捥がれた翼
「いたぞ! 炎姫だー!」
「そっちに行ったー! 逃すなー!」
「俺だ! 俺が見つけたんだからな!」
「あそこが怪しいって言ったんは俺だぞ!」
「うるせぇ早いもん勝ちぶっ」
素手でも戦い続けるアイリーン。その拳は血に塗れている。また、蹴りも多用したためブーツすら血に染まり足跡を残す結果となったのは皮肉だろうか。
ろくに寝ることも食べることもなく戦い続けた結果ついに、一歩も動けなくなってしまった。とうとう腕を動かすことすらできなくなってしまったようだ。
「ひゃはぁ! 炎姫がいたぜぇ!」
「俺だ! 俺からだからよ!」
「しゃあねーな! 早くやれや!」
「お、おい待てがあっ!」
斬り捨てられた雑兵。彼らの背後に現れたのは帝国騎士団長ボルペインだった。
「おまえらぁ! 炎姫に手を出そうとしたなぁ! 死んで償え!」
たちまち斬り殺される雑兵達。命令を聞いてなかったのか、従う気などなかったのか。それともアイリーンを目の前にして抑えが効かなかったのか。兵を人間扱いしていない軍の規律などそのようなものだろう。
「さあてお前が炎姫か。なかなか美しい顔をしているではないか。どうだ? 素直に私のものになれば帝国でそれなりの暮らしをさせてやるぞ?」
「そうだな。もう一歩も動けん。抵抗はしない。好きにするがいい。」
そんなアイリーンの顔を平手で張り飛ばすボルペイン。
「いい心がけだ。そのきれいな顔が苦痛に歪む様をじっくり見せてもらうとしよう。おい!」
「はっ!」
「お前達は席を外せ! ここからは私一人のお楽しみだからな。」
「ははっ!」
ボルペインの周囲にいた副官などが全員退出する。いつものことなのだろう。
「ふふ。」
剣を振るうボルペイン。一振りする度にアイリーンの服が斬られていく。肌が傷つこうがお構い無しだ。
しかし悲鳴をあげることもなく動かないアイリーン。
「ふん、生意気な女だ。どうせすぐに泣きわめくことになる。そぅら、残り二枚か。」
下着姿になっていても表情を変えないアイリーン。体の至る所から血を流し、もう手を動かすこともできない。
「せめて可愛がって欲しいなら自分で脱いでみせろ。媚を売る娼婦のようにな。」
「一歩も動けんと言ったはずだ。もはや手も上がらぬ。抵抗はせん。好きにしろ。」
「けっ!」
無防備な腹を蹴りつけるボルペイン。力なく飛ばされて仰向けに倒れるアイリーン。
「ふん、起きあがることもできんか。詰まらん女め。いくら炎姫などと呼ばれても所詮は女よ。飽きるまでは可愛がってやるからな。せいぜい大人しくしてるがいい。」
そう言って服を脱ぐボルペイン。下着のみを纏い身動き一つしないアイリーン。
「少しは抵抗してくれんと張り合いがないわ。くっくっく。」
そう言ってアイリーンに馬乗りになるボルペイン。まずは上から下着を剥ぎ取った。
「バルド……済まぬ……」
「バルド? それがお前の男の名か。くく、いい事を思いついたぞ。そやつも生かして捕らえてくれよう。そしてそやつの前でじっくりと犯してくれるわ。くくく、滾ってきたわい。」
小ぶりだが形のよい胸が露わになる。しかしアイリーンは隠す事すらしない。
「どれ、味を見てやろう。」
そう言ってアイリーンの胸に覆い被さるボルペイン。生温かく、おぞましい感触がアイリーンを襲う。それでも身動き一つすることはなかった。
「ふん、この程度ではピクリともせぬか。言え! お前はどこが感じるかをな!」
そう言いながらもボルペインはアイリーンの頬を叩く。何度も。
「……首だ……妾は……首筋が……弱い……」
勝ち誇った顔で醜悪に笑うボルペイン。
「くくく、ならば私の舌技を味わうがいい。」
アイリーンの白く細い首へ舌を伸ばす。
その時だった。それまで身動き一つしなかったアイリーンが動いた。とは言っても本当にわずかな動きだった。夢中でアイリーンの首筋を舐めるボルペインは気付けるはずもない。小さな口をいっぱいに開いたアイリーンはボルペインの無防備な首筋を……噛み切った。
「ぐあおぉああーー!」
それは手足の動かないアイリーンの最後の抵抗だったのだろう。己の恥辱を殺してまで首が弱いと言ったのは、全てこの瞬間のため。ボルペインの無防備な首筋を噛み切るためだったのだ。
「団長!」
「団長何事ですか!」
「そ、その血は!」
明らかに致命傷、出血量から見ても助かる見込みはない。
「貴様! 炎姫! よくも団長を!」
「かくなる上は殺してから犯してくれる!」
「団長の仇! 覚悟!」
最後の力すら使い果たしたアイリーンにはもう何もできない。下半身も下着姿のまま……隠すこともできずに……
「バルド……すまぬ……先に……王国を……」
そう言って目を閉じた……
無慈悲に振り下ろされた副官達の剣。
メリケイン王国中の若者が憧れた王女アイリーンは死んだ。滅多刺しだった……
バルドが一騎打ちに勝ち、その後意識を失った夜の出来事であった……




