ドクターとイケメン幹部
魔法少女同士の戦いが始まろうとしていたその隣では、眠れる獅子のドクターと鋼鉄の心臓のイケメン幹部との戦いもまた始まろうとしていた。
「ほう……そちらにも魔法少女がいるようだな。この前に倒したあんたらのロボットから俺たちのことを少しは情報を得ているんだろうが一人で戦わせてよかったのか? こちらの魔法少女がどんな魔法を使うのかを少しは知っているのだろう?」
「うふ。うちの魔法少女はそれなりに強いはずだから問題ないわよん。それよりもこっちは男同士で楽しみましょう」
ドクターはイケメン幹部へ向かって少しずつ近づき始める。
「おい、この機械甲冑デウス・エクス・マキナのことも知っているのだろう? なのにあんたは武装もせずに丸腰で向かってくるというのか」
特に武装や戦闘態勢をとることなく、正面からただ歩いてくるだけのドクターに違和感を覚えたイケメン幹部は警戒態勢をとる。しかしそのことを意にも介さずドクターは近づき続ける。
「今の俺にはあのロボットの時のような油断はない。例えあんたが見た目通りの丸腰だったとしても決して容赦はせんぞ」
「あらあら。怖いわん。でもあなたがそんなことを気にする必要はないわよ。だってアタシに武器なんて必要ないのだから。そうね。まずはあなたがどの程度アタシを楽しませてくれるか試してあげる」
ドクターはそう言うと右手の指でイケメン幹部に向けて銃を撃つようなポーズをとる。
「うふふ。それじゃあいくわよん。サンダーバレット!」
ドクターが魔法を発動させると彼の指先から眩い光と共に球状となった雷の弾丸が放たれた。その弾丸はイケメン幹部へ向けて真っ直ぐに飛んでいく。しかしその弾丸をイケメン幹部は咄嗟に機械甲冑で加速することで回避した。そして回避された雷の弾丸は彼の背後に立っていた木々に直撃すると一瞬の稲光とともに折れて倒れると燃え上がった。
「くっ……これは雷の魔法なのか!? まさか魔法少女以外にも魔法が使える存在がいるというのか」
「うふ。さすがにこんな初級魔法じゃ当たらないわよねん。でも、これでアタシが武器なんて必要ないと言った理由がわかったでしょう?」
「……そうか。あのロボットから放たれた電撃から僅かな魔力を感じたとあいつが言っていたがあれを作ったのはあんただったということか? このデウス・エクス・マキナには電撃耐性があるにも関わらず、俺自身にダメージがあったのはただの電撃ではなくやはり魔力による特殊効果の影響か」
「うふ。そうよ。アプリコットちゃんが放った電撃には僅かにだけれど、アタシの魔力が込められていたのよん。それは電撃に触れたものがあれば瞬間的にその部分の威力を魔力で増幅させるマジックブーストよ」
ドクターは次の魔法を発動させようとするために謎のポーズをとった。
「ハッ! 上等だ! 魔法少女以外に魔法が使える奴がいたことには驚いた。だがあのロボットからそちらにも魔法少女がいる可能性は当然こちらも考えていた。それに強力な魔法だとしても当たらなければいいだけの話だ」
イケメン幹部はドクターの次の魔法に補足されないように、機械甲冑で加速し不規則に動き回る。
「あらあら。確かに高速で移動すれば的にはならないわね。でもアタシにそんなことは関係ないわよん」
ドクターは両手を広げ構える。そしてしゃがみながら手の平を地面に触れさせると次の魔法を発動させる。
「うふ。スパークフィールド!」
地面に触れたドクターの手の平から地面を伝わる電気が走る。その電気は火花を散らしながらドクターの周りを囲むように広がっていった。
「なにっ!?」
不規則な動きでドクターに接近しようとしていたイケメン幹部は電気の火花が広がるフィールドに触れそうになるが、既のところでそれを回避した。
「うふふ。これは微弱な電気を使用者の一定の範囲で地面に広げる魔法よん。ただ展開させているだけの状態では大した威力はないわ。でも範囲内に足を踏み入れれば……どうなるかしらねん。電撃耐性に自信があるなら試してみてもいいんじゃないかしら?」
