♥ チワワン「 夏のホラー2020 」
とある駅のプラットホームに設置されているベンチに座って、電車が来るのを待っていた。
本当なら今頃は彼氏のゆっきーと楽しいデートをしている筈だった。
昨晩からお弁当の仕込みをして、ゆっきーに喜んでほしくて早起きして、お弁当を作った。
張り切って洒落もして、ウキウキ気分で現地集合の場所まで行ったのに…………。
彼氏から連絡が来たと思ったら、デートのキャンセルを求める内容だった。
キャンセルしたいなら、当日じゃなくて、前日にしてほしい事を私は何度も伝えていた。
それなのにゆっきーと来たら、何時も当日にキャンセルの連絡を入れて来る。
これは完全に悪意が込められた嫌がらせなんじゃないかしら?
何かの腹いせ?
八つ当たりや苛立ちを私で晴らしているとか??
そもそも私は本命の彼女じゃなくて、浮気相手の方だったりする??
浮気相手ですらない都合の良い遊び友達の場合だってある。
有り得なくはない。
仮に私が本命の彼女だったとしても、知らない内に2番手や3番手の “ 取り敢えずキープ女 ” に落とされているかも知れない。
思い当たる原因が無いわけじゃないし…。
私は男性が苦手で、男性不信の気がある。
男性恐怖性じゃないだけマシだけど。
幼稚園,小学校,中学校時代に心無い男子の悪質な悪戯の被害に遭った所為で、私は男性に対して苦手意識を抱いてしまうようになってしまった。
校庭の草むしりをしている時に土の付いた草を「 食べろ 」と迫られた事があるし、授業中に消ゴムのカスを投げ付けられて何度も勉強の邪魔をされた事もある。
給食の時間に椅子をガンガンと蹴られて食べるのを邪魔された事もあれば、好きな歌手の名前を間違えてしまった事を態と大声でからかわれた事もある。
足下にスライディングされて、教室の床に後頭部を打ち付けて痛い思いをしたし、お腹と股間の間を蹴られて痛い思いもしたし、階段を降りる時に背中を押されて落ちそうになって怖い思いをした事もある。
プールの時間に背後から頭と背中を押されて溺れさせられ掛けて苦しい思いだってした。
私への悪口を書き殴られたラブレターを渡された事もあれば、教室の中で告白されて大声でからかわれた事もある。
未々あるけど、本当に陸でもない学生時代の思い出。
私に嫌がらせをした男子なんて全員、この世から消えてしまえばいいのに!!
呪いでも祟りでも悪霊でも悪魔でも何でもいいから、誰か奴等を殺してくれないかしらね!!
そんな事を思いながら、大人しくて人見知りな私にも初めて好きな人が出来た。
2歳上の大学生で、私の先輩になるんだけど(////)
何度も食事をして、映画を観に行って、水族館へ行ったり、お花見だってした。
初めて参加したバレンタインデーには、市販品だったけどチョコレートを先輩に渡した。
私が先輩の事を好きなのは、先輩にはバレバレで気付かれていたかも知れない。
私が先輩に告白する前に、先輩から「 この後、ホテルに行かない? 」って言われて、私の初恋は終わった。
飲食店で夕食を終えた後に言われた事だから、ホテルの中にあるレストランとかで食べ足りない分を食べるのかと思って聞き返したけど、そうじゃなかった。
私は先輩を好きだったし、片想いしていた。
付き合えたらいいな──って思っていた気持ちもあった。
だけど…ちゃんと気持ちを伝えていなかったし、告白もしていなかったし、付き合ってすらいなかった。
先輩から「 好きだよ 」とか「 付き合おう 」とか「 俺の彼女だよ 」とか言われた事は1度もない。
付き合ってもいないのにホテルに誘うのって、好いてくれてる相手に対して失礼な事じゃないの??
同じ人間として見てくれていたんじゃなかったの??
同じ人間として接してくれていたんじゃなかったの??
