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※信仰の強さと魔法の強さは特に関係ありません

 翌日。敵軍は相も変わらず中央の山道から攻め上がって来た。こちらの軍勢も急ごしらえで修繕した柵と弓矢で迎え撃つ。兵士たちは昨日はどうにか撃退したという経験があるからか、昨日よりはやや落ち着いて見えた。


 敵軍も盾を構えて慎重に近づいて来る。さらに盾兵の後ろからはぱらぱらと矢が飛んでくる。ほとんどの矢が柵に阻まれたとはいえ、兵士たちに恐怖を与えた。


 が、それだけでは終わらなかった。両軍がじりじりと間合いを縮めていると突然森から火の手が上がった。この森のせいで道は狭くなり、敵軍は苦戦していた。森が焼ければ数が多い敵軍にあっという間に包囲されてしまう。そのため森を焼き払おうとしたのだろう。


 しかし森に上がった火の手はよくよく見るとほのかに青白い。大体、冬でもないのにそんなに簡単に木が燃える訳がない。これは魔法により着火された炎ではないか。そう考えたミアは炎上している地点に向かった。


 そこにいたのはサンタ―リア神官が纏う白いローブを纏った男だった。年齢は四十ほどで、神官らしい柔和な顔つきをしているが、右手からは青白い炎を出して片っ端から木々に火をつけている。傍らには鎧で重武装した護衛らしき兵士が二人ほど控えている。


「サンタ―リアの教義では森の木々を燃やすのが善行なのですか?」


 ミアは皮肉交じりに尋ねてみる。


「あなたは冥府教の方ですか? これは誤った教えを正すための正義の戦いですよ」


 そう言って神官は柔和な顔つきのままミアの方に手をかざす。その顔つきは自分たちの正しさを微塵も疑っていないようだった。


「あなたも信仰の炎により浄化されてください……『セイクリッド・フレイム』!」


 男の手から青白い炎が発生し、奔流のようにミアに向かって迫る。ミアは首元にぶら下げている宝石を握りしめる。


『マジックシールド』


 ミアの前に光の盾が展開され、炎は全てそこに当たる。炎は盾の表面をなめるように襲い掛かったが、それがミアに及ぶことはなかった。炎が一通り流れていくと、ミアはやや煽るように言った。


「あなたの信仰というのはその程度ですか?」


 マジックシールドは防御魔法の中でも初歩的な魔法であり、術者の魔力がよほど高くない限りはそこまでの防御効果をもたらさない。

 ミアの言葉に神官の優男は初めて表情を歪めた。


「おのれ……邪教徒風情がっ」


 そこで優男はミアの体が淡く光り輝いているのに気づいた。どうも首元の宝石が光の中心で、そこから体中に光が渡っているように見える。これはもしや宝石から魔力が供給されているのだろうか。


「おい、その宝石は何だ!?」


 神官は怒鳴る。通常、ここまで魔力を使用者に供給する魔道具は普通存在しない。ミアは涼しい顔で答える。


「私の信仰に感銘を受けた神様がお与えくださったものですよ……と言ったら信じます?」

「そんなことがあるか! お前たちが信ずる神など実在する訳がない……『セイクリッドフレイム』!」


 先ほどよりも本気の炎がミアを襲う。まばゆいばかりの光が辺りを照らし、周囲で戦っていた兵士や冥府教徒たちは一斉に目をつぶった。


「……まあ、そもそも私たちの信仰に神という概念自体存在しないんですけどね。邪教徒呼ばわりするなら私たちの教義をきちんと勉強してから来てほしいのですが。では今度はこちらも本気を出させてもらいましょうか」


 そう言ってミアも詠唱を始める。


『来たれ来たれ冥府の獄炎よ……暴虐なる侵略者たちを焼き尽くせ……ヘルフレイム!』


 冥界の門がまだ存在しない以上冥府の獄炎などというものも存在しないのだが、ミアはあえて信仰の信憑性を増すためにオリジナルで作った炎魔法をそれらしい詠唱で発動していた。


 ミアの詠唱に合わせて首から下げた宝石が光り、手から噴き出した黒い炎が優男の手から吐き出される白い炎がぶつかる。音こそしなかったが、まばゆいばかりの光とともに二つの炎が衝突して爆発が起こる。


「くそ、邪教徒め……こんな奴らに負けるなど……」


 もはや神官の顔は優男の面影が残らないぐらいぐちゃぐちゃに歪んでいた。額に汗を流し全身全霊を込めて魔法を使うが、それでも黒い炎は少しずつ神官に迫っていく。このままではいずれ負ける、神官はそう直感した。


「お前たち、こいつを討ち取れ!」

「はいっ」


 神官は傍らに控えていた兵士たちに必死の形相で命令を下す。それを聞いた兵士たちは機敏な動きでミアの方に向かっていく。


 片方の前にはミアの傍らに控えていた冥府教徒が立ちふさがった。そして何かの魔法を唱えると風の刃が兵士を襲う。兵士は必死にそれを剣で受けるが、もはやミアに斬りつけるどころではない。冥府教徒は武術に関しては素人だったが、魔術には秀でていた。


 そしてミアの腰に差さっていた剣が一人でに浮き上がるともう一人の兵士を襲う。兵士は必死で剣を抜いてそれを受ける。しかし人間相手と違い、一人でに浮かぶ剣相手ではどこを斬っていいかが分からない。こちらも完全に足止めをくらった。


「さて、終わりにしましょうか」


 ミアの一言とともに黒い炎はひと際大きくなる。そしてわずかに残っていた白い炎を飲み込んだ。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 神官は悲鳴とともに黒い炎に包まれた。こうして森を焼き払う作戦はとん挫し、森の戦闘は一日目と同様、決着はつかなかった。ただ、決着がつかないというのはどちらかというと防衛側の勝利とも言える。

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