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終わりのない終わりに。  作者: 時をかけたい少女
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1999年8月。

陸の孤島と呼ばれる某県の県境にて、土崎一色(つちざきいっしき)は生まれて初めての立ち往生に出くわしていた。



ことの始まりは5月。

バイトで貯めた貯金をはたき、中古バイクショップでVESPAを購入した。

学校の帰りに一目惚れして以来4ヶ月後のことだった。



「いまどきVESPAかよ。ほんと一色は変わってるな」

納車されたバイクを見て、友人の八橋達也(やばせたつや)が呆れた声を出す。


「まぁせっかく買ったんだし来週からちょうど夏休みだろ。日本一周とかしてみたら?」

ふざけた友人のふざけた一言を、なんの気の迷いか真正面から受け止めた。


全く頭がおかしくなっていたとしか思えない。

しかし、その時は八橋の提案をとても魅力的なものとして捉えてしまったのだ。



旅に出ると決めてからの一週間は正直何を準備していいのかわからなかったので無為に過ごした。

漠然と見たいものや食べたいものを考えては予算の少なさに絶望し、旅にでること自体が目的なのだと自分に言い聞かせる。


受験が最盛期を迎える高校3年生の夏。

周りが志望校の判定に一喜一憂する中、自分はニュースが伝える来週の天気に釘付けとなっている。


自分がクラスでも浮いた存在なのは自覚していた。

友達が居ないわけではない。


しかし、将来に対し真剣に向き合う同年代とは温度差があると感じていた。

ここが自分の居場所ではないような、他にすべきことがあるような、そんな漠然とした感覚。


それを『思春期』と呼ぶのだと八橋に笑われたが、この焦燥感に単純な名前をつけられてたまるかと憤慨したのを覚えている。


幸い、と言ったら怒られるかもしれないが俺に両親は居ない。

だから将来を決める大切な時期に暴挙に出ようとも止める人間はいなかった。



8月1日の早朝、5時。

朝焼けの始まった紫の空の下、新聞配達の兄ちゃんと会釈をしてすれ違う。

錆びた階段は気を使って降りてもカンカンと甲高い音を立てた。


アパートの自転車置場にたどり着き、バイクに被せたシートを外すと朝露がキラキラと光を反射する。

普段起きる時間とは異なり、人も車も見当たらない空気はずいぶんと清潔に感じられる。


「……暑くなりそうだな」

なんとなくそれっぽい一言をつぶやき、ようやく乗り慣れてきたVESPAに腰掛けて国分寺のアパートをあとにする。

日本一周というだいそれた目標の割に、コンビニにでも行くような走り出しだった。



小倉通りを北へ抜け府中街道を走る。

バイクとは言え、原付は高速道路を走れないので下道をひたすらに走り続ける旅だ。


特に当ての無い旅だったが『旅立ちといえば北』という自分でも謎の価値観に基づきひとまず東北を目指す。

目的地が無いため、地図すらもっていない。


なんとなくの方角と道々にある青看板だけを頼りに進んでいく。

「まぁ日本は島国だし。どっかで海に出たらあとは海岸をなぞっていけばいいだろ」


と自棄にも似た考え方をしていたが、不思議と気分は高揚していた。

およそ高校生とは思えない浮世離れした行為に『これから何か始まるんじゃないか』という謎の期待をしているのだ。


正しいティーンエイジスピリットに突き動かされアクセルを握る手に力を入れる。

朝焼けの空は徐々に青へと染まり、夏の日差しがプリズムとなって降り注いでいた。

chips:ボロボロの日誌


19XX年5月27日


遭難から3日、拝島の行方はわからないがなんとか新崎とともに保存食でしのいでいる。

深い霧だ。

尾根を目指していたつもりだが本当に上っているのかさえ不安になる。


拝島が持つ地図だけが頼りだったのになんてことだ。

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