魔法少女対決
ドクターと鋼鉄の心臓のイケメン幹部が戦闘を開始した隣では、私と二体の少女の姿をした人形を従えた魔法少女が睨み合ったままお互いに相手の出方を窺っていた。私の正面に立つ人形使いの魔法少女は長く黒い髪で前髪も目にかかるくらいの長さのため、はっきりとは顔が見えなかった。そしてそれから間もなく、ドクターが放った雷光の弾丸により周囲の木々は倒れ燃え上がる様子がこちらからも確認が出来る。その様子を人形使いの魔法少女も確認をすると私に話しかけてきた。
「以前に戦ったあのロボットさんから僅かながら魔力を感じたので、雷を操る魔法少女がそちらにいるかと思っていましたが……どうやらあなたではなく、あちらの人がその雷魔法の使い手だったようですね。でもどう見ても魔法少女……ではありませんね。魔法少女以外にも魔法が使える人がいることには驚きました。それではあなたはどんな魔法を使う魔法少女なのでしょうね?」
「さあどうだろうね。これから実際に戦ってみるわけだから、嫌でもわかるんじゃないかな」
既にドクターたちとの魔法少女強化特訓で考えた作戦は始まっている。こちらにも魔法少女がいるであろう可能性は考えられているだろうということで、ドクターが派手にイケメン幹部との戦闘で雷魔法を使うことにより私の魔法属性を隠すのである。
魔法少女強化特訓でドクターから魔法少女の基本知識と教えられた内容を、これからの戦闘に備えて私は作戦をもう一度再確認する。
それは魔法少女強化特訓の時のこと。
まずは魔法少女について。
「ねえ山田ちゃん。あなたはアタシと契約して魔法少女になったのだけれど、本来だとこのことはとても特別なことなの。それはなぜだかわかるかしら?」
私がドクターの問いにわからないと返すと彼は特別な契約について説明を続けた。
私は魔法の世界の中にある雷魔法を得意とする雷の国の王子であるドクターと契約することで魔法少女となった。しかしこれは特別な例であって、この世界での多くは魔獣と呼ばれる存在と契約して魔法少女となるらしい。
魔法少女となれる点はどちらも大きな差はないようだが、違いとしては扱える魔法に差があるようだ。
魔獣と契約した魔法少女は契約した魔獣が司る属性や性質をそのまま自身に引き継がせることで魔法が使えるようになる。それに対して魔法の世界の王族は司る属性や性質だけではなく、他の属性の魔法も本人が習得さえしていれば契約した魔法少女にも貸し与えることが出来る。
つまり雷以外の魔法もドクターが許可さえ出せば私も使えるようになるということだ。
「それならドクターが雷以外の魔法も使えるようにしてくれればもっと戦いやすくなるのでは?」
私にも使える魔法が増えればそれだけ戦闘時での行動に選択肢も増えると思いドクターに魔法を増やせるかどうか聞いてみる。
「あら。出来ないことはないわ。でも今はそうするべきではないわ。なぜなのかはまだわからないのだけれど、山田ちゃんは雷属性とすごく相性がいいみたいだからまずはここから慣れていくべきよん。それに使いこなせない選択肢を増やしたところで無駄な迷いが増えるだけだし、ただの付け焼き刃にすらならないわ」
確かにドクターの言うようにただ使えるだけでは選択肢が増えてもあまり意味がなさそうではある。それはわかっていても残念な気持ちは変わらない。
「あらあら。そんな露骨に残念そうな顔をしなくてもいいわよん。今はその時ではないというだけなのだから。山田ちゃんの成長に合わせて少しずつ使える魔法を増やしてあげるわよ」
「本当ですか!?」
「うふふ。とりあえず今回の作戦についてだけれど、今話したように契約によって使える魔法に違いがあることはわかったかしら。つまり相手は工夫次第では応用して一つの魔法を色々な使い方が出来ても、山田ちゃんのように本来の属性となる雷とは別の身体強化といったような複数の魔法は使えないのよん。それと相手は恐らく魔獣以外との契約は知らないでしょうから、この点をうまく利用することにしましょう」
相手の魔法少女は恐らく物質を別のものに変換出来る魔法で、ゴーレムを人形のように操るのはその魔法の一部だと思われる。その相手を追い詰めるまで私は雷魔法を使わず、身体強化魔法で戦わなければならない。正直なところ、かなり厳しいがそれでもやらなくちゃいけない。
ドクターのように強い魔力と戦闘経験があれば同じ様に最初から雷魔法を使っていっても問題がなかったのだろうが、残念ながら魔法少女としての私は今回が初陣だ。少なくとも相手は私よりも魔法少女としては先輩なので、魔法での正面からの戦闘はこちらが圧倒的に不利である。
しかし幸いなのはこの魔法少女が人形を操ることを主な魔法としているということだ。人形なら人と同じ様な感覚で相手をすることが出来るかもしれない。それなら今まで喧嘩での実戦経験もあるし、この前の強化特訓でマスターにかなり鍛えられた分もある。これなら物理的に戦えるならば決して不利というわけでもない。
