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鏡唄  作者: 勿忘草
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「君を失って、もう一年が経ったよ。

世界はあの時と変わらず、無駄に忙しなくどこか悲しい匂いがするよ。君が見たかった世界はまだ叶いそうにないよ」

君の世界は最後まで綺麗でしたか。そんなこと僕が君に聞いてもいいのだろうか。あの時君の世界を壊したのは、他の誰でもなく僕なのだから。でも、そのことを謝ることはしないよ。君が僕の中にある黒い感情を無視したのが原因なのだから。いや、違う。僕は君に謝って許されたいと思いたくないだけだ。君の世界を壊したせめてものの償いとして最後まで悪であらねばならないのだ。だから、僕は君に謝ることはしない。これは僕のエゴでしかない。君という宝物を他の誰かに盗らたくなかったのだ。誰にも盗られたくない感情を先人は嫉妬と名付けたそうだ。最初はそばにいるだけで満足だった。そばにいるだけで幸せだったはずなのに、いつからか、そばにいるだけでは満足できなくなった。君が他の異性と話すだけで、僕は僕でなくなっていく感覚に呑まれていった。

「僕の世界に君は不可欠だった。だから、君を常に手元に置いておかないと気がすまなくなる」

君が僕に見せた最後の顔は恐怖だった。その時わかったよ。僕の世界に君は不可欠だったけど、君の世界に僕は不要だったことに。

「だから、僕たちはこれでさようならだ。もうここに来ることはないと思いたくないよ。さよなら、僕の愛した人よ。どうか僕を忘れてください。黒い感情に呑まれた僕を忘れて幸せになってください。それが僕からの最後の我儘です。さようなら」

君と二人で何度も聞いた大好きなあの曲を僕はもう聞くことはない。あの曲だけは綺麗なまま残していたいんだなんて言ったら、君が嗤いますか。嗤ってくれたら、僕も嬉しいよ。

もうここには来ないよ。君と出会い、そして君が離れていったこの桜道にもう来ることはい。

「君に出会えてよかった」




 「あなたから去って、もう一年が経ちました。世界はあの時から変わることもなくどこか悲しい匂いがするよ。私が見たかった世界はまだ叶いそうにないわ」

きっとあなたは私が死んだと思っているでしょう。あなたから逃れるために、私は過去を捨てた。あなたは私に執着していた。なぜ執着していたかなんてわからないし、わかりたくもない。私にとってあなたは過去の人でしかないのだから。

「あの時、あなたのそばにいるだけで楽しかったはずなのに、あなたはひどく変わってしまった。私の言葉を信じてくれなくなった。それが悲しかった」

あなたは最後まで私に謝ることはなかった。あなたは身勝手な罪滅ぼしとして謝ることをしなかったのかもしれない。それでも、私は謝ってほしかった。謝られても許すことはしなかったかもしれない。それはもうわからない。

「もうあなたと会うことはないと思いたいわ。

ただただそれを願うわ」

あなたと何度も聞いた曲はもう覚えていない。昼下がり二人肩を並べ、コーヒーを飲みながら聞いていたあの曲を私は綺麗なあなたとの最後の想い出に置いておきたいの。それをあなたは笑ってくれますか。黒い感情に?まれることがなく、優しいあなたのままでいてくれたならと思ってしまう私はまだ過去との決別ができていないようです。

「さようなら、愛しかったあなた。もうあなたと会うことはないでしょう。あなたの中の私がどれだけ美化されていようが私には知る由もありません。どうか私のことを忘れてください。さようなら」

隣にはもうあなたは居ない。もうこの桜道に来ることはない。もうこの景色すらも過去のものだ。あなたと私の物語はここでお終いなのです。

「あなたに出会わなかったらよかった」


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