
あたりは薄闇に包まれており、何も見えないに等しい。
──あ、あれ?
俺……。
「い、生きてる……?」
あれ?
あれあれあれ?
「う、うそ、だろ?」
……俺、死んだはずじゃ──。
ライトはあの時、死を覚悟していた。
実際、すでに致命的なダメージを負っていたため、あのレーザーは最後っ屁のつもりだった。
だから、当たるわけもないと知りつつ、半ばやけくそで、地上に向け最大出力でぶっ放したのだ。
なにせ腹には致命傷を負っていたのだ。
あれで生きていられるはずもない。
……たとえ内臓が無事でも、あの出血量ではどうやっても地上までたどり着くのは無理だし、その間に助けが来る可能性も、また──なかったはず…………なんだけど?
うーむ。
なのにどうして──……あ!
「……そうか。レベルアップのおかげか?!」
そういえば、リッチと大量のアンデッドを滅したせいか。
急速にレベルアップしたのを感じていた。
レベルアップにより、多少ないし身体能力があがることはよく知られている。
小さな傷なら治ることもあるという。
なので、
手を闇の中に残るわずかな残光に透かせば、包帯に撒かれた腕や手指には確かに力がみなぎっている気がする。
なんとなく、腹をみれば雑に手当てされたそこも、腹筋がほんの少し割れている──。
──感覚的には30レベルくらいか……?
なるほど……どーりで…………………………って!!
「……………………いや、待て!」
待て待て待て!!
な、なななん、なんで治療の後が残ってるんだよ?!
……腹と腕に巻かれた包帯とその他のちりょうの痕跡。
こ、これって──。
「だ、だれが──?!」
まさか、アグニール達が戻って来た?
いや、そんなことあるわけがない──!!
じゃぁ……いったい──。
かさっ。
「ッ!!──……だ、誰だ!!」
かすかに聞こえたもの音に、サッ! と身構えたライト。
……まさか、アンデッドの生き残り??
間の悪いことに、武器は何もない。
…………だが、ライトにはこれがある──ジャキンッ!!
レーザー、出力調整!
──ウィィィイン♪
「さぁ、どこからでもかかってこい!」
収束した光のエネルギーを頼もしく感じながらも、冷静にステータスを感じる。
……魔力は十分────いけるぞッ!
光が収束し、指先に集中していく。
これでいつでもレーザー発射可能! もしアンデッドだったら、ぶっ飛ば──────。
「なッ!」
ドキリと心臓が跳ねる。
ライトの視線の先には、白いナニカ──。
白い髪。
白い肌。
そして、白い……少女。
──こ、子供?!
ば、ばかな?!
「お、お前、ど、どこから!?」
全てが白い少女────……。
このダンジョンの奥地で少女がたった一人で、だと?
「……?」
振り向いた少女がライトを見て小さく首を傾げる。
その様子すら、
……いっそ神秘的な雰囲気を纏った少女。
彼女は、ライトの指先に集まったレーザーの光にぼんやりと照らし出されていたが、
いやまて。
この子って……
「お前、まさかタンクの中にいた……」
そうだ。
まぎれもなく、あの子だ──。
携帯魔力タンクの中にいた少女。
身動きすらできないあのタンクに押し込められていた小さな女の子がたしかにそこに。
そして、何も語らずに、じっとライトの顔を見つめているではないか。
……まるで、人形のような少女だな。
「────ひかり」
「へ?──あ…………!」
そうして、少女が指差す先。
そのそっと零した言葉に慌ててライトは、レーザーを取り消し、闇に溶かす。
あ、危っぶねー……!
危うく撃つところだった。
えっと……………………あ!!!
「そ、そうだ!……これって、お前がやってくれたのか?」
そっと、腹を抑えるライト。
手当の仕方は拙いが、それでも、止血とポーションの使用の痕跡が見られる。
コクンと頷く様子をみるに、間違いないようだ。
「そ、そうか……ありがとう」
おかげで助かったよ、という言葉を飲み込むライト。
かわりに、
レーザーの残光が消える中、ライトはいつも通りの光魔法で照明とすることに。
「あ、その──ちょ、ちょっと待っててくれ」
このままでは真っ暗闇だ。
え~っと、ここはいつも通り。
「──『光球』『光球』『光球』『光球』『光球』『光球』!!」
ポポポポンッ!
天井に『光球』を数発撃ちこめば、照明としては十分に過ぎる。なにせ熟練度Lv10だからな。
その光を眩しそうに眺める少女。
光の下に照らし出された少女は、より一層白さが際立つ。
「あ……」
そして、その中に浮かび上がった少女のあられもない恰好に気付いて、
ライトは慌てて視線を逸らす。
な、なんで、ほぼ何も着てねぇんだよ!
