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課金転生 ~異世界転生で学ぶ政治と宗教~  作者: 今川幸乃
Ⅱ 騎馬民族の姫オユン
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騎馬民族の姫は正直者

 その後私たちは互いに武器を収め、鉱石は先にエリルへ運んでもらい、落ち着いたところでようやく話を始めることになった。こんな何もないところで、とは思ったけど騎馬民族たちは何もないところで会話することを全く気にしていないようだった。私が馬に乗っていなかった都合で向こうも全員馬から降りて話を始める。


「まずはこのたびの襲撃、まことに申し訳ない」


 オユンが礼儀正しく頭を下げる。そう言われても私としてはどう答えていいのか分からない。許すとは言えないし、許せないって言うと話が終わるし。


「うん、まあ、出来ればもうしないでもらえると助かるけど」

「……」


 私の言葉にオユンは微妙に視線をそらす。いや、そこは形だけでも「もうしません」と言ってくれないと話が始まらない。さては正直者だな?

 しかたがないので私は話題の角度を変える。


「少し前まではこの辺では略奪してなかったみたいだけど、何か理由でもあるの?」

「それについては今までは何も奪うものがなかったからだ」


 ひどい理由だな。しかしオユンの方はいたって真剣な表情で話している。


「それにこのごろ、アルトレード領の辺境では魔物が増えている。そのため、我らも追い立てられるように中央にじりじりと寄っていかざるを得なかった」


 オユンが少し申し訳なさそうに言う。他人の領地で勝手に群雄割拠するのは本当にやめて欲しい。とはいえ、位置関係的にはそうなっているのか。


 魔物が全体的に増えた場合、中央の方であれば討伐されるが辺境に向かうに従って討伐されづらくなるため、辺境の方でだけ増殖するのも分かる。で、彼女らは魔物を倒すよりは領主の支配領域に近づく方がリスクが少ないと判断したのだろう。その流れでいくとこれからも色んな勢力が中央に集まってくるのではないだろうか。それは困る。


「もう一つ聞きたいんだけど、奪った鉱石はどうするつもりだったの?」

「アルタイ商会という懇意にしている商会があって、そこに売るつもりだ」

「アルタイ商会?」


 私は当然知らないけどアルナの記憶にもない。領地をずっと離れていたせいでローカルな事情を全然知らない。


「アルタイ商会はそれをどこに売るんだろう?」

「そこまでは」


 オユンも知らなさそうである。


「で、彼らはいくらで買ってくれるの?」

「その辺は持っていってからおいおい……」

「姫様、それはちょっと……」


 不意に近くにいた男がオユンをたしなめるような動作をし、オユンはしまったというように口をつぐむ。言っては差し支えがあるようなことなのだろうか?

 いくら警備が薄いとはいえ命がけで略奪した鉱石を値段もよく分からない相手に売るだろうか。しかも他に売ることが出来そうな相手もおそらくいないだろう。


 ということはアルタイ商会は騎馬民族が売るものを言い値で買わなければならないということだろうか。しかし必需品ならともかく新発見の鉱石を買わなければならないという状況はありえるのだろうか。

 ということは商会は騎馬民族に軍事的に従わされていて、力づくで売りつけられるということだろうか。ただそれなら値段を知らないということはないはずだ。いくらぐらいで売りつける予定か大体決まっている気がする。


 となると……そうか、そもそも商会自体騎馬民族がやっているのではないか。確かに騎馬民族だからといって牧畜と略奪だけで生計を立てるのは難しいだろう。略奪した物を売り、必要な物を買える商人的な機関を持っていないと大変だろう。


 もし商会と騎馬民族が一体なのであればとりあえず先に物だけ盗んでゆっくり売価を考えればいいということになる。で、商会と騎馬民族が同一だとばれるのがまずいからオユンは話を遮られたのではないか。普通の商会だと思ってた相手が略奪民族と同じだったってばれたら取引してもらえなくなるかもしれないからね。


「なるほど、そういうことか」

「……嘘だろう?」


 私がぽんと手を打つと、オユンが頭を抱える。周辺の騎馬戦士たちも一様にもうだめだ、という表情になる。

 商会との裏の繋がりがばれた以上商売を中断させられるとでも思ったのだろう。


「相談があるんだけど、せっかく商会があるなら私の代わりに鉱石を売りさばいて欲しい」


 私の提案に最初オユンはぽかんとした。普通、自分のものを略奪しようとした相手に商売を持ちかける人はいない。

 が、オユンは横の男の目配せを受けてこほん、と咳払いをする。


「い、いや、我らは商会など持っていないが?」


 すごい棒読みだ。ここまでばれてる以上もう全部言ってしまっても大して変わらないんじゃないかな。


「じゃあ持ってないという体でもいいけど。鉱石の精錬までは私がやるから、ユキノダイトをそのアルタイ商会という商会に買ってもらえるよう仲介して欲しい」

「え、精錬までしてくれるのか!?」


 オユンの目の色が変わる。商会が精錬出来る訳ないし、どこかに売るにしても売る先が精錬技術を持っているかも分からない。鉱山とかない地域の領主はそんな技術持ってないだろう。そう考えると私の提案は彼女らにとっても魅力的なようだった。


「そりゃあ精錬するために輸送していた訳だし」

「分かった。それなら我々が買い取っても構わない。ただ、私たちも元々ただだったら盗もうぐらいの予定だったから、まだ販路とかが開拓出来た訳ではないから、そんなに高くは買えない」


 相変わらず正直だな。私から盗むのはただ同然か。というか、商会と騎馬民族が別だという建前が完全にどっかに行ってるのだろうがそれはもういいのだろうか。

 そう思って隣を見ると、騎馬民族の男はやれやれ、と首を横に振っていた。まあ、主人が正直者なのは悪いことではないのだろうか。


 ただ、私としては知らない領主相手にいちいちユキノダイトを営業して回るのは面倒だった。それぐらいだったら多少安くなってもアルタイ商会に一任して、私が何もしなくても採掘→精錬→輸出のサイクルが回るようになってくれた方がいい。


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