桜海学園への入学と始まる高校デビュー計画
私、山田明が中学を卒業し、この町に引っ越してきてすぐに魔法少女として世界征服を企む秘密結社『眠れる獅子』のメンバーとなって活動を始めてから三週間ほど経過していた。
別の秘密結社と戦ったり、平和的な征服活動をしたりと、こんなにも濃い時間を過ごすことになるとは思いもしなかった。しかしそんな私もいよいよ本来の計画であったこの町での高校生としての生活が始まろうとしていた。
そう、今日は私が入学する『桜海学園』の入学式となる日なのだ。いざ計画を翌日に控えると、私は緊張してしまいなかなか寝付けないでいたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
この日は光と一緒に登校する約束をしていたので、朝のアラームで起きた私はそのための準備を進める。それから一通り準備を終えた私は桜海学園の制服を取り出す。
桜海学園は併設型の中高一貫校で、制服は黒、白、紺のチェック柄のスカートにリボンと白のブラウスに濃紺色のジャケットとなっている。
私がこの学校へ通うことを決めたのには理由がある。まずはこの制服が個人的に気に入ったのだ。そして何よりも地元から遠く離れていることと、併設型の中高一貫校だということがポイントだ。生徒の多くはこの学校の中学校を卒業して、そのままこの高校に進学してくる。つまり桜海学園の生徒に過去の私を知る者がいる確率はかなり低いはずなのである。
私は制服に着替えると、ミディアムくらいまで伸ばした髪を光から貰った赤いリボンでツーサイドアップに整える。地元にいた頃はなめられないように鋭い目つきを意識していたが、これからはその必要はないので目つきと表情に気をつける。そして最後に鏡で今の自分の姿を映して確認をする。
制服よし! 髪もよし! 表情もよし!
うん、自分で言うのも何だが完璧だ。今の私の姿を見て、少し前まで男子と殴り合うような喧嘩ばかりしていて『男女』と呼ばれていただなんて誰も思わないだろう。仮に私のことを知っている者がいたとしても、表情や言葉使いにさえ気を付ければ同姓同名の別人だと思うに違いない。そして光の協力もあるのだからあとは自信を持って、今のこの私のままで過ごせばいいのだ。
さあ、これからが私の計画の始まりだ。
今となってはこの計画よりも更に現実離れした世界征服を企む秘密結社の魔法少女として活動をしているわけだが、それ以上に私は新たに始まるこの生活が楽しみだった。
桜海学園へは自転車で繁華街の駅まで行き、そこから電車に乗ってこの町の中央となるオフィスや学校があるエリアの駅まで行けばすぐのところにある。
光が今住んでいるのは繁華街にある駅の近くなので、待ち合わせは駅前での約束をしていた。
準備を終えた私は、いざ玄関から外へ出るために扉を開けた。
「明、おはよう!」
「うわぁ!?」
扉を開けた瞬間、聞き覚えのある声と共に二人の人物が私の視界に入る。それは桜海学園の制服姿の光とエリーちゃんだった。
それよりも無防備だった私は驚きの余りにすごい声を出してしまった気がする。
と言うか……あれ? 光とは駅前で待ち合わせの約束をしていたはずなのと、彼女の家からわざわざ離れた場所にあるここに来ることは全くの予想外の出来事だった。それにエリーちゃんも一緒にいるけど、確か大学を卒業しているとか言ってなかったっけ?
