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十二志   作者: 羽黒鷹丸
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終章 其れから

「じゃあお袋、行ってくる」

「気を付けていってらっしゃい」

 四月も中旬に差し掛かった平日の朝七時三十分、俺はお袋に進級して三年になってから何度目かの玄関先での挨拶をして学校へ行く為、家を出た。まだ少し肌寒さはあるが、日差しが心地良く、ぼかぽかした日和だった。

(俺ももう三年か、まだ実感湧かねぇけど早いよなぁ、あの戦いからもう四か月も経つんだもんなぁ)

 あれから俺達は其々の道に向かって歩き出した。

 仏師田先生は学校を辞め、元々密かに立ち上げていた色即是空空即是色の頭文字から取った慈善団体『S・Z・K・Z』の活動で世界中を飛び回り、人々を助けているらしい。八部衆達は後に、先生に誘われて構成員になったという。活動自体は各々が出来る範囲、其々なりのやり方で行っていくそうだ。

 元摩睺羅伽の紫摩衣は、慈善団体の活動の他に、環境保護活動のボランティアもしている。

 元夜叉の峯夜叉丸は、小さな店を開店し、其処で天然石の装飾品を販売している。

 元乾闥婆の渡瀬剣は、涅槃市でキャバクラとホストクラブを経営している。今度は真っ当にやっているらしい。

 元緊那羅の星名緊は、歌手をしている。なお、もうKINNAとしては活動しておらず緊がボーカル、衣がギター、夜叉丸がベース、剣がドラムのインディーズヴィジュアル系バンド『Un morceau 

pour le futur』を組んで活動している。インディーズながら人気が高く、メジャーデビューの話も来ているらしい。彼らはライブの収益の何割かを、食に困る人達の支援の為の義援金として送る事で慈善活動をしている。

 元迦楼羅の榊刈亜は、俳優をやりながら自身のファンクラブやSNSで、募金を呼び掛けている。

 元羅刹の風無刹那は、世界中を回り、各国の剣術や武器術を学びながらもストリートパフォーマンスをして得た収入の一部を親のいない子供達に施したり、剣術を教えたりしている。いつか日本に戻り得た経験を基にした武器術の道場を建てる事が夢らしい。

 元鬼羅の秋月綺羅、元国修鬼の春日朱姫は、二人組女性ユニット『明日羅』として芸能界入りし、息の合ったパフォーマンスが最近注目され始めている。彼女らも刈亜と同様の方法で慈善活動をしている。

 元龍の藤原龍児、元富單那の親富祖直治は、其々龍神会、傲血会の会長兼愛善会直系組織清水組の若頭補佐として活動しつつ、親父の組への上納金の一部を恋想園等の児童養護施設に寄付している。地獄の住人のみが構成員だった当初は組の存続が危ぶまれたが、当時同じく清水組の若頭補佐で現清水組の若頭兼安藤組の組長、安藤という男から構成員を回してもらい、危機を脱したという。今は自分達の組にも十分な構成員が集まり、心配は無くなったらしい。今は清水組から独立し、其々の組を愛善会の直系組織にする為に躍起になっている。ついでに、龍児は飛龍の戸籍を裏ルートで買い、人間という体で葬儀をしたという。飛龍は龍児の組の若頭だった奴だったから、其れなりに思う事があったのだろう。

 シエルは神谷紫衣流として世界中を回り、紛争地域で傷付いている人の居る国や病気で苦しんでいる人の居る村に行き、適切な処置を行ったり、文字書きの出来ない子供達に勉強を教えたりしている。元阿国の阿隅奏と行動しているようで、月に一度送られて来る現地の人との記念写真と手紙から其れが分かる。

 京也はあの後少し日本に滞在した後、留学先の大学の在る国へ帰って行った。因みに、あいつと戦いが終わったら一発だけ殴らせてやるという約束をしたが、三発も頬を殴っていった。また、これは小兎から聞いた話だが春休み期間に帰国してきた京也と、涅槃市を散策していたら前から三匹の犬を連れて散歩していた人が、小兎達の横を通り過ぎた時に、京也が少し寂しそうな顔をしていたらしい。

 鏡先輩は難関私立大学に進学し、今法律の勉強をしている。夏休み期間に旅行がてら、京也の許へ会いに行こうとも考えているという。

 美紅は多忙な日々で中々学校でも会う機会が減ってしまったが、たまに会うと少しツンとした態度を取りながらも出会った頃より笑顔を見せてくれる様になった。そして最近、刈亜と共演してドラマをやる事になったらしい。なお、先輩とは少しずつだけど距離を縮めていて、最近パパラッチに気を付けながらデートをしたらしい。

