001 さくら、魔法少女になりました
「ゴーレムは土属性だから、風属性で攻撃をする......」
私は絶賛、スマホと睨めっこしている。
「桜〜!まだ、チュートリアルやってたの?」
「だって......読んどかないと、困るかもしれないから......」
「そういうのはチャチャっとやるんだよ〜!!」
「な、渚ちゃん、待って、もう、終わるから......」
「もう、先に、クエスト始めちゃうよ〜!!」
「待ってよ〜......」
私は、何とかチュートリアルガチャまでたどり着く。
「ピックアップ装備やばくない?リリース初日で、ゲームバランス崩壊してるでしょ!」
「そうなんだ......ゲームはよく分からないけど.....」
スマホゲーム『魔法少女、異世界を救う!?』のSSS級レアの目玉はピンクを基調とした猫耳パーカーのような装備だ。
強いというよりは可愛いな......
着てみたい......
出るはずもない装備のことを考えるのはやめて、私は指をフリックする。
「排出率は天文学的数字だからね〜!って、桜、それ!!」
私のスマホには、ピックアップされた猫耳パーカーが表示されていた。
「え、出ちゃった......」
そう思った瞬間、私は光に包まれる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開けたら、そこは、学校の教室ではなくなっていた。
「ここ、どこ......?」
私は周りを見渡した。
私のメガネのフレームの中には鬱蒼とした森が映し出されていた。
見上げた空には、恐竜っぽい、鳥が飛んでいる。
「ど、どういうこと......?」
状況を確認しようとさらに、周りを見渡す。
自分の体の違和感に気づく。
「ん......?今、私......」
私は体の違和感を確かめるべく、自分の体を見る。
「や、やっぱり〜!」
恥かしさのあまり、小さな声の私も、人並みの大きな声を出した。
私は、かろうじて下着をつけていたものの、身につけていたはずの制服が消えていたのだ。
「も、森でよかった......とりあえず、服......」
普段は大人しい私も流石にあたふたする。
「ターザンみたいに葉っぱで服を作れば......」
私は、近くの木の葉っぱを10枚ほど千切ってみる。
「どうやって、繋ぐの......」
私は二進も三進も行かず、葉っぱをそっと、地面におく。
体力のない私はそのまま、座り込んでしまう。
どうしようか、悩んでいると、上から何かが降ってくる。
「にゃーーーーーーーーーー!」
「なに......?」
「受け止めてにゃーー!」
「ええっ、ちょ、ちょ、ちょ」
私の胸に激突する。
「ふごにゃ!」
「痛たたた......」
「クッションが足りなかったにゃ!」
「どういう意味よ!」
「そのままの意味だにゃ!」
「!」
「急に、ど、どうしたにゃ!」
「ね、猫が喋ってるよ!」
「猫、どこにいるにゃ?」
羽の生えた白い色のデフォルメされた猫は、キョロキョロして辺りを確認する。
「どこにもいないにゃ!」
「き、君だよ!」
変な猫は自分の体を確認する。
「にゃにゃにゃーー!にゃんじゃこれーー!」
「ほ、本人も驚いてるよーー!」
「これ、マスコットのルルだにゃ......」
「ルル......?」
ドシーン!ドシーン!
「今度はなに......?」
「あそこにゴーレムがいるにゃ......」
私は変な猫が指をさす方向を見る。
「な、なにあれ......」
「だから、ゴーレムだにゃーー!」
「だから、なんでいるのーー!」
「し、知らないにゃーー!」
ゴーレムの赤いライトのような目が私たちの方を向いてピカーンと光る。
ゴーレムは私たちの方に向かって走ってくる。
「ど、どうしたら」
「出せたにゃーー!」
「なに、どうしたの?」
「これで変身するにゃ!」
変な猫は私に、魔法のステッキを渡す。
「私、チビで胸もないかもだけどそんな歳じゃないよ!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないにゃ、変身するにゃ!」
「どうやって、変身するの?」
「ステッキに祈るのにゃ!」
「どうやってーー!」
「いいから、やってみるにゃーー!」
私はステッキにお願いする。
私に力を貸して......
私の体は光る。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
光り輝く桜吹雪の中、私はクルクルっと回る。
メガネは消えて、下着も消える。
新しいピンクのコスチュームが現れる。
腰のあたりにリボンが弾け出て、頭にはぶかぶかの猫耳フードがバサっとかぶさる。
最後に決めポーズをする。
「まじか〜る☆」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「な、なにこれーー!変身した」
「早く、魔法でゴーレムを倒すにゃ!」
「うん、やってみる!」
ゴーレムは土属性だから、風属性が弱点とチュートリアルで言っていた。
放つなら、風の魔法!!
私は迫るゴーレムに、手のひらを向けて、魔法を放つ準備をする。
ここで気づく。
「ど、どうやって、魔法出すのーー!!」
「適当にやってみるにゃーー!!」
ゴーレムはそんな私をお構いなしに、間合いを詰めて、大きな腕を振り下ろしてくる。
「風魔法、出てーー!!」
私は叫ぶ。
ゴーレムの腕は止まらない。
「ひいい!!」
私はビビって、腰が抜け、地面に尻餅をつく。
顔を守るように腕を前でクロスし、反射的に目を閉じた。
あれ、衝撃がこない......?
私はゆっくりと目を開ける。
ビュオオオーー!!
風魔法がゴーレムの腕を制止させていた。
ゴーレムも負けじと私に腕を振り下ろして攻撃しようとしているが、できないようだ。
「おおーー!!魔法が出た!!」
「出たにゃーー!」
風魔法は私を中心として、球状にみるみる広がっていく。
ゴーレムは上空に吹き飛ばされる。
さらには、周りの森の木々まで巻き込み始め、どんどん大きくなっていく。
「ちょ、ちょ、ちょ、止まって!!」
私の叫び声で、風の魔法は止まる。
「魔法、強すぎるよ!」
上空に巻き上げられたゴーレムは、ドーーンと落ちてきた。
私は、わわわと驚く。
すぐに、ゴーレムは光となって、消滅した。
「た、倒したってことかな......」
「そ、そうだと思うにゃ......」
私たちは一難去って、一息をつく。
「ふぅ」
「一息にゃ」
........。
......。
....。
「って、これどういうことーー!」
「分からないにゃーー!」
私たちは叫ぶ。
「いきなり変な世界に来ちゃったーー!」
「いきなり変な世界に来ちゃったにゃーー!」