勧誘
そして部屋は地下のアジトへ到着したのか揺れは収まった。
「よし、アジトへ到着したようじゃな。ほれ、入るぞ」
そう言うと管理人さんは立ち上がりこの部屋から出ようと歩き出し、混乱したままの私もその後をついて行く。
102号室の扉を開けるとそこはこの部屋に入る前のアパートの外観ではなく、地下に広がる空間があった。
「うふふ。記憶ワスレールはこのアジトのアタシの部屋にあるからそこへ行くわよん」
私達はドクターを先頭に彼の部屋へと向かった。
「さあ、ここよん」
彼に案内された部屋の扉は大きなピンクのハートが中央に施された鉄の扉だった。何と言うか……すごい趣味だ。ドクターはその鉄扉をカードキーを使って開け、私達は彼の部屋の中へと入っていく。扉が開くと同時に薄暗かった部屋の中が天井に吊るされたシャンデリアに明かりが灯されていく。明るくなった部屋の中は多くの機械が散乱し、壁際にある棚には薬品のようなものが並べられていた。そしてその奥には……よくアニメなどで見る魔法少女が使いそうな杖……のような物が机の上に置かれていた。機械や薬品ばかりの部屋の中にある不釣り合いなその存在は、より一層私の目を引いた。
「あら。これに興味があるのかしらん」
「はい……あの、少し持ってみてもいいですか?」
「いいけれど、これはアタシ好みの子にしか扱えないわよ? 適性が無ければただの杖にしかならないわん」
私はその杖に手を伸ばし触れてみるとそれは輝きだし、私の体も光に包まれた。
「えっ!? えーっ!? なんなのこれっ!?」
光が消えると私の髪は憧れのプラチナブロンド色のロングヘアーになり、服はいかにもな魔法少女の格好になっていた。更に杖だった物も変形して大きな鎌のような形になっているし……
「こ、これは想定外の事態よん! この杖は普通の女の子には反応しないはず! だってこれは魔法少女ではなくアタシ好みの少年を魔法男の娘にする為に設計したのよん! 山田ちゃん、あなた本当は男の子なんじゃない!?」
「違うわぁぁぁぁぁ!」
男扱いされることが嫌いな私はドクターの言葉に反応し、つい彼を蹴り飛ばしてしまった。
「やっと……女の子らしい私で新しい生活を始められるはずだったのに……この杖にすら私が男女だって言われるわけなのっ!?」
「と、とりあえず落ち着くんじゃ!」
「イジメられていた幼馴染を助ける為に地元のガキ大将をボッコボコにしてからずっと男女扱いされ続けて……誰も知り合いのいないこの場所からやっと普通に暮らせると思ったのに! こうなったら……あんた達の記憶の方を消してやるわ!」
「うふふ……何となくだけど察したわ」
私に蹴り飛ばされていたドクターは起き上がってこちらまで戻ってきた。
「うふ。推測だけれど、山田ちゃんあなたの中にある男勝りな性格が反応しちゃったみたいね。あとその杖は男の子の中にある女子力を求める願望に反応して男の娘化させるように出来てるの。つまり山田ちゃんの今までの自分になかった女子力を求める願望と性格的な男らしさで変身できちゃったのよん」
「確かに私は女子力を高める為に密かに努力はしてきましたのでそれを求める願望はありました。でも……性格的な男らしさでその設計に反応するとか納得いかないんだけど!」
「うふふ。性格的なところで反応しちゃうのはアタシも予想外だったわよん。まぁアタシの設計が甘かったのだから山田ちゃんが気にすることはないわよ」
「気にするわ!」
「あら。それにしても……山田ちゃん魔法少女の姿似合ってるわよ」
「え……ほ、本当ですか? 魔法少女もだけれど長い髪とかこんな可愛い感じの服ってずっと憧れていたんです。中学の制服でしかスカートとか履いたことなかったので……」
「うふふ。ちょっと総統。アタシから一つ提案があるのだけれど」
「な、なにかね?」
「うふ。魔法少女に変身した山田ちゃんの蹴りを見たわよね。元々も戦闘能力ありそうだし、うちの秘密結社に入れちゃいましょうよ」
「た、確かに強そうな感じはするが……」
「勝手に二人で話を進めないでください! 世界征服を企む秘密結社なんてそんな怪しいところには入りません!」
「あら。うちに入ってくれるのであればその杖は山田ちゃんにあげるわ。それとあなたの求める女子力をあげるお手伝いもできるわよん」
「え……女子力!?」
「うふ。憧れの魔法少女に変身する力と女子力の二つの力を手に入れるチャンスよん。あなたにとっても悪い話ではないわ」
「魔法少女の力と女子力が私のモノに……」
私はドクターに秘密結社のメンバーに勧誘され、勢いと女子力欲しさに入ることを考えてしまうのであった。
「うふふ。さぁ総統、我が秘密結社の新しいメンバーよん」
「あまり気乗りはせんが……我が眠れる獅子はメンバー不足。特に戦える者が入ってくれるのはありがたい……じゃがしかし……」
「あら。山田ちゃんをあまり巻き込みたくないのでしょうけれど……魔法少女となった彼女の力は我々の望みを叶えるのにきっとこの先必要になるわよん」
「……わかった。君に確認しておきたいことがある。我々、眠れる獅子は各々の望みを叶える為に世界を征服しようとしておる。じゃが皆の最終的な望みは世界を平和にすることにある。勿論、その道は険しく長い道のりじゃ。山田さん、手伝ってはくれんか?」
管理人さんはそう言うと私の前に立ち頭を下げた。
「わかりました。その代わりに私の目的にも協力してくださいね?」
こうして私は秘密結社の新たなメンバーとなったのでした。