桜海町
駐輪場に着くと各々の自転車に乗って通学のために繁華街の駅へと向かう。このアパートから駅までは片道で十分ほどの距離となるので徒歩で通うとなると少し時間がかかってしまう。毎日学校に通うことを考えると光がわざわざこちらに引っ越してきたのは通学が面倒なのではないだろうか。
そうこう考えながら進んでいくといつのまにか駅にたどり着き、私たちは駅の駐輪場に自転車を止めた。
この前ドクターに呼ばれて繁華街に来ていたことがあったが、その時についでと思い買ってあった電車の定期を取り出すと、私は改札口でその定期を使い駅の中に入りホームで目的の電車を待つ。
友達と一緒に電車での通学……うん、今の私はすごく普通の女子高生っぽい!
地元にいた頃は小学校も中学校も家からそれほど離れていなかったので徒歩での通学だった。それに男女ともに怖がられていたこともあり、こうやって誰かと一緒に通学するなんてことはほとんどなかったのだ。普通の人にとっては何気ないことなのだろうが、私にとってはこの何気ないことだけでもずっと憧れていたのだ。
「あの計画のこともあるから、もっと緊張とかしてて不安そうなんじゃないかなと思っていたんだけど、今日の明はすごく楽しそうな顔をしているね」
隣にいる光が私に話しかけてくる。てか今の私はそんなにわかりやすい顔をしていたのか。
「うん、確かに新しい環境への緊張も不安ももちろんあるよ。でも今は誰かと一緒にこうしていられることが楽しいんだ」
「それならよかった。今日の朝のことなんだけど、明も緊張や不安があるかもしれないからそれを少しでも楽にしてあげられたらいいなって思ってエリーちゃんと一緒に考えてたの」
「そうだったんだ。私のために考えてくれていたんだね。ありがとう」
光と話していると駅のホームに目的の電車が到着し、私達はその電車に乗り込んだ。
この町は中央区にある学校やオフィスに通うために電車を利用する学生と社会人が多くいるようだ。そのために朝の電車の本数も多めに出ているおかげなのか、私たちが通学に利用する時間帯はそこまで混雑はしていない様子だった。
学校の説明会や受験などで桜海学園には何度か来ていたので中央区の駅には来たことがあったが、この町に引っ越してから電車に乗るのは光と一緒に港側の駅まで行った時以来だった。駅のホームで人々の乗り降りが落ち着くと電車の扉が閉まり動き出す。ここから中央区にある駅までは五分程で到着する距離だ。
そういえば今までいろいろなことがあったので忘れていたが、この町の名前は『桜海町』という。この町は春になると山側が一面の桜が咲き覆われ、周囲を桜と海に囲まれる町ということから桜海町という名前になったらしい。
学校説明会や受験の時期にはまだ桜は咲いていなかったのと、以前に電車に乗ったときには光と話していて景色を見ていなかったので、走る電車の窓からこの町の名前の由来となった様子を眺めてみる。すると一面を桜の色に染まった山を見ることができた。電車が中央区へ近づいていくにつれて少しずつ海も見え始めてくる。そして中央区の駅に着く頃にはこの町の名前の由来通りの町の周りを桜と海に囲まれた景色を見ることができる。
――それはすごくきれいな景色だった。
その景色を眺めていると電車が中央区の駅に到着すると、多くの学生や社会人に混ざって私たちも電車から降りる。
中央区の駅の改札口を抜けるとそこは中央に噴水がある公園のような広場となっていて、桜海学園はこの広場を真っ直ぐに歩いていくと五分程で到着する。
私たちは話しながら歩いていると、桜海学園の校舎や校門が視界に入り始めた。校門は今日の入学式のための装飾がされていて、校舎まで続く通路の脇には新入生を迎える受付と上級生と思われる生徒たちがいた。
受付は中等部と高等部で分かれているようで、ここで一度エリーちゃんとはそれぞれの受付へ向かうため別行動をする。しかしエリーちゃんは一人で大丈夫なのだろうか。
眠れる獅子では大人に混じって参謀として活動したりと年齢よりもしっかりしているので大丈夫だとは思うのだが、私と初めて会った時の印象ではあまり知らない人は苦手そうでもある。今となっては私に対して接してくれている時のエリーちゃんは歳相応に思えるくらいにはなってくれていた。
とりあえずエリーちゃんのことを心配をしつつ、私たちは高等部の受付へと行く。するとそこには見覚えのある人がいた。その人物は桜海学園の制服を着て茶髪をポニーテールにしている天月美咲さんだった。




