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第六話 『スポットライト』

「何をッ! 何をッ! 何をしている! 貴様ッ!」


 首を自ら刎ねるかのように、剣身へ押し付ける。

 当然、俺の首筋からはじわりと血が溢れ、剣の刃から持ち手に向かってゆっくりと流れていく。


「やめッ! やめッ! やめんかッ!」


 所詮この程度。

 これだけ注目を集めているなかで、曲がりなりにも貴族の子弟たる俺を、大した理由もなく処断する度胸なんぞこの三日月が持ちうるはずもない。

 これだけの人数がいても、公爵家が本気でその権力を奮えば揉み消すこと自体は可能だろう。

 だが、公爵家との評判とは別に三日月――カストロ自身も危うい。

 醜聞を揉み消すにも限度があり、積み重なれば公爵に消されるのは自分だと分かっているのだろう。


「はなッ! はなっ! 離れんかッ! この私に近づいてくるなぞッ! 度し難い奴めッ! 殺されたいのか貴様ッ!」


 殺そうとしておいて、よく言うわこいつ。

 しかし、参ったね。

 カストロは自身のプライドが邪魔して、剣を引くに引けないだろうけど。

 一方で俺も引くことは難しいんだよね。


 いや、引くこと自体はできるよ?

 しかし、引いたところで状況は変わらないことが問題。

 ここで引いても、今度は魔法とか別の手段で攻撃されるのが目に見えているわけで。

 俺からすると、首筋が剣と触れ合ってる今の方が安全な気がする。




 どう対処しようか頭を悩ませているその時、突如として教室が暗闇に覆われた。


「あぁ! なんたることかッ!」


 教室の扉。

 そこだけを光が照らす。

 光魔法――スポットライト。


 そしてその光の下にいるのは、学生でありながら助祭として、救世教会での身分を有する唯一の貴族。


「神よ! 若人の過ちを許し給え!」


 アベール家以外の人間であれば、一般的な魔法を使用することができる。

 一般的な魔法というのはつまり、火・水・風・土という四元素の魔法を指す。

 これらの魔法の適正は個人差があり、人によっては使えない元素魔法もある。

 しかしながら平民であっても四元素魔法のどれも使えないという人はいない。

 逆に四元素魔法の全てを使用できる者は、非常に珍しいそうだ。


「諸君! もちろん青春の一ページとして、時には互いにぶつかり合うことも必要でしょう」


 これらの四元素魔法とは違い、適正を持つ者が極端に少ない魔法がある。

 光魔法と闇魔法である。

 これらは、平民で使える者どころか、貴族でも少ない。

 特に光魔法は、スポットライトのように明かりとなる魔法というだけでなく、回復魔法としての側面も有する。

 そのため、光魔法の使い手は、救世教会へ籍を置く者が多い。

 闇魔法は、例えば今のように、周囲を暗くすることができたり、状態異常を与える魔法の総称である。


「ですが! このような危険な行為! 聖職者として見過ごすわけにはいきません」


 スポットライトに照らされた男は、俺たちへ説法しながら、その身に着けていた学生服を脱いでいく。

 闇の中で照らされる一人の半裸の男に、教室中の視線が釘づけにされる。


「貴様ッ! 貴様ッ! 貴様ッ! やめんかッ! 何をしているレオン・クラーベ!」


 三日月の叫びがむなしく響く。

 身長は俺より少し低く175cm程度だが、体重は俺をはるかに超えて120kg。

 体脂肪率70%(当社調べ)と思わざるを得ないほどの恵体。

 レオン・クラーベは下着――ブリーフ一枚の姿になると、そのマシュマロボディを惜しげもなく曝け出す。


「いけない子だ! そのように雄々しくそそり立つ硬いモノを押し当てるなんて! カストロ君! 君はなんていけない子なんだ!」


 腰に両手をあて、相変わらず説教が止まらないレオン。

 レオンの身体全体を照らしていたスポットライトが、ゆっくりとその範囲を狭めていく。

 絞られるフォーカスに合わせ、俺たちの視線は自然と股間へと吸い寄せられていく。


「貴様ッ! 貴様ッ! 貴様ッ! 本当にやめろッ! 何をッ! 何をッ! 何を考えている! 神聖な! 神聖な! 神聖な光魔法を貴様は! やめんかッ!」


 剣を引き、レオンへと詰め寄るカストロ。


 四元素の魔法に光と闇を合わせて六元素。

 その六元素全ての適正を持ち、特に光魔法に関しては、アズワール王国史上最高の適正を有する男。

 最年少で助祭の位を得た、クラーベ伯爵家の次兄。

 家督争いを引き起こさぬため、幼年期より教会へと身を寄せた、まさしく天才。


「あぁ! ハルト君! 首から熱い汁がッ! 熱い汁が溢れているじゃないか!」


 目の前の三日月を華麗に無視。

 俺の方へ近づき、首の傷に手を翳す。


「癒しを。ヒールライト」


 光魔法によって治癒される俺の傷。


「ありがとうな、レオン。それにしても、相変わらず登場のクオリティが尋常じゃないな。」


 感謝しながらも軽口をたたく俺に対し、


「ハルト君こそ、相変わらず僕に無関心だね。もうちょっと笑ってくれてもいいんじゃない?」


 俺がこの世界で親友と呼ぶ唯一の男――レオンは朗らかに笑った。


「あぁそうだ。ハルト君。校門へ王宮からの馬車が来てるよ。お迎えだってさ」


 確かに伝えたからねと、俺に言い終えるとゆっくりと三日月公爵へ振り返る。


「だから、青春の続きはまた今度にしてくれるかい、カストロ君?」


 その声には、明確な敵意が込められていた。

 それに反応したのかカストロはヒッと声をあげると、取り繕うように叫んだ。


「今日ッ! 今日ッ! 今日はこの辺にしといてやるッ! いいか? いつまでも遊び惚けているようであれば! このッ! このッ! この私が! 王に成り代わり! その首を必ず刎ねてやるからなッ!」


 そんな捨て台詞にも頭を下げて対応するしかない我が身が情けなくもある。


「肝に銘じます」


 フンッと鼻をならして去っていく後ろ姿を見送りながら、改めてレオンへ礼を言う。


「本当にありがとうな。正直、どう対応しようか悩んでた」


 苦笑する俺に、レオンも同じような顔をする。


「彼ももう少し大人になってくれるといいんだけどね。そんなことより、早く言ったほうがいい。結構な時間を食ってしまったからね」


 それはレオンが登場シーン時間をかけすぎたせいでもあるんじゃないか?

 どう考えても、最初の脱衣シーンは不要だっただろうに。


「ありがとう。ちょっと行ってくるよ」


 言わないでいい言葉は飲み込んで、俺は教室を飛び出した。

明日は第七話更新予定です。

楽しんでもらえれば幸いです。

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