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コラボ企画[空翔ぶ燕]作品

甘美な呪いと夏の日

作者: 葵枝燕

 こんにちは、葵枝燕です。

 この作品は、空乃 千尋様とのコラボ企画となっております。空乃様撮影のお写真をお題に、葵枝燕が文章を綴る——題して、[空翔ぶ燕]企画です。企画名は、僭越ながら私が名付け親です。一応、由来があるのですが——長くなると思うので、後書きで披露させてくださいませ(今回第八弾なので、前回までの作品からご覧の方はご存知かと思いますが、はじめましての方もいるかもしれませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします)。

 そんなコラボ企画第八弾の今回のお題が、「入道雲(二〇二一年八月二日)」です。本文の最後に入っている写真が、お題として提供いただいたものとなっております。

 一応ホラーのつもりで描いたので、そんなお話になってたらいいなと、個人的には思っています。

 本文に、写真が入っております。ぜひ、合わせてお楽しみくださいませ。

 マガタは、晴れの日が嫌いだ。特に、夏場の晴れの日が嫌いだ。

 まとわりつく暑さ、したたる汗、目を灼く陽射し——それらの所為(せい)ではない。むしろ、それらはすきな方だった。サーフィンが趣味で、わざわざ家の裏手に浜辺があり、海原が(ひろ)がる戸建てを選んだほどに、夏という季節がすきだった。

(それなのに)

 今の家に越してきて、十回目の夏が訪れていた。今日も、外は青空と白い入道雲のコントラストが美しい。それに、ほどよく風も吹いている。サーフィンをするには、もう少し風が強い方がいいかもしれないが、それでもいい日和には変わりない。だが、マガタは、ベッドから動かない。カーテンを閉めきり、うつ伏せに寝転がったまま、その場を動こうとしない。

 そのとき、テーブルに置かれた真っ黒なスマートフォンが振動した。マガタは、上体を起こし、それを(つか)んだ。液晶画面に表示されたのは、先月から付き合い始めたばかりの彼女の名前と、待ち合わせ場所に向かうために電車に乗ったことを伝えるメッセージだった。

(あー……会う約束、してたんだっけ)

 本当は、こんな日に出歩きたくなどなかった。それでもマガタは、出かける支度をするため、ベッドから離れたのだった。


 マガタは、昼下がりの道を、ため息をつきながら歩いていた。

 結論を言えば、彼女との久々のデートは散々なものだった。そもそも、デートですらなかった。

 どうやら彼女は、マガタの噂をどこかから聞いてしまったらしかった。 マガタの頭の中では、「そんな一途じゃない人とは付き合えない。もう会わないから、連絡もしてこないで」という彼女の言葉が反響し続けていた。その度に、彼女に対する不満が、フツフツと音を立てて、マガタの中で拡がっていく。

(自分だって、いろんなアイドルやら何やらがすきなくせによー)

 彼女への悪態を吐きながら、マガタは歩く。そんなマガタの耳を、その音は揺さぶった。

「え……」

 それは、マガタが肩にかけた黒いトートバッグから漏れ聞こえてきた。恐る恐るトートバッグをさぐり、マガタの手はそれを摑んだ。

「マジかよ」

 それは、鮮やかな緑色をした二つ折りのガラパゴスケータイだった。それは、十年以上前にマガタが使っていたものだったが、今は使えないはずのものでもあった。とうの昔に解約しているものだったからだ。そのガラパゴスケータイから、懐かしい着信メロディーが流れ出し続けている。止まる気配は、ない。

(しつけぇな。出ないといけねぇ感じか、これ)

 仕方なく、ガラパゴスケータイを開く。液晶画面に表示された名前は、〈モエミ〉。その名前に、マガタは再び驚いた。

「うそだろ……」

 我ながら弱々しく頼りない声だと思った。そして多分、それは恐怖から来ているのだと、マガタ自身が感じていた。

 音はなお、止まる気配なく鳴り続けている。マガタは、意を決して通話ボタンを押した。

「もしもし……?」

『やっと、出てくれた』

 受話器越しのその声は、『ひさしぶり』と、嬉しそうに笑いかけてくる。だが、マガタは、それに対して冷や汗が止まらなくなる。

『どうしたの? 久々すぎて、わたしのこと、忘れちゃった?』

「何で……」

 マガタは、乾いた喉からなんとか言葉を発した。電話の向こうで、また相手が笑う。

『そうだよね、驚くよね』

 数秒の間を置いて、その声に笑みを宿したまま、

『死んだ人間から電話がかかってきたら——ね』

と、言葉を続けたのだった。


 気が付くとマガタは、自宅裏の浜辺にいた。使えないはずのガラパゴスケータイを耳に当て、電話の向こうのもうこの世にいないはずの相手と声を交わし、かすかに聞こえる波の音に耳を澄ませながら、そこに立っていた。