確認を終えた私は戦闘開始をする覚悟を決める。そして意識を目の前にいる人形使いの魔法少女へと向けると一度深呼吸をする。
「確かにその通りですね。ではあなたの魔法確かめさせてもらいます」
人形使いの魔法少女は二体の人形を操作する。長い髪の少女は正面から一気に距離を詰めると右足からのハイキックを放つ。私はそれを大鎌の柄でガードをする。
「くっ! 意外と一撃が重い!」
ハンマーで殴られたかのような衝撃を受け止めながら押し返し、反撃を行おうとする。長い髪の少女を大鎌で薙ぎ払おうとすると、その影から隙をつき幼い少女が低い姿勢で足払いをかけてくる。
この動作を見た時、通常時ならば少しギリギリだったかもしれないが、魔法で身体能力が強化されている状態なら問題なく反応をすることが可能だ。私は薙ぎ払おうとしていた大鎌の向きを変え、柄を使い幼い少女の足払いをガードする。この少女からの足払いも長い髪の少女程ではないが重い攻撃だ。私はこの勢いを利用しながら一度後方へ飛び相手との距離を取る。
「あなたも魔法を使わないのですか? それなら使わざるを得ない状況を作るまでですよ」
まだ身体強化魔法の効果を加減しているとはいえ、もうこちらも魔法を使っているんだよ! と言いたいところではあるが、まず一つわかったことがある。
人形については二人を同時に相手にしないといけないが、今の強化くらいでも戦うこと自体は出来そうだ。だが相手もそんな簡単に終わらせてはくれないだろう。
でもこちらもまだまだ余力は残してある。相手の手の内を身体強化魔法だけで潰していってやる!
それに正直マスターとの特訓の方がずっとキツかった。近接戦闘でも戦えると思っていたが、マスターにはまともに一撃すらも入れることが出来なかった。
「いいよ。私をその気にさせてみなよ」
私のその言葉を聞くと人形使いの魔法少女は地面に落ちている石に向かって手の平を向ける。するとその石は地面から宙へと舞う。
「それでは私の魔法を見せますね。これが物質の変換魔法です」
彼女は宙に浮いた石に向けていた手を握るような動作をした。その瞬間に石は一度粉々に散って分解され、石があった場所に再び光の粒のようなものが集まりだす。そして元の石とは別の形状へと変化をし始め、やがてその形状は元の石と同じくらいの大きさのナイフへとなった。
「今見せたように物質を別のものに変換することが出来るのが私の魔法です。質量はさすがに変化させられないので元と同じようなサイズのものにしか変えられませんけどね」
人形使いの魔法少女は自分の魔法を実演して見せると地面に再びその手を向ける。すると広場に転がる大量の石が宙へと浮かび上がっていく。
「でも変換できる素材が沢山あればどうなると思いますか?」
私は宙を舞う大量の石を見上げる。全ての石が一斉に分解されるとそれは大量の西洋剣へと形を変える。そして剣が空中から雨のように私のいる場所目掛けて降り出す!
「……本気かよ!?」
雷魔法が使えるなら迎撃することも可能なのだろうが今は使うわけにはいかない! 少量なら身体強化魔法だけでも問題はなかったがさすがにこの数の対応は厳しい!
どうするどうするどうするっ!?
対応を迷っている時間はない!
今の私に出来ることは兎に角回避をすることだ!
私は身体強化魔法を発動させ脚力を強化すると相手のいる前方へ向かい走り出す!
脚力を強化している今は私の走る速度は目にも止まらない高速移動が可能となる。高速移動により回避をすると、さっきまで私が元いた場所には標的を捉えることができなかった多くの剣が地面へと突き刺さり、まだ空中に浮いていた剣は私の高速移動によって生じた衝撃で吹き飛んでいく。
そして高速移動の勢いに乗り相手との距離を詰めると、人形使いの魔法少女を守ろうと間に長い髪の少女が割って入ってきた。脚力強化にまわしていた身体強化魔法を腕力強化へとまわし、大鎌で長い髪の少女の人形を薙ぎ払う!
高速移動の勢いと身体強化魔法により腕力強化された大鎌の斬撃は、長い髪の少女の姿をした人形を両断し吹き飛ばした。
「あの数の剣の雨を高速で回避して私の人形まで壊すなんて……さすがに予想外でした。高速移動とこの攻撃力、あなたの魔法はもしかして……自分の身体能力を強化するものでしたか」
「そうだよ。やっとわかったのかな」
「そう……さっきまで魔法を使っていなかったのではなく、ただ単に見た目ではわかりにくかっただけなのですね」
正直なところ、さっきのはもう少し判断が遅れていたら危なかった。新しい魔法による選択肢が増えていればそれであの場は凌げた可能性もあるが、半端な状態なら確かに無駄な迷いになっていたかも知れない。そう思うとドクターの言っていたことは間違いではなかったと思う。
しかし人形を一体壊せたとはいえ、こちらの魔法を把握された以上、相手は今までよりも警戒され攻略が難しくなるだろう。それでも相手を追い詰めるべく、私は再び大鎌を構えた。




