ホームルーム
座席の順番ということは名前による五十音順なので私の順番は後の方になる。私のクラスは三十人ほどの人数で、男子よりも女子の方が多い。桜海学園全体で見ても女子が多いようだ。
「それではこのクラスでの順番が一番目であるわたくしからですわね」
一人の女の子がそう言うと席から立ち上がった。その女の子は透き通るようにきれいな長い銀髪をハーフアップにしていた。そして瞳の色は赤く、左目の目じりの下にはほくろがあった。
「わたくしの名前は五十嵐風音と申します。中等部からの進学ですので多くの方々には今更ではありますが、初めましての方もいらっしゃいますので自己紹介をさせていただきますわ」
この学園は中高一貫校なので中等部から高等部へ進学してくる生徒がほとんどだ。私たちのように高等部から入ってくる一部の生徒以外にとっては自己紹介をするのも今更なのだろう。
「わたくしは中等部からクラスの委員長をしておりました。もちろん高等部でも委員長を務めさせていただくつもりですわ。なので高等部からこの学園に入った方々、学園生活で何か困ったことがあればわたくしに相談して下さればよろしいですわよ。あら、失礼。これだけではわたくし自身のことはあまり知っていただけていませんわね。わたくしにはとても好きなものがあるのですわ。それは何かと言うと紅茶とクッキーです。紅茶を飲みながらクッキーを食べる……この瞬間がたまらなく好きなのです。それから他にも好きなものがあるのですが」
「五十嵐さん」
五十嵐さんが自己紹介を続けようとしていたところを水神先生が遮った。
「せっかくの自己紹介の途中で悪いのだが時間に限りがあるので今回はこれくらいでお願いします」
先生がそう言うと、少し残念そうな表情をしながら五十嵐さんは仕方ありませんわねと言いながら渋々と席に着いた。恐らく五十嵐さんの話が長くなりそうなのを水神先生は察して止めたのだろう。
中学の時、私は自分の名前だけ言って終わるような自己紹介しかしたことがなかった。周りからは怖がられていたし、そんな私とわざわざ関わろうとする人はあまりいなかったのでする必要もないと思っていた。なのでまともな自己紹介をしたことがなく、他の人の自己紹介もあまり聞いたことがなかった。
さっきの村雨さんとのやりとりのように個人や少人数でなら平気なのだが、多くの人から注目されるこの雰囲気の中で私はうまく自己紹介をできるか不安で緊張をしていた。
先程の五十嵐さんのように自分のことを多くの人の前で話せることを私は素直にすごいと思う。
あれ……そう言えば、今思うと高校デビュー計画では自分の見た目や態度のことばかり気にしていて、学校生活でのこれからが第一印象で決まりかねないこの場をどう乗り切るのかを全く考えていなかった。
……どうしようどうしようどうしようっ!
「初めまして、星野光です。今年からこの学園に入ることになりました。よろしくお願いします」
自分の自己紹介をどう言おうかいろいろと考えていると、いつの間にか光の順番にまでなっていた。
私の親友であることを強調していた川瀬くんや美咲さんの時と違い、今回の光の自己紹介は普通だった。よし、私も光と同じように無難な感じでいこう。今から変にあれこれ考えても仕方ない。少なくとも最初に以前のような悪い印象さえ与えなければ、あとはどうとでもなる……はず。
「村雨綾です。趣味は読書で中等部では図書委員に所属していました。これからよろしくお願いします」
そして順番は私の前である村雨さんとなり、彼女が自己紹介を終えてついに私の番になってしまった。
私は席から立って自己紹介を始める。
「は、初めましてっ! 山田明です! 高等部からの入学です! よろしくお願いしましゅ!」
多くの人から注目されることに緊張した私は最後に思い切り噛んでしまった。恥ずかしい気持ちになった私はそのまま何事もなかったかのように席に座る。
私が噛んだことには特に誰にも触れられることなく次の人の順番へとなる。これまでに自己紹介で噛んだのは私だけだ。触れられないならそれはそれでいいのかもしれないが、どうせならいっそのこと噛んだことをいじられた方が気は楽だったのかもしれない。恥ずかしさから頭が混乱した私はそんなことを考えていた。えっと……何を考えているんだ私は。
そのようなことを考えているうちに私は少しずつ冷静さを取り戻してくると、ちょうど最後の順番だった人の自己紹介が終わっていた。
「さて、全員の自己紹介は終わりました。これからこのクラスで共に過ごしていきましょう。それでは本日はこれまで。明日から早速、授業が始まりますので遅れることがないように」
水神先生がそう言って今回のホームルームを終えた。それから間もなくしてチャイムが鳴り響き、今日の入学式とホームルームの終わりとなった。




