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レスバの強さと議論をまとめられるかはまた別

 その後も敵軍は何度か山を攻め上がってきたが、敵が優勢になるたびに山道の敵は私の魔法で、森の敵はミアの魔法でその都度撃退した。


 結局、この世界での戦いは圧倒的な魔力や武力のある人物が全体の戦局に影響を与えるため、そういう人物を倒すために一騎打ちが重要な役割を占めているということが分かった。特に広範囲魔法というものがある以上、現実の戦争よりも個人の戦力が占める割合が大きいのだろう。もはや私やミアの高火力魔法を止める術を失った敵に勝ち目はなかった。


 しかし私たちは防衛には成功したものの、グレゴール伯軍は山麓から撤退しなかった。このまま撤退すると、本当に負けたことになってしまうからである。

 そのため、私たちも撤退出来ずに何もない山の中に留まることを余儀なくされた。山の中の暮らしは不自由だったが、冥府教徒と騎馬民族と一般兵が交流を深めてくれたのは良かった。


 数日後、伯爵軍から青い旗を掲げた兵士が歩いて来た。この世界では非戦闘員には青旗を持たせる慣習があるらしい。


「アルナ=アルトレード殿にお話があります!」


 いちいち間の者を通すのも面倒なので私も前に出る。


「私がアルナだけど何か用?」

「はい、アーケイン司教殿が会って講和についてお話したいとのことです」


 アーケイン司教。あまり聞いたことはない名前だけど、少なくともごりごりの保守派ではなかった気がする。


「講和も何も攻めてきたのはそっちだからね? 兵を退いてくれればこちらとしても何もないんだけど」

「そ、そこは司教殿とお話ください」


 兵士は困ったような表情になる。彼は本当にただの使者らしい。


「それで、どこで会談する? この辺に会談出来るところはないけど」

「それについてはしきたり通り、両軍の中間地点でどうかと」


 この世界には勝ち負けが明確に決まっていない戦いの講和については両軍の中間地点で話し合うというしきたりがあるらしい。問題はそこが何もない山道であることだけど、それについては特に不満はなかった。


「私はいいよ」

「では翌日の正午に」

「はい」


 こうして向こうの使者は帰っていった。




「大丈夫? 私も行くよ」


 私が戻ってくると、心配そうな顔のアリーシャがやってくる。気になって私たちの様子を見守っていたようである。


「いや、アリーシャが出てくるとかえって話がこじれるからゆっくりしていていいよ。というか、私がいない間軍勢をまとめられるのアリーシャだけだし」

「いや、私もまとめられないけど」


 アリーシャは真顔で否定する。


「……という訳で留守居を任せた」

「本当に、何かあるたびに私に全部丸投げするのやめて欲しいんだけど」


 アリーシャを連れていけば、自分が教会側に身を投じることで戦の幕引きをしようとするだろう。教会側も目の前に彼女がいたら意地でも連れて帰らざるを得なくなるに違いない。それだけは困る。


「いや、任せたと言ったら任せたから」


 そのため私は無理やり仕事を押し付けてアリーシャを留めることにした。アリーシャはなおも不満そうだったが、気づかないことにする。責任感のある彼女は仕事を押し付ければそれを放り出すことはしない。


 次に私はオレイユの元へ向かう。オレイユはここでもぶれずに一人で剣の素振りをしていたが、騎馬民族でも特に腕が立つ者たちが教えを請い、少しずつコミュニケーションを広げていて、今は数人で一緒に黙々と素振りをしていた。時折オレイユは他の人たちに助言のようなことまでしている。


「明日相手の司教と会談することになったんだけど、アーケインって人知ってる?」

「いや、特には」


 オレイユは素振りの手を止めずに答える。オレイユが知らないということはやはり保守派ではないような気がする。


「それなら良かった。今回も護衛お願い」

「うん……でもまさか私がアルナの護衛に落ち着くとは思わなかった」


 オレイユは特に皮肉でもなく淡々と述べる。いや、それとも感情を教えるとか耳障りのいいことを言って護衛としてこき使っている私への皮肉なのだろうか?


 ……今はそれについては考えないようにしておこう。


「まあ、最初は殺しに来たも同然だったからね」

「とはいえ、あくまで人生の意味が見つかるまでなので、もし会談の途中で私の人生の目的を見つけたら護衛やめるかも」


 会談の横で護衛が人生の目的を見つけて去っていくなんて、そんなシュールな光景が実現してたまるか。


「大丈夫、人生の意味について話し合う訳じゃないから」


 ちなみにミアは連れていかないことにした。相手を論破しに行くなら戦力になりそうだけど、建設的な話し合いするのにはいない方がいい気がする。




翌日正午

 私とオレイユが山道の中腹で待っていると、供を二人連れた白ローブの初老の男が山道を登ってくる。顔つきは温和だったが、油断のならない目つきをしており、ただ祈りを捧げているだけの神官ではないことがうかがえた。


「どうも、アルナ=アルトレードだ」

「司教のアーケインと申す。本日は会談に来ていただいて感謝する」


 そう言って彼は軽く頭を下げる。

 こうして私たちの決着をつける会談はテーブルも椅子もなく、お互い立ったままの道端で始まった。最初に領地に来たときもこの道を通ったけど、この何もない山道でこんなに重要な会談が行われるとは思わなかったので少し感慨深い。


「元々そっちが攻めてきたのでは、とか冥府教徒を邪教徒呼ばわりするなら裁判なり何なりにかけてからにして欲しいとか、色々言いたいことはあるけどそれはお互い様だからいったん置いておくとして」

「そうだな。今はどういう気持ちかよりはどうするかを決めたい」


 アーケイン司教はこちらの意図を汲み取ってくれたようだ。


「とりあえず私から出す案なんだけど、アルトレードでも主宗教はサンタ―リアと定める。それで手打ちでどう?」


 ふむ、と私の言葉に司教は考える。一応サンタ―リアを主宗教とすれば向こうも最低限のメンツは立つんじゃないかと思うんだけど。もちろん主宗教という定義に深い意味はない。実質的な効果もない。


「出来ればもう一つ付け足していただきたい」

「何?」

「冥府教を異端と宣言してもらいたい」


 一瞬、は? と思ったが、よく考えると大したことはない提案だった。


「一応聞くけど、宣言するだけでいいってことだよね?」

「そうだ。異端の取り締まりについては各領主の裁量に委ねられている」


 要するに、だめとは言うけど特に取り締まったりすることはないということだ。私はそれを聞いて安堵する。もし教会が実質的な取り締まりを求めて第二第三の討伐軍を編成してこれば大変なことになっていたところだ。


 それを聞いて私は心の底からほっとした。この条件なら飲むことが出来る。


「分かった、宣言しよう」

「では文書を作成しましょう」


 テーブルがなかったため文書作成は手間取ったものの、結局今の条件をまとめた文書が作成され、その場で私たちは調印した。こうしてアリーシャが来て以来の教会との因縁はいったん決着したのである。

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