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終わりのない終わりに。  作者: 時をかけたい少女
3/15

蝉の声の消え入る夜、木々の合間に



「はぁ、、、はぁ、、、。」


木々の合間に見える微かな明かりだけを頼りに森の中を進んできた。


すでに来た道がどの方向なのかも怪しくなるくらい森の奥深くまで入り込んでいる。

しかし、その割に頼りとなる明かりは最初に見えていた頃とほぼ変わらない大きさのままだった。


結構歩いてるはずだけどな、、。


体感的にもう30分は歩いている。

木の枝や棘などによって、肌がむき出しになっている頬や腕にはいくつか血のにじむ細かな傷ができていた。


かき分けた草木から滲んだ何かの液体が、べとべとと指や手のひらにまとわりついてきて不快だ。


もともと森に入る予定などなかったため、デニムにTシャツというラフな服装なことがひどく恨まれた。


首筋をじっとりとした嫌な汗がつたっていく。


「あぁ!シャワー浴びてぇ!!」


いらいらとした思いをかき消すように叫ぶが、その声はしんとした森に吸い込まれるようだった。

まるですべての音を森の木々と暗闇が飲み込んでいるかのように思える。


そういえばあれだけうるさく聞こえていた蝉の鳴き声も、今はもう聞こえない。


これだけ進んできて何もなかったらどうしようか、、、。


時間が経つにつれ、不安な思いは大きくなっていく。


あるいは引き返すべきかもしれない。


と先への期待よりも不安が大きくなり始めたちょうどその時、舗装こそされてはいないが「道」と呼んでよさそうな場所にでた。


土を踏み固めただけの獣道のようだが、どうやら方向的には明かりのほうに続いているらしい。


「助かった、、。」


少なくとももう草木をかき分けながら進む必要はなさそうだ。

歩きやすくなった道をどんどんと明かりの方へと進んでいく。


しばらく進むと、道の両脇に石像が置いてあるのを見つけた。

非常に簡素で粗削りだが、それは「こけし」のように見える。


両方とも高さ50センチほどの棒状で、頭部を模したように上部が丸みを帯びていた。


一般的なこけしによくある顔や着物などの装飾がないため断定はできないが、自分の記憶にあるもっともこれに近い造形のものがこけしだった。


少しだけ興味をひかれたが今はそれどころじゃない。

双子のこけしを後にし、また明かりに向かって歩き出した。


道なりに奥へ奥へと進むうち、ようやく明かりがはっきりとした形を成してくる。


更に明かりへと近づいていくと、それはランプや街灯などの人工物ではないことが分かった。


どうやら「かがり火」のようなものが焚かれている。


足取りを速め近づくと、明かりはどんどん大きくなりその全容が見えてきた。



「なんだ、、、これ、、、?」


たどり着いたのはちょうど盆地の淵にあたる部分だった。

眼下にはその盆地の中一体に広がる巨大な木造建築物が見える。


バチバチと燃える無数のかがり火に照らし出されたそれは、()()()()のようにも見えた。


よく見るとその巣はいくつもの木造家屋がより集まって形成されており、なぜか生き物を連想させるような気持ちの悪さがあった。


「変な建物だけど、明かりがあるってことは人がいるってことだよな、、。」


しばらくの間突然目の前に広がった異様な光景に目を奪われていたが、気を取り直して道の続くままに建物へと向かう。


道は一直線に建物へと続いているわけではなく、盆地の勾配が緩やかな場所を選んで作られたらしい。

相変わらず鬱陶しいほどの木々に囲まれてはいるが、道のりはそれほど苦ではなかった。


そのまま少し進むと勾配はほとんど感じなくなり、急に道が開けた。


まず目に飛び込んできたのは切り立った崖、そしてそこにかかる年季の入った吊橋だった。


崖へと近づき、おっかなびっくりのぞき込むと20mほど下に川が流れている。

遠目に見ても川の流れは速く、流されたらひとたまりもないだろう。


ごくっ、と意図せず喉が鳴った。


随分時間をかけてここまで来たんだ。

戻るという選択肢は無い。


しかし、この急流にかかる橋を渡るのはかなり勇気がいる。


橋の袂に触れ、強度を確かめようと揺らしてみる。

すると込めた力に比べて以上なほどぎしぎしと揺れている様子が見える。


橋板もところどころ抜けているようだ。

正直全然渡りたくはない。


数秒の間、うつむいて考えたのち

「あぁ!もう!全部八橋が悪い!帰ったら何回か殴ったらぁ!」

勇気、というよりは八つ当たりの気持ちでなんとか一歩目を踏み出す。


そのまま一歩ずつ進んでいくが、頼りない橋板はその一歩毎にぎしっ、ぎちっ、という不穏な音をあたりに響かせた。


仮に踏み抜いても大丈夫なよう、全力で手元の縄を掴むのも忘れない。


そうやって足元に注意を払っていると、気が付いたら無事に吊橋を渡り切ることができた。


どうやら吊橋自体の長さは20mもなかったようだ。

ホッと一息つき、より強くなってきた明かりの方へと歩みを進める。


吊橋を渡ってからなおも続いていた林を抜けると、もう建物は目の前だった。

ここまで近づくともはや全体は見渡せないが、細かな部分は先ほどより鮮明にうかがえる。


一体何軒の家が寄り集まったらこんな風になるのだろう。


家同士が梯子や階段、板、縄、などで連結されている。

しかし、その技術は拙く所処壊れている場所が散見する。

平屋や二階以上の建物の連結も多く、屋根の上に人が歩けるようなスペースも見えた。


昔テレビか何かで見た九龍城を想起させるような乱雑なつくりだ。

これはもはや建物というよりひとつの集落だろう。


上から見た時には気づかなかったが建物の周りは高い柵がたてられている。

端が見えないことから、恐らく盆地の中に広がる建物全体をぐるっと囲んでいることがうかがえた。


柵からは威嚇するようにいくつもの杭が生えている。

そういった攻撃性もあいまり、かがり火によっててらてらと照らし出された建物はなんだか禍々しい物に見えた。



「これは、、、普通じゃないよなぁ、、、。」

思わずぽつりとつぶやく。

人はいるかもしれないが、この建築物をまともな神経をした人間が作りあげるとは思えない。


ここまで来たことを若干後悔し始めるが、もともとは立ち往生してしまったのが原因だ。

どれだけ禍々しい雰囲気であろうとも、他に手が無い以上はこの建物の住人に助けを求めるしかないだろう。


狂人でも話くらいは通じるかもしれない。

通じてほしい、、。


意を決し、柵の切れ目から内部へと侵入すると、手近な扉から建物の中へと入っていった。



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