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課金転生 ~異世界転生で学ぶ政治と宗教~  作者: 今川幸乃
Ⅱ 騎馬民族の姫オユン
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VS沼地の王 Ⅰ

「ところで辺境に出現した魔物というのはそんなに手強いの?」


 ユキノダイトの方の問題は解決したものの、結局騎馬民族が移動してくる問題は解決していなかった。騎馬民族が私の支配地域に移動してくるのは良くない。


 辺境だとしても略奪集団がうろうろしているのはどうかという問題はあるけど、それは後で考えよう。もしかしたらユキノダイトの輸出とかで利益が出れば略奪については解決するかもしれないし。


「そういう訳ではない。我ら騎馬民族にとって土地を移動することは定住民族に比べて抵抗が少ないからな」


 なるほど。私たちなら自分の土地に魔物が来たら迎え撃つけど、彼らは場所を変えようってなるのか。戦闘というのは少なからずリスクのある行為なので分からなくはない。


「あの、もし私が魔物討伐に協力したら元いた土地に戻ってくれない?」


 私の言葉に彼女はふむ、と首をひねる。


「確かに領地の中央の方でうろうろされるのが嫌だという気持ちは分かるが、難しいと思う。奴らは占領した地を沼地に変えるからな」


 確かにそれだと敵を倒しても土地が返ってくるとは限らないのか。それなら倒すだけ無駄か。いや、そんなやばい魔物がいるんならむしろさっさと倒さないとこの領地がもっと大変なことになってしまう。


「分かった、倒した後土地がどうなるかは分からないけどとりあえず倒そう」

「確かに我らとしてもこれ以上沼地が広がるのは困る。それに領主殿はなかなかの強さをお持ちだからな。では早速行こうか」

「え?」


 今から? 私はオユンがさも当然のようにそう言ったので耳を疑った。


「こうしている間にも沼地は広がっているかもしれない。幸い私の馬はおそらくこの領内で一番速い。一緒に乗っていくといい」

「それはそうだけど」


 騎馬民族、意思決定のスピード感すごいな。

 気が付くと私はオユンの馬の背に乗せられていた。さすが騎馬民族の姫だけあって膂力はある。私の体などひょいであった。


「領主殿は馬は問題ないな?」

「う、うん」


 私は不安になりながら答える。


「では振り落とされぬようしっかり捕まっていてくれ」

「え……うわあああ」


 言い終わらぬうちにオユンは馬を駆けた。一応私もこちらに来てから馬に乗っていたが、何というか次元が違った。例えるならようやく歩けるようになった子供がオリンピック選手が本気で走るのを目にするようなものだろうか。


 風景は流れるように消えてなくなり、凄まじい風圧が私に吹き付ける。後ろで掴まっているだけの私でこれなのだから、普通に騎乗しているオユンはその比ではないだろう。私は必死でオユンの腰にしがみついた。おそらく常日頃から鍛えているのだろう、その腹筋は固くてごつごつしていた。


「いい景色ではないか?」


 ちらっと見ると、周りにはどこまでも続く平原が広がっている。もちろんところどころに人や集落はあるのだが、あっという間に通り過ぎていく。こうしてみるとやはりこの領地は広い。そしてあまりに何もないところが多い。


「そうだね。こうして見ると土地に対して人の数って少ない……ああ、しゃべってると舌かみそう」

「そうか? 私たちは普段、定住民族でいう会議的なものを馬に乗りながらしているが」

「嘘でしょ……」


 これには呆れるより他なかった。


「まあ、慣れないならいいが。では申し訳ないが私たちは話し合いをさせてもらう」

「もう勝手にしてください……」


 が、本当にオユンたちは恐ろしい速度で馬を駆けさせながら話を始めた。まず鉱石強奪は失敗したこと、そしてオユンは今から沼地の王(という名前で呼ばれているらしい)に会いにいくということを長に伝えて欲しい。そして供は二人ほどでいいので残りは帰っていいとか、アルタイ商会に領主の話を伝えておいて欲しいとか、そんなことであった。確かに話し合いというよりはほぼオユンからの指示通達であった。


 途中で十数騎の騎馬と別れ、二人だけを引き連れたオユンは辺境領のさらに辺境の辺りにやってきた。

 確かに走っていくにつれ、今までの気持ちのいい草原の風と異なり、なんとなく淀んだ空気が漂っているのを感じる。霧まで出ているのか、遠くの方が見えづらい。そして徐々に地面の湿気が強くなってくるのを感じる。


「こんなところには住みたくないだろう?」

「それは確かにそうだ」


 さらに進むにつれて、足元も草原ではなくぬかるんだべちゃべちゃしたものに変わっていく。さすがにオユンも馬を駆るスピードを徐々に緩めていく。こんな広範囲の土地や空気ごと変えてしまうなんてどんな魔物なのだろうか。それとも違う何かなのだろうか。


 そんなことを考えていると、だんだん足元のぬかるみが深くなり始め、沼地のようなものが見えてくる。もっとも、ぬかるみと沼地の境界線は曖昧なものだったが。

 その辺りでオユンはようやく馬を止めた。走りづらいからか、供の二騎は少し遅れてついてくる。というか、後ろに私を乗せて供二人よりも速いのはすごい。


「ここだ。私たちはただ『辺境の沼地』とだけ呼んでいる。正確に観測したことはないが、おそらく前に来たときよりは広がっているな」


 沼地の水は濁ってはいるものの、単に汚いだけで毒などで汚染されている様子はない。中に生き物はいるのだろう、時折中で何かが蠢いたり、泡のようなものがぷくぷくと浮いてきたりするのが見える。


 すでにここで新たな生態系を築きあげているようだ。いっそのこと何かに利用出来そうですらあるが。とはいえ、馬でぶっ飛ばして数時間かかるような場所まで来て根気よく沼の水質改善なり魚釣りなりをする気にもなれない。

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