キャラメイク
長い人生において誰にでも魔が差してしまう瞬間というものはあると思う。それが私、新田由紀乃の場合は今訪れた。センター試験も終わり、いよいよ受験本番まで一年ほどとなった高二の冬。私は何となく、本当に何となく“ミスティカル・フラクシア”というブラウザオンラインゲームにアクセスしてしまった。
どんなゲームかと言えば、フラクシア大陸のエトワール王国という国の一領主となって領地経営をするというよくある内政シミュレーションゲームである。
何で急に内政がしたくなったかと言えば、直前に読んだ領地経営物のラノベが悪いのかもしれないが、そもそも息抜きにと思ってラノベに手を出したのが敗因かもしれない。
何はともあれ、始めてしまったものは仕方ない。とりあえず私はキャラメイクを行う。ちなみに主人公は辺境領主の息子or娘で王都に留学していたところ、父親が急死して急遽跡を継ぐというシチュエーションから始まるらしい。とりあえず名前と性別を決める。
名前:アルナ・アルトレード 性別:女
とりあえず適当にファンタジーっぽい名前をつけてみる。
続いてアバターの作成に入る。何となく私は自分と似たキャラを作る。髪型は黒のセミロング。癖っ毛で先の方だけ少しウェーブさせる。よく眠そうと言われる目。後はちょっと可愛く見えるように適当に調整する。胸は……多少盛ったけど誤差の範囲内だろう、うん。
それが終わると、いよいよパラメータの割り振りに入る。このゲームの特徴として、主人公のステータスだけでなく主人公が治める領地のステータスにもポイントを割り振れるというものがある。
ちなみに主人公は領主になるのでファンタジーゲームにありがちな『職業』や『クラス』といった概念はない。基本的にはステータスとスキルだけで決まる。
私はどちらかというと特化したキャラよりも何でも出来るキャラが好きなので、満遍なくポイントを割り振っていく。自分のキャラは割り振り終えたが、そこで『領地』の項目が回ってくる。領地には『農業』『工業』『商業』『資源』の四種類の数値があった。
とりあえず各項目をクリックしてみる。そして資源の項目まで見ていくと、『稀少性』『埋蔵量』『採掘技術』の三つが並んでいる。『稀少性』か。これを極めたらレアメタルとか出るのだろうか。商業を上げるぐらいなら珍しい資源を出して売っても同じじゃないかな。
そんなことを思いつつ私は『稀少性』『埋蔵量』『採掘技術』のレベルを全部10にする。ちなみにレベルはキャラメイク時点では10が最大で、上がるほど必要なポイントが増えるので満遍なく上げた方が多分強い……ように思える。私はそれを無視して確定ボタンを押す。
“『資源』のレベルがMAXになったため『オリジナル資源』が解禁されました”
何か急にシステムメッセージが出てきた。確かに『資源』の項目を開くと『稀少性』『埋蔵量』『採掘技術』の三つの他に『オリジナル資源製作』の項目が出来ている。しかしその項目をクリックしても
“領地ポイントは残り0です。ポイントを購入しますか?”
というメッセージが出るばかりだった。
が、このままただ引き下がってはただ『資源』にポイントに振りすぎてキャラメイクをミスった人みたいになってしまう。
気が付くと私の前には
『オリジナル資源
・耐久性 レベル10
・含有魔力 レベル10
・加工性 レベル10
・魔法親和性 レベル10
・重量 レベル10』
の文字が並んでいた。傍らにはただの紙屑と化したウェブマネーカードが落ちている。ちなみに名前も付けられるとのことだったので本名をとって“ユキノダイト”にした。
とはいえこうなったからにはキャラの方のステータスとスキルも変更しないと。そう思ってスキルを探してみると『探索系』に『資源探索』、『知識系』に『鉱物精製』というスキルがあったので二つともレベル10にする。どちらも『INT』が影響するスキルだったので『INT』も10にする。ステータスは少しポイントが残ったので一応STRとMAGに振っておく。
出来た。これで資源に特化した完璧な領地とキャラクターが出来た。資源極振りがこのゲームで強いのかは分からないが、もはやここまで来ると強いかどうかは関係ない。私が満足できた、それだけが重要だ。仮にクソキャラだったら一生資源だけ採掘して生きていこう。
“ゲームを始めてしまうとステータスを変更することは出来なくなります。ゲームを始めますか?”
私は震える手で“はい”を押す。ただのゲームではあるが、すでに私のウェブマネーカードが入ってしまっている以上ただのゲームでは済まなかった。
てっきりそこでゲームが始まるのかと思いきや、画面には新たなメッセージが表示される。
“ゲーム内転生 10,000Pt”
「は?」
何だゲーム内転生って。ちなみに1Ptは大体1円に相当する。私は手元に残っているウェブマネーカードを開いた。ウェブマネーをPtに変換するとちょうど10,000Ptになった。やはりそのときの私は疲れていたとしか思えない。普通に考えて詐欺かもしれない胡散臭いボタンを気が付いたらクリックしていた。
その瞬間、PCの画面から白い光が発されて私の身体を包み込む。
えっ、何これ、と思わず声に出してしまう。
しかし私が何かしようとする前に辺りが真っ白くなったかと思うと、その瞬間私の意識は遠くなった。