私は先輩の口から発せられた心無い「 この後、ホテルに行かない? 」の一言にショックを受けて、それ以降は必要な時以外は男性を避けるような生活を送っていた。
そんな私にも春が来た。
男性が苦手で男性不信気味な事と、男性と親密な関係になる事に抵抗がある事を正直に打ち明けた私をゆっきーは受け入れてくれた。
「 それでも構わないから付き合おう 」って言われて、恋人らしくない恋人付き合いが始まった。
ゆっきーの腹の内の魂胆なんて、エスパーじゃない私には分からない。
男と親密な関係になる事に抵抗のある面倒な女なんかと態々交際しようなんて思うのか──、男心は解らない。
もしかしたら、自分なら彼女を変えられるとでも過信していたのかも知れない。
──で、取り敢えずは頑張ってみたけど、無理そうだから付き合い易い他の子に内緒で乗り替えちゃえ……って感じなのかな??
そうなっても仕方無いと思ってるよ、ちゃんと。
付き合ってるのに手を繋ぐ事すら拒否るような女と誰が楽しく付き合えるって言うの??
自分でも思うんだから、私から他の女に乗り替えるゆっきーを責めたりはしない。
しょうがないから諦めてもいい。
だけどね?
他の女に乗り替えるにしてもだよ、ちゃんと私と別れてから、相手の女性と正式にお付き合いをしてほしいと思うのは私の我が儘なのかな??
私ともちゃんと別れないで、二股を掛けてるような……浮気をしているような……不誠実なお付き合いはしてほしくないの。
私の思いは間違ってるのかな??
だから、私はゆっきーを殺しに行くの。
だって、何時私に危害を加えて来るのか分からない危険人物を野放しにしておくなんて怖い事は出来ないもの。
だから、私はゆっきーを殺すの。
──あっ、電車が来た。
ゆっきーの為に早起きして作った私の憎悪と農薬を入れた特製弁当を持って、サプライズでマンションへ行くの。
最高の笑顔で特製弁当を届けたら、ゆっきーはどんな顔をしてくれるかな??
きゃふふふ(////)
ベンチから腰を上げて立ち上がった私は黄色い線の後ろで電車がプラットホームへ入って来るのを待っている。
何処から入って来たのか、1匹のワンコが色んな人の足元に絡んでいる。
可っ愛い〜〜〜ん♥
チワワだぁ〜〜〜♥
チワワちゃんは色んな人のズボンの裾を食わえて引っ張ったり、靴の紐を食わえて引っ張ったり、吠えたりしている。
可っ愛いぃ〜〜〜ん♥
首輪は…………してないみたい。
野良チワワって事??
やっだ、野良チワワなら飼いたい!!
電車がプラットホームに入って来た。
チワワちゃんは人の足元をウロウロしている。
このまま放っていたら駅員さんに捕まって保健所に連れて行かれて殺されちゃうかも知れない!
駅員さんが来る前に私はチワワちゃんに近付くと、抱っこをして確保した!
抱っこして近くで見たら、チワワちゃんは首輪をしていた。
なんだぁ、飼い犬かよ……チッ。
まぁ、可愛いから許すぅ〜〜♪♪
踏み付けられたり、怪我をしても可哀想だし、私はチワワちゃんを抱っこしたまま改札口を出る事にした。
ゆっきーの家に行いって、ゆっきーを殺すのは、次回の楽しみとして取っておく事にした。
命拾いしたね、ゆっきー。
運の良い奴め!!
今回は新しい彼女と好きなだけムニャムニャすればいいわ!
改札口を出ると、何かを必死に探している様子の若い夫婦の姿が視界に入った。
もしかしたら、チワワちゃんの飼い主かも知れない!
自宅に帰って来た私は、無駄になった特製殺人弁当を生ゴミ箱に捨てた。
部屋着に着替えて、クッションの上に座ったら、テーブルの上に置いてあるテレビのリモコンを取った。
電源を入れたテレビの画面に映ったのは、私がゆっきーの家へ行く為に電車を待っていた駅だった。
因みに若い夫婦はチワワちゃんの飼い主だった。
チワワちゃんと会えて、若い夫婦からは感謝された。
私が乗る筈だった電車が、玉突き事故の被害に遭った車とぶつかって脱線事故を起こして、死者も出た大惨事になっていたらしい。
何でも下りていた遮断機を突き破った数台の車が線路に侵入して来て、派手に衝突したみたい。
…………電車に乗ってたら、私が死んでたね。
やっだ、怖い!!
駅に迷い込んで来たチワワちゃんに感謝しないと、だ・ね☆