「モエミ」

『やっと名前呼んでくれたね。なーに?』

 電話の向こうで、相手はなおも嬉しそうに笑う。ここに来るまで、相手はただ嬉しそうに話すだけで、マガタにはそれがかえって恐ろしかったのだった。

「オレのこと、怨んでるんだろう?」

『ええ、そうね。だから、こうしてるわけだし』

 躊躇いもなく、間も置かず、それでも声に笑みを宿したままの相手に、マガタは恐ろしさを募らせる。そしてなぜか、その恐怖感を相手にさとられているような気がしていた。

「オレをどうする気だ?」

『どうもしないわ。わたしはただ、こうしてあなたと会話をするだけでいいのだもの』

 マガタは気付かない。なぜか自分の足が、海へ向かって歩いていることに。そして、それを止めることはおろか、止めようという思考すら働いていないことに。

『さぁ、ここへきて』

 相手の声は甘美な毒のように、マガタから思考も感覚も奪い取っていく。そしてそのことに、マガタが気が付くことはない。

 ガラパゴスケータイを耳に当てたまま、海へと歩を進めるマガタを、夏の入道雲が見つめるように聳え立っていた。


挿絵(By みてみん)

 『甘美な呪いと夏の日』のご高覧、ありがとうございます。

 さて。ここから色々語りたいので、お付き合いのほどを。多分、長くなります。

 前書きでも書きましたが、この作品はコラボ企画です。名付けて、[空翔ぶ燕]企画。「空」=空乃様から一文字拝借、「翔ぶ」=お題から想像力膨らませて文章書くイメージ(「翔」という字には、「とぶ」の他「めぐる」や「さまよう」という意味もあるそうで、その意味も含めて「翔ぶ」を採用しました)、「燕」=葵枝燕から一文字——そんな由来で生まれた企画名です。

 そんな今回のお題は、「入道雲(二〇二一年八月二日)」でした。本文最後の写真が、お題となったものです。

 さぁ……というわけで、ここからは登場人物について語ります。

 まずは、主人公のマガタについて。一度に複数の彼女をつくる男です(初っ端の紹介がこれでいいんでしょうか)。そして、それがバレて、最近付き合い始めた彼女から別れを告げられてしまいます。彼が少々ビビり屋っぽいのは、私に似たんでしょうね、きっと。ちなみに彼、名前が二回変わっています。一番目の名前が「モリ」、二番目の名前が「モリマサ」、三番目が「マガタ」です。一番目と二番目は私の考案、三番目は姉の考案です。どうしようもない男なので、せっかくだから嫌いなやつの名前を付けようなんて思ったのがきっかけだったりします。あと、元々そういう浮気性がある男なのか、後述するモエミさんとのことがきっかけでこうなったのかは、作者自身が悩んでいるところでございます。

 次に、モエミさんについて。マガタのかつての彼女です。八年前の夏、心中しようとマガタと共に海に入水し、一人亡くなった——そんな設定があります。死んでなお、彼女はマガタに執着しているんでしょう。そして、確かに怨んではいるのでしょうが、これも彼女なりのマガタへの愛なのかもしれないと思ったりします。ちなみに、初期は「モエ」という名前でした。

 一応、マガタの新彼女(すぐ別れましたが)についても、ひとつ書いておきたいと思います。作中でマガタが「自分だって、いろんなアイドルやら何やらがすきなくせによー」と、彼女に対して不満を抱くシーンがありますが、ここにも私が投影されています。私は、そのコンテンツ毎に推しがいますが、そのことを表しています。推しは一人だけとは限りませんからね。コンテンツ毎といわず、ユニットやグループ毎に推しがいたり、ユニットやグループまるごと全員推してたりもしますし。

 前回は写真から発想を飛ばしてみた感じで書いたのですが、今回はちょっと趣向が違います。時季だからかもしれませんが、こわい話系の本をよく読んでいたので、それを意識してみた——という感じです。

 タイトル『甘美な呪いと夏の日』ですが、今までで多分一番時間かけずに付けたタイトルです。ウダウダ言葉を並べても、何かが違うとしか思えない気がして、素直に付けてみました。

 あと、実は、このお題でもう一つ書いてたんです。このお話とは違って、さわやかな感じの作品です。それも気に入っているので、また、いつかどこかでお披露目できたらなと思います。

 さて。これで語りたいことは語れたでしょうか。何か忘れてる気がしなくもないですが……思い出したら書きたいと思います。

 最後に。

 空乃 千尋様。今回も、ステキなお題をありがとうございます! 三つアイディアが浮かんでると言っておきながら、結局二つしか書けなくてすみません。無駄な余裕感で投稿がギリギリになってしまってすみません。しかも、サーバー混雑でさらにギリギリになってしまって……次回は気を付けなければと肝に銘じることにします。次のコラボもできますように。それから、いつもありがとうございます!

 そして。ご高覧くださった読者の皆様にも最大級の感謝を。もしご感想などをTwitterにて報告される際は、ぜひ「#空翔ぶ燕」を付けて呟いてくださいませ。

 拙作を読んでくださり、ありがとうございました!

――――――――――

改稿情報

 二〇二一年九月二十三日、前書きと後書きを入れました。お待たせいたしました。

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