魔法少女対決結着後
私と光ちゃんの魔法少女同士の戦いは私の勝利で終わった。正直なところ、最後の私の姿をした人形との戦いで光ちゃんが冷静な状態であったのなら勝つことは出来なかったと思う。いろいろと大変だったが、結果的に考えれば初陣にしては上出来であろうと私は自画自賛をした。
魔力をほぼ使い果たした私は立った状態を維持するのもままならず、気絶したままの光ちゃんを抱きかかえながら地面に座り込む。その状態からこの後どうするか考えていると、作戦を開始する時にエリーちゃんから渡されていたインカムから声が聞こえ始めた。
「お姉さん、聞こえますか? 聞こえるのなら今お話できる状態なのですか?」
その声はエリーちゃんだった。
「聞こえるよ。エリーちゃん。うん、大丈夫だよ」
「……むぅ。眠れる獅子として行動している時は参謀と呼ぶようにと言ったはずなのですがね」
エリーちゃんは私が参謀ではなく、名前で呼んだことが気に入らない様子で少し不機嫌そうに呼び方を訂正させようとするが、この後はいつもの調子で話を続ける。
「……まぁ今はその件はおいておきましょう。こちらは鋼鉄の心臓が潜ませていた機械兵の殲滅が完了したのです。幹部の二人でこちらを消耗させたところを襲撃するつもりだったようですが、これでその心配はなくなりました。お姉さんは人形使いの魔法少女さんとの戦いはどうなりましたか? もし厳しいようなら加勢するのですよ」
「それならもう終わったよ。かなり大変だったけどなんとか勝てたから。でも魔力と体力をほぼ使い切っちゃったからしばらくはまともに動けないかも……ドクターなら大丈夫だろうけど、この状態で機械兵に襲われていたらさすがにヤバかったかな」
「……え? 本当に勝てたのですか? 正直それは予想外なのでした。いくらマスターやドクターに鍛えられたとはいえ、あの短期間では魔法少女としての実力は相手の方がずっと格上のように思えたのですが」
どうやらエリーちゃんは私が勝てたことに驚いているようだ。確かにその通りなのは間違いはないと思うが、そこまで期待されていなかったのかと思うと私としてはすごく複雑な心境だった。しかし私のその心境は一旦おいておき、これまでの経緯をエリーちゃんに説明をした。
「……なるほど。人形使いの魔法少女さんはお姉さんのお友達だったのですね。とりあえず無事のようで安心したのですよ。先程、鋼鉄の心臓のボスはマスターによって確保完了の報告がありました。あとはドクターの幹部のお兄さんを倒した報告があれば、今回の作戦は完了となりますが……ドクターはお姉さんの近くにいませんか? さっきから通信を試みているのですが、反応がなくて困っているのです」
実際に戦いが始まってからは周りの様子を気にする余裕がなかったので忘れていたが、そこそこの広さがあるとはいえ、最初は同じ広場で戦っていたはずのドクターの姿が見当たらない。恐らくは早々に決着をつけて彼の当初の目的であるイケメン幹部を自分のものにするために別の場所に移動したのだろう。
「私もちゃんとは確認してないけど、ドクターなら多分もうさっさと勝って自分の目的を果たすためにどこかに行ったと思うよ。必要なら少し落ち着いたから通信魔法で連絡取れるか試してみようか?」
「いえ、そこまでは必要ないのです。さて……これにて作戦は完了としましょう。この後の予定なのですが、私と総統は鋼鉄の心臓のボスを確保したマスターに合流します。お姉さんはどうしますか? もしもお友達のことも含めてお疲れで動けないようでしたらアプリコットをお迎えに行かせますよ?」
「……とりあえず光ちゃんが起きたら話がしたいからどこか落ち着ける場所には行きたいかな」
「それなら私たちがこちらに来るときに使った通路があるのですが、そこは山小屋になっているのでそこを使うといいでしょう。最低限の生活は出来るようにはなっていますし、地下室から通路を通ればアジトまで戻ってくることも出来ますので。それではそちらまでアプリコットに案内と移動のお手伝いをさせるのですよ」
「それはありがたいんだけど……いいの? 私の友達とは言っても鋼鉄の心臓の幹部をアジトに入れることになっちゃうよ?」
「鋼鉄の心臓はボスを確保したことで壊滅状態となるでしょう。お姉さんのお友達さんがまだ私たちと敵対することは意味が無いのです。もし、それでもまだ敵対するようなら……お姉さんも聞き覚えがあるかと思うのですが、ドクターの記憶ワスレールを使うことにするのですよ」
エリーちゃんはそう言うと通信を終了させた。するとすぐに森の中から何かがこちらに近づいてくるような音が聞こえ出した。その音がする方向を見ると、アプリコットがすごい速さでこちらへ向かって走ってきた。そして私の前で急停止をする。
「遅くなり申し訳ありません。山田様。お迎えにあがりました。エリー様からお二人ともまともに動けないとお聞き致しましたので自分がお運び致しましょう」
そう言うとアプリコットは急に地面に四つん這いになる。
「……え?」
「さあ、どうぞ自分の背中にお座りください。遠慮はいりませんよ」
夜中の山の中で人目につきにくくても、いくらロボットとはいえ、四つん這いの相手の上に乗るのは絵面的にあまりよろしくないのではないだろうか。それに今は気絶したままの光ちゃんが途中で目を覚ましたら変な誤解を招きかねないような気もする。
「……あのね、アプリコット。その運び方は少し抵抗があると言うか」
ロボットなので表情の変化は感じられないが、私がそう言うと四つん這いのアプリコットが首を傾げるような動作をとると不思議そうにこちらを見てくる。そしてそのままの状態からしばらくの沈黙が訪れる。
「……あ、これは失礼致しました。このままの姿のほうが個人的には良かったのですが……お嬢様方には抵抗があるようですね。それでは少々お待ちを」
四つん這いになっていたアプリコットは再び立ち上がる。
「トランスフォーム!」
アプリコットが叫ぶと人型の姿から変形をし始め、やがてその姿は二足歩行から四足歩行の馬のような見た目となる。そしてどういう原理か人型の時と同様に馬の姿となっても執事服も姿に合わせて変形し、それを着用している。
「この姿なら問題はないでしょう。さあ、自分の背中にお座りください」
馬のような形態となったアプリコットは私たちが乗りやすいように姿勢を低くする。少なくとも元の人型の状態よりは抵抗がなくなったので私は光ちゃんを抱きかかえると、アプリコットの背中に乗った。
「それでは山田様。落ちないようにしっかりと自分に掴まっていてください」
アプリコットは低くした姿勢から立ち上がると、エリーちゃんの言っていた山小屋を目指して森の中を走り出した。