この二人がなぜ私の部屋の扉の前に立っていたのか、この状況が理解できずにいた私はただ呆然とすることしかできなかった。
「お姉さん、おはようございますなのですよ。その様子だと、私たちがここにいることにちゃんと驚いてくれたみたいですね」
「だね。私たちのサプライズ作戦は成功したみたい」
私の目の前で二人はハイタッチをする。
「……え? サプライズ? どういうこと?」
「えっと、説明するね。実は学校からは少し遠くなっちゃうんだけど、お父さんや兄と一緒にこのアパートに引っ越してきていたの。あ、このアパートと言っても実際は地下のアジトにある部屋を使わせてもらっているんだけどね。お父さんたちは普段は地下のアジトで研究しているみたいだし、私も結社の活動をするにはやっぱりこっちに近いほうが便利だからね。あとは明をこの日に驚かせようと思ってエリーちゃんと内緒にしていたんだ」
「そうだったんだ……光がここにいる理由はわかったよ。でもエリーちゃんは大学を卒業しているのに、どうして桜海学園の制服を着てるの?」
「大学の卒業は外国でのことでしたし、日本では年齢的にまだ義務教育期間中の中学生なのですよ。それにお姉さんたちがいるなら私も同じ学校で中学生活をおくってみるのも悪くないと思ったのです」
光とエリーちゃんから説明された私はこの状況をやっと理解する。
「とりあえず二人のことはわかったよ。それにしても……わざわざ私を驚かすためにこんな計画をしていたなんて思わなかったよ」
「うん。本当はすぐにでもこっちに来たことを言いたかったんだけどね。ただ、私はできることなら地下のアジトの部屋よりも明の隣の部屋がよかったな」
「あはは、隣だったらさすがに気づいていたかもね。あ、そういえば隣の部屋に住んでる人も私たちと同じで今年から桜海学園に通うんだって。せっかくだし、誘ってみてもいいかな?」
私は二人に聞いてみると、二人とも了承をしてくれたので隣の部屋に住む川瀬くんを誘ってみることにする。
恐らくエリーちゃんは川瀬君のことは知っているだろうし了承をしてくれたということは問題ないだろう。今思い出してみると川瀬くんとは私が引っ越してきた日の挨拶をして以来一度も会っていなかった。しかし、これからは同じアパートに住んで同じ学校に通う仲間同士ということで私も仲良くしていけたらいいなという思いと、川瀬くんと光にお互いを紹介する機会になればと思ったのだ。
私は隣の部屋のドアホンのボタンを押す。するとドアホン越しに川瀬くんの声が聞こえる。
「あれ、山田さんお久しぶりですね。どうしました?」
「川瀬くんお久しぶり。まだ登校していないならせっかくだし、私たちと一緒に登校しないかなって思って声をかけてみました」
「それならご一緒させてもらおうかな。準備中なので少しだけ待ってもらえますか」
川瀬くんはそう言うと、一度ドアホンから離れる。
「……川瀬くん? 明の隣に住んでいるのって男の子なの?」
光は川瀬くんのことについて尋ねてくるが、なんとなくその雰囲気が怖い気がしたのは私の気のせいだろうか。
「うん。そうだけど……どうかした?」
「ううん……なんでもない」
もしかして、ナンパ男との一件から男の子に対して苦手意識でもあるのだろうか。眠れる獅子のメンバー紹介の時には特に男性陣に対して苦手そうな感じはしなかったのでその可能性を考えていなかった。いや……よくよく考えたらうちのメンバーの男性陣は少し特殊なので逆に平気だったという可能性もあるのかもしれない。
とりあえず、光が男の子に苦手意識を持っているのだとしたら悪いことをしてしまった。そうなのだとしたらなるべく私が間に入るようにしよう。
私がそのように考えていると、準備を終えた川瀬くんが扉を開けて出てきた。
「お待たせしました。山田さん誘ってくれてありがとう。エリーちゃんもお久しぶり。それと……そちらの方は初めましてですよね。僕は川瀬悠里です。よろしくお願いしますね」
エリーちゃんは私の後ろに隠れながら挨拶をする。そして川瀬くんは光に自己紹介をした。
「初めまして。私は明の『親友』の星野光です。私も同じ桜海学園に通うのでよろしくお願いしますね」
川瀬くんに対して光も自己紹介をするが、私の親友であることをすごく強調していたように感じる。表情も一見すると友好的な笑顔に見えるが目は明らかに笑っていない。というか、先程まで私が考えていたような男の子に対して苦手意識があるような感じではなく、どちらかというと威嚇に近いような印象を受ける。
「確か山田さん、こっちには知っている人がいないって言っていましたけど、もうこんなに仲のいいお友達ができたんですね。すごいです」
「はい、私と明は運命的な出会いをしたんです」
あれ……なんか雰囲気がすごく怖い気がするんだけど……どうしてこうなった?
「とりあえず、自己紹介も終わったことだし行こうか!」
私はこの空気を変えるべく、登校するために自転車を止めてあるアパートの駐輪場へと歩き出した。




