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十二志   作者: 羽黒鷹丸
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序章 目覚め、そして出会い

「昨日のテレビ見た? あのコンビ超面白くねぇ?」

「そうだね。あたしも夕飯食べながら見てたら、吹き出しそうになっちゃった」

 夏休みが間近に迫った七月下旬、俺は何時ものように幼馴染の犬塚と話しながら学校に向かって歩いていた。日差しが強く少し暑い、そんな朝だった。

「『にらめっこ』ってネタで『俺とにらめっこしようぜ』って一方が誘いを入れたら相方がこう言うんだよな。『たとえ遊びでも負けはセグウェイ』ってさ」

 道中、俺は昨日のコンビのモノマネをしてみせる。

「あはは、猿石くん上手」

 犬塚は手で口を隠す様にして穏やかに笑った。そして話している内に校門に着いた。

「犬ちゃん!」

「コトコト!」

 校門の前で犬塚を呼ぶ声が聞こえる。

「亜美ちゃん、つかさちゃん!」

 犬塚は自分を呼ぶ声に返事をして、栗色のゆるふわショートボブの髪を揺らしながら友達の許に走っていった。其の時に甘い香りが俺の鼻孔を擽った。

(あいつ、香水付け始めたんだ。だから何だという話だけど・・・・・・)

 俺はそう思いながら、下駄箱で友達の尚と智と合流し、自分のクラスに向かった。

 自分の席に座り、尚と智と話していると、後ろから犬塚と其の友達の磐見亜美と橘つかさの声が聞こえた。

「あ、勧めた香水付けたんだ」

「知ってる!『FALLING MY EYES』っていうやつだよね。良い香りするよね」

「うん、付けてみて良かったかも」

(ふ~ん、あれも友達の影響だったんだ。流され易いんかな、あいつ)

「おい猿、俺の話聞いてる?」

 ふと犬塚の事を考えていたら、尚から呼ばれて我に返った。

「悪い、聞いてなかった。何だっけ、尚」

「まったく、俺は真剣に悩んでるっていうのにめでてぇ奴だよ、お前は」

「尚也がさ、今の彼女と上手くいってねぇんだと」

 智は呆れ顔でそう言った。

「また? 尚。今度は何」

 俺も呆れながら尚に聞いてみる。

「じつは今の彼女束縛するタイプでさ、ただの友達に戻った元カノに会おうとしたらすげえキレるし、レインの返信も少し遅れたら電話してくるし重いんだよな。もう別れようかな」

 バスケ部で180cmの長身の尚は事ある毎に彼女を作るが、飽き性の為、三ヶ月と続いた試しが無かった。

「お前も俺みたいに互いを尊重して付き合っていけば長続きするんじゃねぇの?」

 智が尚をからかってみせる。

「うるせぇ! そういえばお前、犬塚と仲良いけど付き合ってんの?」

 尚が俺に尋ねてきた。

「いや、ただ幼馴染ってだけ。まあしばらく彼女いねぇし、狙ってみても良いかもね~。なんつって」

 俺はおどけてみせた。

「いや、猿みたいな奴に渡せないっしょ。犬ちゃんが穢れる~」

「あはは、言えてる~」

 後ろから亜美とつかさが囃し立てる。

(まあ金髪ソフトモヒカンにピアス、制服をラフに着ているチャラ男が、控えめなお洒落女子にちょっかいを出してきたらそう思うよな)

 俺は亜美とつかさの冷やかしに納得しつつ、

「まったく亜美ちゃんもつかさちゃんも手厳しいなぁ。僕ちゃん泣いちゃう」

 とおどけてみせた。

「あはは、ゴメンゴメン」

「ゴメンゴメン」

 亜美とつかさはそう笑うと、教室中が笑いに包まれた。

 

 キンコンカンコンとチャイムが鳴り、午前のかったるい授業が終わり放課後になった。部活に行く者、其のまま帰る者と其々の目的で教室を後にしていく。

 俺は尚と智と共に昼食を食べに食堂へ向かった。周りにはこれから部活があるからか、運動部と思われる生徒が犇めき合っていた。


「じゃあ俺ら部活行くから」

「ああ、またな。尚、智」

 尚と智を見送り、俺は家に帰っていった。

 家に帰り、自分の部屋で漫画を読んだり筋トレをしたりと適当に過ごしていたら、すっかり夜になっていた。

「文人、夕飯!」

 一階から俺を呼ぶお袋の声が聞こえきたので、俺は階段を下りて親父と姉貴とお袋で夕飯を食べた。

 其の後、外に走りに行ってシャワーを浴びてテレビを見ている内に夜中となり、自分の部屋に入ってベッドに仰向けになった。

(俺も何か部活に入ってみようかな)

