”神の手”アリーシャ
さて、いきなり挑発を受けて忘れていたが、よくよく思い返してみると “神の手”の異名をとる錬金術師アリーシャと言えば名前自体はかなり有名な人物である。私の中では宮廷でふんぞりかえっているもっといかめしい人物のイメージだったので、目の前の少女と結びつかなかった。
鉱物の勉強は錬金術の勉強と被る内容もあるため時々名前が出ることがあったが、当代の錬金術師としてはおそらくトップクラスの人物だろう。しかも錬金術の知識だけでなく、魔道具の製作などにおいても当代一流と名高い。少なくとも、こんな辺境でうろうろしていていい人材ではない。
「ところであなたはどうしてこんなところに?」
「……そ、それはもう、決まってるでしょ! 錬金術師として珍しい鉱石があると聞けば探しに行かないと!」
そのとき私はアリーシャが答えるまでにわずかな間があったことにかすかな違和感を覚えた。だが、それを私が口にする前にアリーシャが話題を変えたので私のちょっとした違和感は意識の底に沈んでいった。
「ところでこの石、いくらか譲って欲しいんだけど。この素材ならもしかしたらすごい魔剣や魔道具が作れるかも……いや、私なら最強の魔剣を作れる!」
アリーシャは興奮した口調で言う。それはまるで欲しかったおもちゃを前にした子供のようでもあった。
すごい魔剣や魔道具。そして最強の魔剣。その言葉を聞いて私のテンションも否が応にも上がっていく。領主の仕事をさせられているけどせっかくファンタジー世界に転生した以上そういう役得も欲しい。
そもそも私は資源探索と鉱物精製は出来るけどそれを使って何かを作ることは出来ない。売って儲けることは出来るけど、せっかく目の前に当代一流の錬金術師がいるんだから作ってもらえばいいのか。
「じゃあ私のためにこれ使って最強の魔剣を打ってくれない?」
私の言葉にアリーシャは不敵な笑みを浮かべる。
「へえ……。最強の魔剣を打つとなれば高くつくけどいい? 言ったら悪いけどこんな辺境の領主に払えるかしら」
「いいよ。多分ユキノダイトの鉱脈は結構大きいはずだから。ちなみに石の価格は暫定的にこれくらいで一万Gぐらいでいいかな」
ここの鉱脈は大きいから現物支給で許されるなら実質ただみたいなところはある。これを現金に換えるには誰かに売らないといけないけど、そんな当てはないし。
私は握りこぶしを見せる。この辺も私というよりはアルナの脳内の常識でそれくらいだと判断した価値なので実は私はぴんとこない。
それを見てアリーシャも少し考えた末頷く。
「まあ妥当じゃない? ただ私の魔剣も高くつくから覚悟しといてよ」
「値段に見合った性能ならいいよ。あと原料費も引いといてね」
「ところでどんな魔剣が欲しいとかある? おそらくこの石は魔法との親和性がとても高いから、魔法をこめればどんな性能にも出来ると思う」
アリーシャが石を手にもって魔力を込めると、石はきらきらとカラフルに輝く。さすがにわざわざ課金しただけのことはある。
とはいえ、どんな魔剣が欲しいか、か。
私のようにそこまで魔力がある訳でも力が強い訳でもない人物はどのような魔剣を持てば強いのだろうか。そこでふと私は思う。目の前のアリーシャもその辺りは私と似たような条件ではないか。
「もしアリーシャが魔剣を持つとしたらどんなのにする?」
私の言葉にアリーシャは少し驚いたような顔をする。
「まさかこの私を参考にするって言うの?」
薄々感じていたことだが、彼女はかなりプライドが高い人物のようである。
が、アリーシャは私をじっくり眺めた末に、諦めたようにはあっと息を吐いた。私のことを認めてくれたのだろうか。
「……まああなたも只者ではなさそうだけど。まず魔剣には大まかな方向性が二つある。一つは物理的に強い剣を魔法で強化するパターン。もう一つは使用者の魔力を具現化する媒介として使用するパターン。後者は剣というよりは魔道具に近いかもね。私は力はないから後者寄りかな。はい、ここまでが前提ね」
