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湯の花   作者: 雲
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箱根の花ーまつりー

 眼の前に、一輪の花。

 花、といっても薔薇や紫陽花、桜のような植物ではない。若い女子大学生である。この女は言葉遣い、態度こそ若くハツラツとしているが、ふとした一瞬になんともいえない落ち着いた態度を見せる。 

 例えば、である。

 私の泊まっている客室で、二人でビデオゲームをしていた時のことである。そのゲームは対戦式の格闘ゲームだったので、勝っては相手を挑発し、負けては悔しさに耐え忍ぶという様相で一時間ほど熱中していた。私の所有していたゲームだったから、最初はもちろん私がほとんど勝った。

 「弱き者と書いて、弱者と読む。」

 「井のなかの蛙、大海を知らず。という諺を知っていますか。」

 などと彼女を適度に煽り立ててやった。

 「うっざ! 調子乗ってんじゃねーよ。」

 「だいたい、初心者の私に勝ったくらいで調子に乗ってる貴方のほうが蛙でしょ。というか早く準備完了ボタン押しなさいよ。」

 興奮した彼女は頬を赤く染めて負け惜しみを繰り返している。イライラしては次の戦闘をせがんでくる。

 調子に乗っていた私だったが、彼女は飲み込みが早かった。「偶然の負け」が増えてきて、気づいた時には力量が逆転していた。

 「井のなかの蛙、大海を知らず。じゃん。」

 彼女はずるそうに笑って、ここぞとばかりに煽り立てる。違う意味で次の戦闘を催促するようになった。少ないレパートリーであまりしつこく煽るから、かなり腹がたってくる。

 私が少し一息入れようと、正座から立ち上がって冷蔵庫の麦茶を取りに行ったときだった。つい不注意で、座卓の角に足をぶつけてしまった。しかも、アキレス腱だったから酷く痛かった。

 「!? え、なに! 足ぶつけちゃったの? ちょっと待ってて。」

 先程の調子づいた高慢な顔から打って変わった真剣な表情。彼女は鞄から救急箱を出してきて、絆創膏を貼ってくれた。膝に絆創膏を貼るまでの冷静な対応。絆創膏を貼る白いなよやかな手つき。絆創膏を貼ろうとして、膝に触れた指が冷たい。彼女が何も言わずに処置してくれている間、私も黙っていた。

 「はい、これでよしと。」

 彼女はこちらに微笑んだ。なんとなく気恥ずかしかったから戸惑って、感謝の歯切れが悪くなった。

 「あ、あぁ、ありがとう。」

 「どういたしまして。蛙さん。」

 いきなり、にーっと白い歯をみせて得意げになった。それから、またゲームに熱中して二時間くらいしてから彼女は家に帰っていった。

 そんな彼女、まつりと名乗る20歳に出会ったのは、雪がしんしんと降り積もる冬の箱根でのことだった。


 




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