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終わり良ければ全て良しってね……何も終わってないけど

「お帰りなさいませアルナ様、大丈夫でしたか!?」


 館に戻って来るなり、リーナが抱き着かんばかりの勢いで私を出迎えた。というか、抱き着かれた。人肌の感触に少しくすぐったさを感じる。考えてみれば、二週間近く館を空けていたことになる。心配されても仕方ない。


「うん、皆のおかげで何とか勝つことは出来たし、しばらくは教会もこれ以上干渉してこないと思う」

「それは良かったです」


 リーナは感極まったように言った。それ以上言葉も出てこないようである。

 旅装を解いて久しぶりにリーナが淹れてくれる紅茶を飲んで館のソファに座るとかなりくつろいだ気分になった。実家に帰って来た気分とでもいうべきだろうか。実家じゃないけど。しばらく私がゆっくりしていると、やがてリーナが申し訳なさそうな顔をする。


「どうしたの?」

「いえ……実はアルナ様が留守にしている間、アルナ様もアリーシャさんもいないので、こまごまとした仕事が大量に溜まっておりまして」

「……」


 当然ながら敵軍が攻めてきているからといって仕事がなくなる訳ではない。むしろ主だった人が皆出払っている上に、民衆も動揺しているのでもめごとは起こりやすい。


 最後の方の数日は実戦はなく、頂上でゆっくりしているだけだったのだから仕事をやっておけば良かった。でも、なかなか出先でそういう気分にはならない。例えて言うなら、部活の合宿で、アクシデントか何かで空き時間が出来たからといって夏休みの宿題をやる気分になるかというと、ならないということだ。


 そこで私は部屋の外でこちらの様子をうかがっているアリーシャの姿を見つける。


「あ、アリーシャ! いいところに来てくれた! ちょうど仕事がいっぱいあってさ」

「人がせっかくお礼に来たっていうのにまたそれ? あーあ、損した」


 アリーシャはぶつぶつ言いながらも部屋に入ってくる。


「アリーシャさんも今回はアルナ様をありがとうございました」


 リーナがぺこりと頭を下げるとアリーシャは少し頬を赤らめて目をそらす。オレイユの件があってからこの二人は仲良くなったような気がする。まあ、仲良くなったのならきっかけは何でもいいんじゃないかな。


「別に、私は助けてもらっただけで何もしてないし……じゃなくて、私は確かにこの領地の鉱石の精錬やら、精錬した鉱石の加工とかの仕事はあるけど、書類の決裁は仕事外だから」

「ああ、ちゃんと役職につけて欲しいってこと? エリル知事とか判事とか色々空いてるけど、おすすめは領主代行かな」


 ちゃんと人材を探して適職につけるという作業をする暇もなかったので依然として空職はたくさんある。代わりにオユンとかオレイユとかミアとかよく分からない人脈は増えたけど。


「いや、絶対いらないから」


 そう言いつつもリーナがアリーシャの分の紅茶とケーキを持ってくると、私の向かいに腰かけてくつろいでいる。アリーシャには悪いけど、彼女の存在はすっかりこの館になじんでしまっている。


「領主代行はほぼ私と同程度の権限を持ってるからどんな仕事でも押し付け……いや、任せられるし」

「その言い換え、あんまり意味ないから。断固拒否する」

「でもアリーシャって役職を押し付けておかないといなくなっちゃうような気がするんだよね。今回も一人で教会に出向いて解決しようとしたし」

「分かった分かった、もうどこにも行かないから役職はいらな……はっ……~~っ」


 しまった、とばかりに照れながら目を伏せるアリーシャ。その台詞はちゃんと言って欲しかったんだけど。


「もうどこにも行かない……これが愛の告白?」


 通りかかったオレイユが首をかしげる。彼女の言葉にアリーシャは顔を真っ赤にして反論する。


「違うから! 大体あんたに愛の何が分かるの!?」

「私には何も分からないけれど、アリーシャは人生の目的が見つかってうらやましい」


 ちっともうらやましくなんか思ってなさそうな無表情でオレイユは言う。


「違うって! 誰がこんなやつのことを人生の目的なんか!」

「うん、オレイユはまず人生の目的へと他人への依存を分けて考えた方がいいと思う」


 そこへエリルの役人が走ってくる。


「あの……盛り上がってるところ申し訳ないのですが、サンタ―リア教徒と冥府教徒が早速揉めておりまして……」

「もう、帰って来たばかりなのにどいつもこいつも仕事を押し付けて! 私が行くから!」


 残念ながらサンタ―リア教徒と冥界教徒のどちらにも理解があるのは私しかいないので、こういうときは私が行かないといけない。そもそも私にはミアに布教を許したという責任もあるし。

 私は仕方なく立ち上がる。


「はいっ」


 するとアリーシャがそっぽを向きながらこちらに向かって手を伸ばしてくる。


「何?」

「わ、私は別にいいけど何か渡していくものがあるんじゃないっ!?」

「え、もしかして……」


 私が忙しいのを見かねて仕事を引き受けてくれる気になったのだろうか。さすがアリーシャ、何だかんだツンデレ的なところがある。


「ありがとう」


 そう言って私は“領主代行”の印を手渡す。いつ何があるか分からないので、いつでも誰かに仕事を任せられるように自分の印と合わせて持ち歩いていて良かった。


「ふう、全く仕方ないんだから……て違う! 私は今日だけ忙しそうだから書類仕事を手伝おうと思っただけで、領主代行なんてやんないんだから!」


 アリーシャは怒って領主代行の印を投げ返してくる。一応重要なものなので投げないで欲しい。まあ、重要なものを無造作に渡した私も私なんだけど。でも、一応信頼出来る人に託したつもりではあるんだけどね。


「えー、どうせ手伝うなら役職ついた方がお金もらえて得だと思うんだけどな」

「だから今日だけって言ってるでしょ!」

「はいはい、リーナ、書類お願い」

「は、はい」


 教会の脅威は去ったものの、降ってきた問題が解決したというだけでこの領地の何かが良くなったという訳ではない。全ては依然としてまだ始まったばかりで、今日も騒がしい日常は続いていくのであった。

 一応これで「第一部完結」的な感じになります。今まで書いたところで直したいところなどもあるので、続きがどうなるかは未定です。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 よろしければ↓の他作品の方もご覧ください。

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