アプリコットとマーマレード
私たちはドクターの研究室から出ると、多目的ルームへと向かった。私があの部屋に行くのは鋼鉄の心臓との戦いのために、ドクターとマスターとの魔法少女としての戦闘訓練を行って以来だ。
このアジトの多目的ルームは主にドクターの発明品の実験やマスターの戦闘訓練に使われているらしい。なので多少暴れても問題ないように作られているようだ。実際に私が戦闘訓練で使った時も魔法や格闘戦で派手に暴れ回ったのだが、特にあの部屋の内装が壊れるようなことはなかった。
後から聞いた話ではあるが、あの部屋にはドクターが開発した防御魔法が付与された何らかの仕掛けがあるらしい。それによってこの部屋の内部は強固に守られているようだ。
「うふ。さあ着いたわよん」
多目的ルームに着くとドクターはその扉を開ける。部屋の中は以前と変わらず、学校のグラウンドくらいの広さの空間が広がり、天井の高さは学校の体育館を思わせるような造りとなっている。
扉を開けたドクターはそのまま部屋の中へと入ったので、私たちも彼の後に続いて部屋へと入る。
「うふふ。それじゃあ早速なのだけれど、アタシのマーマレードちゃんの性能テストも兼ねてアプリコットちゃんと戦ってもらうわねん」
ドクターはマーマレードに戦闘準備の合図を送ると、マーマレードは機械甲冑のヘルメットを被る。マーマレードの顔が空さんと同じなので、その様子は以前に見たアプリコットの記録映像にあった二人の戦闘の始まりを再現しているかのようだ。
マーマレードの被ったヘルメットが強い光を放つ。やがてその光が収まると、全身を機械の甲冑で覆われたマーマレードの姿がそこにあった。しかしその姿は空さんの機械甲冑と同じではなかった。空さんのには背中に小型のジェットエンジンのような物が着いていただけだったが、マーマレードの機械甲冑にはさらに小型化されたジェットエンジンとその横には翼のような物が付いていた。
「うふ。さあ遠慮なくやっちゃいなさい、マーマレードちゃん」
ドクターは戦闘準備を終えたマーマレードに次は戦闘開始の合図を送る。するとマーマレードはアプリコットを視界に捉えて身構える。その動きを見てアプリコットも戦闘を始めるためにハンドガンを取り出す。
少しの間、相手の出方を窺うように両者は睨み合っていた。だが次の瞬間、ついに睨み合いから戦闘が始まる。
この戦いで先に動いたのはアプリコットの方だった。アプリコットは先程取り出したハンドガンを左手に持ってマーマレードを射撃する。放たれた数発の弾丸は真っ直ぐにマーマレードへと向かっていく。
マーマレードはアプリコットの射撃に反応をすると機械甲冑で加速をし、自分に向かってくる弾丸を全て回避をする。
「うふふ。甘いわよん。あなたも実際に空くんと戦ってみてただの銃による射撃が当たらないことは既に知っているんじゃないかしら」
弾丸の回避に成功したマーマレードはその勢いからさらに加速をして一気にアプリコットとの距離を詰めようとする。
「機械甲冑デウス・エクス・マキナ。確かに単純な性能は自分よりも上でしょう。しかし!」
アプリコットは側面から加速して向かってくるマーマレードに対してハンドガンでさらに数発の射撃を行う。だがその弾丸もまたマーマレードは回避をする。そしてそのままの勢いでアプリコットへと殴りかかる。
「その行動は予測済みですよ!」
アプリコットは手に持っていたハンドガンをマーマレードに向けて投げ捨てると、隠し持っていた別の二丁の銃を取り出して両手に装備した。
「その速さとこの距離でならさすがにこれは回避ができないでしょう!」
マーマレードの拳がアプリコットに届こうとした瞬間、アプリコットは二丁のサブマシンガンによる連射を行う。
連続的な銃声が鳴り響き、アプリコットから放たれた多数の弾丸はマーマレードの攻撃を阻むのと同時に回避するための逃げ道を塞ぐ弾幕となる。アプリコットを捉えるために接近していたマーマレードはこの弾幕を回避することができず、また加速していたこともあり勢い良くこの弾幕の中へと突っ込んでいく。
弾幕の中を通過することになったマーマレードは多数の弾丸によるダメージを受けて転倒し、加速した勢いそのままに部屋の壁へと激突をする。
「マーマレード……我が主が空様を模して作られたとのことだったので、まずはハンドガンによる射撃でその行動の様子を見てみました。その結果はまさにあの日の戦いを再現するかのような動きでした。あの日の戦いによる学習により、以前のような遅れは取りませんよ」
「あらあら。意外とやるじゃないの。でもね、マーマレードちゃんの本当の性能はもちろん、こんなものじゃないわよん。さあマーマレードちゃん、あなたの本気を見せるのよ」
ドクターがそう言うと、壁際で倒れていたマーマレードが起き上がった。