 そんな事を考えながら目を閉じようとしていたら、窓の外にオーロラが架かっていた。

(オーロラってこんな時期に出るもんだっけ? まあいいわ、寝よ)

 そう思いながら、眠りに就いた。


「文人、朝食!」

 お袋が呼ぶ声で目が覚めた。俺は朝食を食べ、支度をして家を出た。そうして間も無く行き掛かりで犬塚に会った。

「オッス!」

 俺は犬塚に声を掛けた。

「あ、おはよう猿石くん」

 犬塚は挨拶を返してきた。

「今日も暑くなりそうだな」

「うん、そうだね。何でも午後から30℃超えるんだって」

「マジか! 道理で日差し強いと思った」

 俺は若干汗ばんでいる額を拭いながら言った。

「ところで猿石くん。昨日のオーロラって見た?」

「あ、見たぜ。『この時期にオーロラ見えんだ』って、思ったけど。犬塚も見たの?」

「あ、うん。部屋で本読んでたら何か外にぼやっとしたものが見えて気になったから見てみたらオーロラだった」

「俺自体オーロラ見んの初めてだったから珍しいつーか何というか」

「あたしもオーロラ初めて見たけど綺麗だった!」

 犬塚は珍しく興奮している様に見えた。

 何だかんだ話している内に学校に着き、俺達は別々に其々の友達とクラスへ向かった。

「あのさ、お前ら昨日のオーロラって見た?」

 俺は尚と智に聞いてみたが、二人とも首を横に振った。

「いや、見てねぇけど話題になってんじゃん。クイッターとかネットニュースとかで」

 尚がそう言ってスマホの画面をこっちに見せてきた。そこには天文学者のコメントをコピペした記事、宇宙人の何らかのメッセージだと騒ぐクイート、オカルト学者がコメントをしたワイドショーの動画が張り付けられたクイート等色々あった。

「まあ、どうせ直ぐこの話題も廃れていくだろうぜ」

 智がそう吐き捨てる。

「でもさ、其のオーロラ見た奴がいきなり『ぐわ~俺の左手が!』とか叫びだしたりしてな」

 尚がそう言ってみせる。

「そうそう、『左手に呪印? なんだこの力は⁉』つってね」

 俺はノリながらふざけた。すると尚と智は

「わはは、中二病か漫画の影響受けすぎだろ!」

 と、嘲笑った。

 程無くして担任が現れ出席を取る。

「はい、烏帽子さん以外は全員居ると。其れじゃこれから終業式だから体育館に向かって」

 担任の仏師田先生がそう言った後、俺達は体育館に向かった。

 

 しばらくして終業式が終わり、一学期最後のホームルームを迎えた。

「皆さん明日から夏休みだけど、羽目を外しすぎないように。旅行に行く人は怪我や病気に気を付けて楽しんで下さい。其れから――」

 担任が夏休みの注意事項や其の他連絡事項を言っている。しかし、俺は明日からの高校生活二度目の夏休みの事を考える余り、ほとんど聞いてはいなかった。

「・・・・・・其れでは素晴らしい夏休みをお過ごし下さい」

「起立! 気を付け! 礼!」

「ありがとうございました!」

 ホームルームが終わって放課後、俺は尚と智と共に昼食を食べに食堂へ向かった。

 

「じゃあ俺ら部活行くから」

「俺、この後部活見学してから帰るわ」

「うん、分かった。じゃあまた後で」

「ああ、また後で」

 俺は尚と智を見送り、とりあえず智が所属しているサッカー部から見ようと部室へと歩き出した。

 サッカー部を見た俺は続いて尚の所属するバスケ部、他の運動部、文化部と順に見て回った。

(なるほど色んな部活が在るんだな。まだ迷ってるし、入部する部決めんのは二学期になってからでいいな)

