アルバイト
私の高校生としての生活が始まってから一か月ほど経った。学園や普段の生活でいろいろなことに慣れてきた私は少しずつではあるが時間に余裕が出来てきたこともあり、私は以前から考えていたマスターのお店でのアルバイトをそろそろ始めてみようと思っている。
学園に入学するまではスーパーやコンビニで買った弁当や惣菜ばかりで自分が料理をすることはあまりなかったが、最近は光に教えてもらっていることもあり、少しずつ自分で作ることができるようにはなってきている。こうして自分で料理をすることが増えたことによって、いろいろな料理に興味が湧くようになった。なのでこの機会にマスターからも教えてもらおうと考えている。それと私が着るにはまだ恥ずかしさがあるのだが、美咲さんが着ていたメイド服のような制服も可愛かったので着てみたい気持ちも確かにある。
可愛い服での恥ずかしさと言えば、以前に光と一緒にショッピングモールに行った時に買った白いワンピースは休日に出かける際はなるべく着るようにしている。なので今となっては最初の頃のような恥ずかしさはなくなってきていた。
あんなに最初は恥ずかしさと違和感しかなかったのに……うん、慣れってすごいなぁ。
どうせ着るなら早めに着ておいた方がいいだろう。最初の恥ずかしさはなんとか我慢して、あとは慣れてしまえばいいのだから。
私は意を決すると、アルバイトの件をマスターに伝えるべく自分のスマホを手に取る。
……意は決したものの、いざ本当に連絡をしようと思うとなかなか手が動かない。実際に自分があの可愛い服で働いているところを想像するとやっぱり恥ずかしい!
慣れてしまえば問題がないことは経験と頭ではもちろんわかってはいる。それにここでは過去の私のことを知っているのは光しかいない。堂々としていれば何も問題はない。しかし、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。それにアルバイトも高校生になったばかりの私には初めてのことだ。上手くできるのかどうかも今になって不安で不安で仕方がない。
……駄目だ、このままではいつまで経っても変わらないままだ。何の為に私はここに来たのだ。理想の自分として新たな生活を始めるためだ。
私はこの町に来た自分の本来の目的を思い出すと、再び意を決してスマホを強く握りしめる。そして今度こそ強い意思を持って電話をかける。
スマホから呼出音が聞こえる。そのまま少し待つと電話が繋がった。
「……ん、明ちゃん? どうしたのー?」
私はマスターではなく、美咲さんに電話をしていた。これは決して間違い電話などではなく一応自分なりに考えた結果、まずは美咲さんにアルバイトの件を相談することにしたのだ。
「美咲さん、ちょっと相談したいことが!」
私は考えた。
あの時の白いワンピースは光の後押しがあったから買う決断ができたのだと思う。そう考えた私は同じ場所で一緒に働くことになる美咲さんに相談をすることで自分の逃げ場をなくした。美咲さんを利用するようなことになるのは申し訳ないのだが、今回も誰かの後押しがあれば恥ずかしさを乗り越え、決断ができるに違いないと思ったのだ。
「ふむふむー。私に相談って何だろ? 私にできることならいいんだけどー」
私は美咲さんにそろそろマスターの店でのアルバイトを考えていることを伝えた。
「おー。明ちゃん、お姉さんは君が来てくれるのを待っていたのだよ。あ、そうだ。マスターにはもう言ったのー?」
「いえ、マスターにはまだ言っていないです。私、アルバイトは初めてで上手くできるのかどうか不安なのでまずは美咲さんに相談してみようと思ったんです」
「そっかー。なるほどなるほど。確かに初めてだったら不安かもしれないねー。まぁ私は特に何も考えないで勢いで始めちゃったんだけどねー。あははー。あ、そうだ。明ちゃん、今から時間ある? よければこれからちょっと会わない?」
「はい、今日は特に予定はないので大丈夫ですよ」
私はこの後、美咲さんと合う約束をした。




