宇宙人が攻めてきたっていう夢オチをちょっとひねってみた
家紋 武範様主催【夢幻企画】の参加小説です。
オレは叫びながら、近くにあった店に飛び込んだ。
店はいい感じに寂れていて、人の気配がない。
良かった、と胸を抑えたのも束の間。店の奥からガタリと音が聞こえた。
心臓の音がやけに耳に響く。今はそんなことよりその音の正体を確かめたいのに。
こちらはなるべく音を立てないようにしながら、そろりそろりと移動して。
商品棚の隙間から恐る恐る奥を覗くと、のそのそと動く白い服が見えた。
ほっと息が漏れる。
奴らは白い服を着ない。白は貴色だからだ。
美しい高貴な我らの姫だけが、その肌を白くする。
姫様への敬意として、灰色肌の奴らは白い服を着たりしない。
だから人と宇宙人の見分けをするのは簡単だ。
人間は白い服を着れる。宇宙人は白い服を着れない。
本当は白い布でも何でもいいから肌に持っていくのが確実なんだが、今はそんな悠長なことはしてられない。
だが、この緊急事態、わざわざ白い服を着ている宇宙人なんていないだろう。
つまり、この白い服を着て這いつくばっている人は人間って訳だ。
同じ人間なら、助けてやんないと。
オレは、一度店の外を見て、まだ奴らがうろついているのを確認して首を振った。
暇な連中だ。わざわざ昼間から騒ぐなんて……。
そういうのは夜やってこそ楽しいんだろ。
せっかく人間の星に来たんだから、観光していけばいいのに。
なんて、のんきなことを考えながら老人を抱き起こし、絶叫した。
は!? ゆ、夢か。そうか夢か。なんだ夢か。
そうだそうだ、宇宙人なんている訳ない。
今時、この星は平和なんだ。なんたって、我々の種族が治めているからな。
宇宙人なんて目じゃない。けってなもんだ。
さあて、顔洗って、飯食うか。
そんで鏡を見た俺は、夢通りの宇宙人を見て、絶叫をあげた。
隣の住民が何事かと駆けてきたが、話を聞くとあきれたように言った。
「なんだい、あんた。この星は何年も前にあんたの種族に侵攻されただろうに。あんたもその場にいたんだろう?」
「うう、そうだけど白い服の人が倒れてて」
「それは去年のギアロ爺さんの事件と混じってるね。あのときあんたが駆け付けたから、爺さんはまだ生きてるじゃないか」
「白い服を着た宇宙人だったんだ!」
「それはあんただろ。姫様の貴色と似た色が着れるなんて、って先月の誕生日に生成り色の服をあげたら、ものすごく喜んでたのはあんただよ」
隣のおばさんは、現政府の腑抜け具合を少し愚痴ってから。
「でも、あんたのとこが攻めて来てから、ちゃんと統治してくれるようになったから、むしろ生活は楽になったよ。あんたみたいな宇宙人がそこかしこに住んでて賑やかだし、本国からの観光客であたしたちの懐は潤うしね」
とはにかんで言った。俺の肌は夢で見たのと違って、灰色をしていた。
読んでくださった方と、家紋 武範様に感謝を。
ひねり過ぎてパニックにあるまじきほのぼのさ。