「ハッ! そうやってこちらの動きを制限する気か。いいだろう! ならば別の手を使うまでだ!」
イケメン幹部は機械甲冑の背面に装備されたジェットパックを起動させると空中へと飛び上がった。
「何も俺の戦い方は接近戦だけではないことを教えてやろう!」
イケメン幹部は機械甲冑の右腕に装備されている銃を空中で構えるとドクターに向けて弾丸を発射した。その弾丸は大きな音をたてて爆発すると同時に砂煙を巻き上げてドクターの立っていた場所に着弾する。
「やったか!?」
ドクターがいた地点へ着弾したことを確信したイケメン幹部は空中からその様子を見ていた。
「あらあら。今のは少しだけ驚いたわよん」
砂煙の中からドクターの声が聞こえてくると一筋の稲光が空から伸びてくる。その光はドクターのいた場所に到達すると激しい衝撃となり砂煙を吹き飛ばした。そして何事も無かったかのようにドクターは立っていたが、いつも着ている白衣の一部は焦げていた。
「今の爆発を受けたというのに服が少し焦げただけだというのか……?」
「うふふ。さっきの弾丸は焼夷弾だったようね。ただの弾だと思ったから服は焦がしちゃったのだけれど、防御魔法を使ったからアタシ自身に傷はないわ。でもなかなか惜しかったわよん。まあアタシを傷ものにしてくれたのなら……それはそれであなたに責任を取ってもらわないといけなくなるわ。さて次はアタシからのお返しをしてあげなくちゃねん」
ドクターは空中にいるイケメン幹部に向けて右手を広げながら突き出して次の魔法を発動させる。
「うふ。これであなたを捕まえるわよん。プラズマオーブ!」
ドクターが魔法を放つとイケメン幹部の周囲を無数の球状となった電気の塊が現れた。その電気の塊は人間が通れるような隙間が全くなく逃げることができない状態となる。
「うふふ。これであなたは身動きがとれないわね。さあ捕まえたわよん! プラズマオーブからのライトニングジェイル!」
ドクターが指を鳴らすと無数に存在するプラズマオーブから稲妻が伸びる。それはプラズマオーブ同士を繋ぎ檻のように獲物を閉じ込める。そして檻の内部にいる獲物に向けて一気に全てのプラズマオーブからの雷光が集束する。
プラズマオーブの檻から発せられた雷光がやがて収まると魔力で覆われた盾を取り出し、それに寄りかかりながら機械甲冑の一部が壊れ地面に片膝をついたイケメン幹部がいた。
「あらあら。さすがに捕まえたと思ったのだけれど……思っていたよりやるじゃない。この時をずっと楽しみにしていたのだからこういう焦らしも悪くないわ。それにますますあなたのことを気に入っちゃったわよん」
「先程も言っただろう……そちらに電撃を使う魔法少女がいる可能性も考えていたと……あのロボットとの戦いから慢心は捨て、あいつの魔法で作られた魔法に対する耐性を持つ装備も用意していた……だがその盾もだが前回より強化したこのデウス・エクス・マキナの電撃耐性をも貫いてくるほどの強力な魔法……あんたは一体何者だ……?」
「うふ。アタシはね、魔法の世界の王子様なの。あなたのところの魔法少女は恐らく魔獣と契約したのだと思うけれど、アタシはそんじゃそこらの魔獣クラスとは比較にならないのよん。それに慢心していようとしていまいとあなたがアタシに負けることは最初から確定していたの。あなたの敗因、それはね。アタシを惚れさせたことよ」
「なんだと……?」
イケメン幹部は片膝をついていた状態から気を失うとそのままうつ伏せに地面に倒れた。ドクターは倒れたイケメン幹部に近づき、うつ伏せ状態から仰向け状態にするとその場に正座で座りイケメン幹部に膝枕をする。
「あら。なかなか可愛い寝顔じゃない。今はゆっくりと休むといいわ。この後はお楽しみが待っているのだからねん。さて、こちらは終わったのだからあとは山田ちゃんも頑張りなさいな」
イケメン幹部との戦いを終えたドクターは魔法少女同士の戦いには興味がない様子で今の状況を楽しんでいた。