「ちょ、と、とりあえずこれを着て!」
自分の纏っていたボロボロのシャツを投げるライト。
リッチに貫かれたり、血で汚れていたりで散々だが、何もないよりはいい。
そのシャツを不思議そうに見つめた少女は、何を考えているかわからない。
いや、そういうのいいから……。
「まずは際どいとこだけでも隠してくれよ……」
……ポリポリ。
まいったな……。
それにしても、光線に進化したあとも、光魔法は問題なく使えるようだ。
……そのおかげというか、なんというか、気が付いた後のBOSS部屋の有様はなかなかに凄いものだった。
あちこちにレーザーの発射痕跡が残り、天井にも巨大な穴が開いている。
そして、ほとんどのアンデッドが消滅し、死体も残っていない。
まぁ、ほおっておけばリポップするのだろうが、BOSS部屋の場合はどうだっけな??
──っていうか。
「…………」
「…………」
ジっとみられていることに気付くライト。
いや、ライトというよりも、ライトの使った魔法か──。
「えっと……」
なに?
「………………」
互いに無言。
ライトはともかく、少女にとっては初対面だろう。
……まぁ、ライトも初対面といえばそうなのだが。
何を言えばいいのか──。
お、そっか。
「えーっと……その、俺はライト──……き、君の名は?」
そうそう、まずは自己紹介──。
「…………」
って、答えんのかーーーい!!
くそ!
とうしたらいいんだよ!!!
「あー、えー、うー」
年端も行かない少女にどぎまぎするライト。
そういえば、この子。体つきはガリガリだが、その纏っている雰囲気と白い肌からもわかるように恐ろしいほどの美少女だった。
「……ん、んんー? その……な、名前だよ、名前──?」
「…………??」
おっふ。無視ぃぃ??ぃぃ??
それとも、しゃべれないのか? いやいや、さっき言葉を発したよね?? なら、そんなはずはないと思うけど──。
「え~っと、もしかして、しゃべれないの、か?」
ふるふると軽く首を振る少女。
「ふむ。じゃあ……名前は?」
「……ヤ、ヤミー」
お、反応あり。
それにしても、ヤ、ヤミーか~……。
……闇の底で見つけた白い少女。だからヤミー。
まんまやんけ……。
どこかちぐはぐな気もするが、なるほど──「ヤミー」ね。
「いい名前じゃないか」
なんとなく零した言葉にポッと顔を染める少女。
一見して感情に乏しそうに見えたがそういうわけではないらしい。
ふむ……こうしてくっちゃっべっていてもいいが、今はやることがある。
「あー。その、なんだ。じつは俺、ここを出ようとおもうんだけど……。ヤ、ヤミーはどうする? 決まってないなら……まずは、ここを出ないか?」
どうして、この子がタンクの中にいたのか、それを聞くのはそのあとでもいい。
そうだ。
今だけは目的を忘れるな……。
『あはははは! 今更気づいたかいライトくーん』
『きゃはは! アイツならチョロいって! きゃーはは』
『冒険者なら、仲間以外は信用してはいけませんよ?』
あーはははははははははははははははは!
ギリッ。
そうだ。
そうだったな──。
ふつふつと湧き上がる怒り。
死んで昇華されてしまえばよかったものの、そう簡単に行くものか。
「アグニール」
……アグニール。アグニール。
アグニーーーーーーーール!!
「………………俺はお前のことを許さないと言ったぞ……!」
アグニーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!
だから、出るからには、当然ぶっ飛ばす!!
なんなら、今からぶっ飛ばしに行くぜッ
そして、
サーヤ。クッソ神父!
「……もちろん、お前らもなぁぁぁぁっぁあああああああああああ!」
ヤミーが不思議そうに見上げる中、
全ての理不尽を糧にしてライトは再び立ち上がる。
闇の底で被害者と出会い。
光の先の、光線を手に入れて──!
だから、
「これが宣戦布告だぁぁぁあああああ!」
──ジャキンッ!!
再びのレーザー!
もうアグニール達はいないのを百も承知でライトは、レーザーを放つ!!
魔力を充填するのではなく、持ち前のそれを、ただただ、感情を吐露するためだけに!!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪
──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪
──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪
──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪
「はぁはぁはぁ……」
ぐっと、こみ上げてきた苦いものを飲み込むライト。
もはや、我慢などしない。
もはや、容赦などしない。
もはや──……。
……──そこまで言ったところで頭を振るライト。
「復讐は何も生まないっか……」
まさにその通りかもしれない。
だけどな……。
だけどさぁ……。
──少なくとも、俺は安心できる。
それは、まさに自己満足の世界だろうが!!
「……………………行こう」
──少なくとも、俺は安心できる。
思いの丈をぶっ放したあと、ライトは少女に──ヤミーと名乗る、その白い少女に手を差し伸べるのだった。