 三虎さんは推薦で決まっていた体育大学に進学し、楽しくやっているという。入部した空手部で男性部員だけで2次会した会場が剣の経営するキャバクラだった時は驚いたそうだ。

 羊はずっと行ってきた筋トレや夏祭りで上手くリード出来たおかげで、気になる女の子と良い感じになってきているそうだ。ただ、其の好きな子と涅槃市を歩いていたら、カットモデルをやってみないかと声を掛けられたそうだが、羊が男だと分かると去っていき、其の様子を其の子が見て爆笑していたという。

 竜也さんは卒業後、バイトをしながらボクシングジムに所属し、プロトレーナーのライセンスを手に入れる為に頑張っている。

 月子さんは恋想園で児童指導員として働く為、福祉系の専門学校に進み、児童指導員任用資格を得る為に頑張っている。これは俺の私見だが、田頭さんの分も頑張りたいのではないかと思っている。

 陽太は将来弁護士になる為に勉強を始めた。二年から受験勉強なんてどうしたのかと尋ねても彼は理由を教えようとはしない。きっと何か叶えたい夢ができたのだろう。

 寛治は相変わらず暑苦しいが、後輩やメンバーとも上手くやっていて、少し落ち着いた雰囲気になった。寛治はスポーツ推薦で三虎さんの大学を目指しているという。

 ラギーニは俺へのボディタッチが無くなった以外特に変わったところは無い。ただ、夢ができたらしく、精神科医になる為に大学の医学部に進もうとしているという。尚から聞いた噂だが、ラギーニが週に一回位、ボクシングジムに行き、誰かに会っているらしい。其れをラギーニに尋ねてみても耳元で囁く様な声で「秘密♡」と、答え躱される。

 俺がみんなの事を考えながらぼけっと歩いていると、前を歩く小兎を見つけたので、

「小兎、おはよう」

 と小兎の横に来て挨拶した。

「文人くん、おはよう」

 彼女も挨拶を返した。

「ねぇ、文人くん。進路ってもう決めた?」

「進路か、ぶっちゃけ俺はフリーターでも良いけどなぁ・・・・・・」

「そう? あたしはね、作家さんになりたいの。だから大学の文学部に進学しようと思ってるんだ」

「でも作家になるんなら、別に大学行かなくていいんじゃねぇ?」

「でもあたし、大学に入って色んな世界を知りたいの。色んな人、色んな経験、其れがあたしにとって糧となると思うから」

「そうか・・・・・・そうだよな、せっかく誰もが平等に夢を見れる世界を俺達が守ったんだもんな、『~でも良い』なんて言ってられないよな」

「うん」

「よし、俺は大学の商学部に進学して良く勉強し、いつか、スケボー専門店を開店する」

「スケートボードの専門店の開店か・・・・・・良いね、素敵な夢だわ」

「ああ、絶対実現してみせる。お前も夢の為にこれから受験勉強、頑張っていこうぜ」

「うん」

「まあ、進路の事はこれ位にして、昨日のテレビって見た? あのお笑い番組」

「うん、見たよ」

「あのコンビ超面白くねぇ?」

「え? どのコンビ?」

「ほら『ギャンブル』っていうネタで『お前今めっちゃ調子ええやん』って一方が言ったら相方が、 『そやねん。せやからこの調子でいけるとこまで行っファラウェイ!』っていうギャグのコンビだよ」

 道中、俺は昨日のコンビのモノマネをしながら言う。

「あ~あ、あのコンビね。あたしはそこまでハマらなかったな。文人くんのモノマネは相変わらず上手だけど」

 彼女はそう言って顎に片手を乗せて発した。

「そう? じゃあ其のコンビの後にネタを見せたバビロンズ。其のネタはこうだったよな・・・・・・」

「あはは、あれは面白かった」

 人は誰でも夢を見る。其れは一人に一つとは限らないし、変わる事もあるだろう。そして消えた夢をもう一度見る事もある。そして色んな事を経験しながら感じ、考え、力尽きるまで裸足で歩いてできた足跡が刻まれた道を、人生と呼ぶのだろう。まだ神様も知らない、見た事の無い、足跡も少ない自分だけの道の途中を歩いている俺達は、今日も他愛も無い会話をしながら、学校へと向かった。何時もの様に、この世界と自分の未来を信じて。


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