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プロローグ2 『本当にお分かりいただけただろうか』

 俺の親父は世界一の霊能力者だ。

 すくなくとも俺はそう信じてる。

 世の中には詐欺紛いの手法で、困っている人を余計に苦しめる馬鹿もいるが、うちの家はそういうのとは違う。

 

 母のいない我が家では、必然的に親父の背中ばかり見て育つことになった。

 昔は、中二病どころでない妄想垂れ流し親父を恥ずかしく思っていたし、今でも人前で俺の昔の妄想を嬉々として語るときは、川に沈めたくなる。

 多分そうやってふざけて、父親の威厳や男としてのプライドみたいなものを捨て去ってでも、俺にこの仕事をさせたくなかったのだと思う。

 俺が同じ道を歩まぬよう、この危険に満ちあふれた仕事から離れるよう、意識して行動していたのだろう。

 ……素であんな行動をしていたら、イカレてるってレベルじゃないからね。

 

 ――それでも俺は同じ道を選んだ。

 どれだけ親父が茶化そうとも、親父の背中はなおデカかった。

 親父が体を張り続けて、撥ね除けた理不尽の数々を見て産声を上げた。

 親父が命を燃やして、救った尊厳を見て育くまれた。

 憧憬(あこがれ)はそのまま夢になり、目標へ。


 中学の頃から、親父から少しずつ手ほどきを受けるようになった。

 訓練は高校を卒業するまで続き、大学への進学と同時に、親父の仕事を手伝わせてもらうようになった。

 大学に入学したばかりで何を言ってるのかと思われるかもしれんが、卒業したら俺はこの仕事を本業とするつもりでいた。

 

 本気でこの仕事をしたいと考えた俺に与えられた最初の仕事が、心霊写真などのお祓いだった。

 本物の心霊写真がそうでないかを判別し、本当に危ない物に関しては、きちんとお祓いする。

 こんな仕事、つまらないと思ってる人もいるだろう。

 ただ、本物の心霊写真がテレビで放映されたりしたら、その放送を媒体として次の霊障が起こるかもしれない。

 だからこそ、親父はこういう仕事から手を引いたりしないし、俺も全力で取り組んでいる。

   

「さてと……、マジでこれは無理だな。親父が明日帰ってくるまで一旦封印するか」

   

 この写真はやばい。

 少し足元が暗くなっていて、光の加減だろうと見過ごしてしまいそうになる程度の闇。

 一般人にはそのようにしか見えないだろうが、俺たちの目を誤魔化すことはできない。

   

 この闇は『扉』だ。

 あの世とこの世を繋ぐ、というとチープに聞こえるかもしれないが、実際にそういった物だと考えると分かりやすいと思う。

 大きな霊力を持つ存在がこの世に顕現するためには、そのサイズに見合った大きな『扉』がいる。

 降霊術士やイタコはそういった『扉』を自分で作り出し、霊を呼び出すわけだ。

 彼らは自分が御せるサイズの霊だけ呼び出せるように、『扉』のサイズが大きくなりすぎないよう、きちんと制御しているから、安全に降霊できるという寸法だ。

 

 ところが、そういった訓練をしていない者がその『扉』を作り出してしまう場合がある。

 例えば、恨みや苦しみといった負の感情をため込む者。

 適度にストレス発散できていると問題ないが、そうでない場合、溜まりに溜まって、溢れ出した負の感情が発端となって、無自覚に『扉』を作ってしまう者がいるのだ。

   

 そういう奴は、訓練したら降霊術士になれると思う。

 無自覚とはいえ『扉』を作れるのは、才能がある証拠だ。

 ぶっちゃけ俺は訓練を始めるまで作れなかったよ。

 しかし、そういった訓練を受けていないが故に、また無自覚であるが故に、その『扉』は際限なく大きくなっていく。 

 

 大きくなった『扉』を低級霊のような小物が通ることはほとんどない。

 というのも、『扉』は一度しか使えない。

 一度使うと、その『扉』は閉まってしまうからだ。

 自由に開閉するための訓練をした霊能力者や、そのための道具がないと、一度閉まった『扉』は開かない。

 「一度しか開かないのに、サイズに見合わない小物を通すと勿体ない!」と霊が考えているかは知らんが、必ずといってよいほど、『扉』のサイズに見合った霊がこちらへ渡ってくる。 

 

 ここで言う『扉』の大きさとは、比喩表現であって、なにも写真に写ってる陰影のサイズが大きいとか小さいとか、そういうことではない。

 人や物、場所などに込められた負の感情や霊力の濃度、これらが濃くなればなるほど、サイズが大きくなると考えてほしい。

 そのうえで、どれだけ短くとも一週間以上前に撮影された写真が、未だ人に反応して暗がりを増すほどの霊力を残していることを考えると…… 

 

「……封印できるかな、俺?」



 

 封印のためにも儀式が必要だ。

 適当に塩を盛ったり、火で写真を焼いたところで、何の効果もない。

 

 

 白衣と布袍に着替える。

 祈祷を真剣に行うため、僧衣を身に纏い、念のため何枚かの符を懐に忍ばせた。

 準備万端でお堂に戻る。

 

 

「……えぇ……。無理だろ、これ」

 

 写真からなんか暗闇溢れてきてるんですけど……。

 お堂の床なんか真っ暗なんですけど……。

 まだ床に五芒星とか、儀式の準備が何一つできてないんですけど……。

 ていうかこれ、封印の装備じゃなくて、逃走用の装備が必要な気がするんですけど……。


 床に広がった暗闇は、その闇を波打たせながら、徐々にお堂全体へと広がっていく。

 足の踏み場がなくなるとか、そんな悠長なことを言ってる場合ではないかもしれん。


 ――写真のあった位置、同心円状に広がる波のその中心。

 そこからゆっくりと浮かび上がってくる。

 最初に見えるのは頭部。真っ白なざんばら髪と共に目に映るは二本の角。

 真っ赤な皮膚、大きな目玉をぎょろりとさせている。

 裂けた口には、これまたやけにデカい牙が生えていらっしゃる。

 上半身は裸だが、虎模様の腰巻をしている。

 体つきは一見すると肥満にも見えるが、それらは総て厚い筋肉であり、現代人らしいもやしっ子な俺とは大違いだ。

 そして、その腰巻にぶらさがっている瓢箪を見て、俺は天を仰いだ。


『いやこれもう霊とか、そういうレベルじゃないんすよ。

 鬼なんすよ』

 とは言ったけどさ。

 鬼の階級にまでは触れてないじゃん。

 瓢箪の中身、絶対酒じゃん。



「――酒呑童子」



 親父のいないこのタイミングで、出てきていいレベルじゃないだろ。

 鬼という括りの中で、まさしく最強。

 妖という括りにおいて、なお最強。

 最強が最強を着て歩いてる、もはやそんなレベルの怪異である。

明日は、プロローグ第三話公開予定です。


初めての投稿ですので、まだまだ勉強不足な点も多いとは思います。

それでも、早速ブックマークを頂けて、本当に嬉しかったです。


少しでも多くの人に、ほんの少しでも楽しんでもらえるよう、頑張っていきます。

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