 そう感じながら、日が暮れた街を自宅に向かって歩いていた。

 やがてひっそりとした廃工場の前を通った時、目の前に古びたレインコートを着た人がフードまで被って立っているのが見えた。

(こんな晴れた満月の夜に何でレインコート着てんだ、こいつ)

 そう思いながら横を通ろうとした時、

「グゲゲ、ニク、ハカイ・・・・・・」

 そいつはそう呟いた。

(何だこいつ、薬でもキメてんのか⁉)

 そう思った刹那、そいつは右手を振り上げ俺の右肩目掛けて振り下ろしてきた。俺は咄嗟に体を右に90度捻って後ろへ跳んだ。右手はシャツの胸の部分を掠り、掠ったところに爪で切り裂かれた様な跡が付いた。

「何だお前、行き成り何すんだ!」

 俺はそいつに向かって叫んだ。しかし話が通じるような様子では無かった、というよりフードが捲くれ上がった面は人間とは思えなかった。血走った赤い目、真っ青な皮膚、白金の髪、鋭く尖った犬歯と爪、そして尖った耳。

 そいつは再び俺に向かってきた。俺は堪らず廃工場の方向へ走った。廃工場の中で撒こうと思ったのと、鉄パイプが落ちていれば、いざとなったら其れを武器にして身を守ろうと考えたからだ。其の際、遠くから走ってくる音が二つ聞こえた。

 工場の中は入り組んでいたが、撒こうにも距離が近すぎて中々撒けない。其れどころか後ろを振り返りながら走っていると、そいつに似た容姿の奴が二人増えていた。

 俺は必死に逃げたが、曲がり角を曲がって咄嗟に入った錆びた工作機械だらけの部屋には出口が無かった。俺は追い詰められた。

 途中で拾った鉄パイプを振り回してみてもそいつらは少しも怯まず俺との距離を縮める。

「何だよこれ、訳分かんねぇ・・・・・・」

 俺は呟いた。

「グオ~、ニク~!」

 化け物達が襲い掛かる。

「クッソ~、これからサーフィンとか色々してぇのにふざけんじゃねぇ‼」

 俺は叫んだ。そして化け物達の爪が俺の心臓を貫こうとした其の時、俺の体が光に包まれた。

「グオ~」

 化け物達は呻き声を上げながら吹っ飛ばされて、壁や周りの工作機械等に頭部や腰、全身を打ち付けた。

「あ、どうした? 何が起きた?」

 俺は状況が分からずにいる。そして左手を見ると手の甲に『申』の字が赤く浮かんでいた。

「左手に呪印? 何だこの力は⁉」

 俺は思わず大声を上げた。

「其の呪印は十二支の力を持つ者の証で、其の力は十二支の一体、申が目覚めた時の力」

 隣から冷静な声が聞こえ、声のする方を向くと、小柄で白いフードを被った男が立っている。

「・・・・・・は?」

 俺から上擦った声が漏れる。

「だから、其の力は十二支の申の力だって言ってる。そして奴らは欲堕人という知性も無い欲だけの怪物。いわば欲だらけの人間の成れの果てといったところだ」

 フードの男はただ、冷静に語った。

「グオ~」

 混乱しているそばから奴らが立ち上がり、こっちに向かって突っ込んできた。

「何かしてみせろ! ではないと死ぬぞ」

 フードの男はそう発した。

「何かつったって・・・・・・金剛猿槍?」

 頭の中で声が聞こえた。

「『金剛猿槍』って何だ? だけど其れが何か何故か分かる!」

 俺は鉄パイプを奴らに向けて伸ばした。其の瞬間、鉄パイプが金色に輝き忽ち槍の様になった。

「喰らえ~‼ 金剛猿槍煉獄六十葬‼」

 そう叫び、一瞬で一体につき二十回の突きを喰らわした。すると奴らの体は蜂の巣の様になり、傷口から血が噴き出し声を上げる事無く前から倒れ込む様にして動かなくなった。

「はぁはぁ」

 俺は息を弾ませながら其の場にへたり込んだ。そして気付いた時にはさっきのフードの男は消えていた。

「何だよこれ。本当、漫画じゃねぇんだから」

 俺は混乱のあまり少し泣いた。


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