「なるほど」
全てを理解した訳ではないが、とりあえず頷いておく。
「その上で、私ほどの天才だと大量の術式を組み込んだ魔剣を作る。戦闘の際にどの魔法を起動させるかを瞬時に判断しないといけないんだけど、時々で最適な組み合わせを選ぶことで最強の力を発揮できる。まあそんな高度な魔剣、私にしか使いこなせないだろうけど」
なるほど、INTが高い人がそういう系の魔剣を使うのか。このゲームは知力と魔力が別ステータスとして存在するので、私は頭がいいだけで実は魔力はそこまで高くない。
解説しながらアリーシャは自分の想像にわくわくしている。
「ちょうどこの鉱石、大量の魔法を組み合わせても大丈夫そうだし。自分用に最強の魔剣を作ってしまおうかな」
妄想の世界に旅立ち始めたアリーシャを引き戻すように私は声をかける。
「あ、じゃあそれ私にも作って」
「は?」
アリーシャがドン引きした様子でこちらを見る。
「しがない辺境領主がこの私と同じ魔剣を使おうって言うの!? 高位の魔剣は誰にでも使いこなせる物ではないのよ!?」
「うん」
失礼だな。しがない辺境領主であることは否定しないけど。
「屈辱だわ……でもそこまで言うなら後悔させてあげる。最強の魔剣を作って、そして格の違いというものを教えてあげる!」
どうやらアリーシャの闘志に火がついたようである。ただ、それで素晴らしい魔剣を作ってもらえるのならばありがたいことではある。
「じゃあここの石もらえるだけもらってくから。あと工房とかある? ちょっと貸して欲しい」
いや、ないんじゃないかな? 工業のレベル初期値だし。
「ごめん、私しがない辺境領主だから……」
私の言葉にアリーシャは一瞬刺すような視線でこちらを睨みつける。
「は? まあいいわ、私には神の手があるから。魔道具の量産はまだしも、魔剣一本作るならどの道ほぼ手作業だし、やってやる」
「任せた」
こうして成り行きでアリーシャは私の元に来ることになった。優秀な家臣は父とともに死んでしまったため、誰であれ優秀な人材は大歓迎である。
私はアリーシャと一緒にエリルに戻った。そしてアリーシャのために、館の近くで空き家になっていた家を一つ回収して、そこを臨時のアリーシャの工房とした。アリーシャはかなり不服そうだったが、ため息を一つつくだけで了承してくれた。その辺の苦労は報酬で報いよう。
一方の私もやることが山積みで、アリーシャの心配をしている暇はなかった。
まずは麓のヴォルノ村の人々に採掘を行わせる。そして採掘したユキノダイトの精練も行わなければならないので、館に戻って工場の手配もしなければならない。そして精錬の方法を教え、作ったものをどこに保管するかとか工場の人手の手配とかもしなければならない。
私以外にその辺のことに詳しい人がいない(人材不足ではなく私の能力が高いだけだと思いたい)ため、その辺の手配も基本的に全部自前になる。
そんなこんなで慌ただしい日が三日ほど続いたころ。私の館に一振りの剣を携えたアリーシャがやってきた。鞘に包まれているので分からないが、これが魔剣だろうか。
不眠と興奮によるものかその目は真っ赤に充血しており、顔全体が紅潮している。その様子は私の首を獲りに来たバーサーカーと言っても過言ではないくらいだった。
「出来たわ……」
ぷち設定
STR 6 物理攻撃の威力、肉体を使う系の行動全体に関係する
VIT 1 防御力、HP、毒や病気に対する抵抗に関係する
AGI 1 命中回避、素早い身のこなしが必要な行動全体に関係する
INT 12 頭の回転の速さと知識量を表す。
MAG 5 魔力。ただし魔法に関する知識はINT
POW 1 精神力、MP、一部魔法に対する防御力に関係する。
初期値はオール1、20点割り振り、最高値12です
スキル……関係する能力値とスキルLvの合計が高いほどうまい。
例えば、資源探索はINTを使うスキルなので、
INT12の人はINT2、資源探索Lv10の人と同じくらい資源探索が得意。