明と光
私は駅に着くと近くにある駐輪場に自転車を止めた。そして光ちゃんと待ち合わせした駅前に到着すると、そこには既に白いワンピースを着た光ちゃんの姿があった。私は合流するために光ちゃんの元へ歩き出した。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん。私もさっき来たところだよ。それじゃあ早速だけれど行こうか」
目的地であるショッピングモールがある港側には桜海港という駅があるので、私たちは繁華街にある駅から電車でその駅まで向かう。
駅で切符を買い電車に乗ると、この駅からは十分程で目的の駅に着く。電車に乗っている間、私たちはいろいろな話をしながら時間を過ごしていた。
ショッピングモールや港側に来てみたかったこと。学校が始まるまでに光ちゃんとまた遊びたかったこと。いつも私の服装はパーカーやTシャツとジーンズだけれど、光ちゃんが今着ているようなワンピースも可愛くていいなってこと。こういった普通の女の子同士でするような話を、今までしたことが全くなかった私はとても嬉しかった。
電車内で楽しい時間はあっという間に過ぎ、目的地であった港側の駅へと到着した。
繁華街のある山側からは海は全く見えず、途中の電車内では二人で話すことに夢中だったので景色の変化に気が付いていなかったが、私たちが電車から降りると駅からすぐに海が見えた。そして駅と直結してショッピングモールと水族館があり、周辺の施設へのアクセスがとても便利なものとなっている。私たちはショッピングモールと繋がる改札口から出て中へと入った。
初めて入ったショッピングモールの内部は沢山の店が並んでいた。繁華街にある商店街にも多くの店があったが、それとは雰囲気がまた全然違いすごく興味が惹かれる。私は光ちゃんと一緒にいろいろな店を見て回りながら通路を進んで行った。
「そういえば誘ってくれた時、ショッピングモールに行ってみたいって言っていたけれど、何か買いたいものがあったの?」
私は歩きながら今更ではあるが、光ちゃんが今回ショッピングモールに来てみたかった理由をまだ聞いていなかった。
「特に買いたいものがあったわけではないよ。明ちゃんと一緒にこの辺りをいろいろと見て回りたかったの。もちろん見ている途中で気に入ったものがあれば買うつもりだけどね。そうだ! 電車の中で服のことを話してたじゃない。明ちゃんに似合いそうなのをいろいろと見て試着してみようよ」
「電車で話したのは光ちゃんが着ているから可愛く見えるのであって私が着ても似合わないよ」
私も光ちゃんのように可愛い服を着てみたい気持ちは正直あるが、今まで変身した時の魔法少女の服以外でそのような服を全く着たことがなかった。
当初は高校デビューを可愛い私で果たす予定だった。なので今頃はワンピースくらい平然と着ることが出来ていたはずである。しかし、いざ本当に着るとなると恥ずかしい気持ちの方が強くなってしまった。
「似合うと思うよ。明ちゃん可愛い顔しているんだからせっかくだからお試しってことで行ってみようよ」
光ちゃんは渋る私の腕を掴んで強引に歩き出した。恥ずかしい気持ちは残ったままではあったが、無理矢理にでも引っ張って私の望みを叶える一歩を踏み出させてくれたことは嬉しくもあった。
私はそのまま手を引かれながらいくつかの店を見て回り、気になる服があれば光ちゃんがコーディネートをしてくれたのでそれを試着してみた。いざ実際に着てみるといつもの見慣れた服装と違う自分を見て、違和感と恥ずかしい気持ちになる。
「着てみたけれど……どうかな? 普段着と違いすぎて自分では違和感しかなくて」
光ちゃんと同じように白いワンピースを着た私は試着室から出て光ちゃんに感想を求めた。
「明ちゃん可愛いよ! すごく似合ってる! 違和感は着慣れていないからそう思うだけだよ。普段から着ていれば自然に慣れてくるから気にならなくなるよ」
「うん……それならこれ買ってみようかな」
私は高校デビュー計画のためにもまずは可愛い服を着ることに慣れることからはじめようと思い、試着した服を買うことにした。
私たちはショッピングモールでそれぞれの買い物をした。遊べる時間はまだあるのでショッピングモール以外の場所もせっかくなので探索をしてみることにする。
ショッピングモールの駅と直結していた出入り口とは逆側から外へ出ると目の前には公園のような広場があった。私たちはその中にあるベンチに座り、どこを探索しようかとスマートフォンで地図を見ながら話し合っていた。
「あれあれー? キミらこの前の子らじゃん」
私たちが話していると、突然近づいてきて話しかけてくる男がいた。その男の顔をよく見てみると、以前に繁華街の広場で光ちゃんをナンパしていた男たちだった。
「こんなところで何してるのー? 暇そうなんだし俺らと遊ぼうじゃんよー」
面倒な人たちに見つかってしまった。私は男たちに構わず光ちゃんの手を取りこの場から離れるために立ち上がり歩き出した。
「どこ行くのー? 俺らも付いていくじゃんよー」
無視しているにも関わらず、ナンパ男たちは諦めずに後を付いてきた。私たちはそのまま歩き続けるがこの辺りの土地勘がないため、ショッピングモールのあった駅周辺のエリアから離れた工業地の袋小路へと迷い込んでしまった。
「こんなところに来てどうするのー? さあ俺らと遊ぼうじゃんよー」
道を引き返そうとするもナンパ男たちが前に立ちふさがってくる。
「私たちは貴方たちと遊ぶ気なんてありませんので構わないでもらえますか」
私は立ちふさがるナンパ男の横を通り過ぎようとするが、その瞬間ナンパ男が光ちゃんの腕を掴んできた。
「待てよー。前は逃したけど今回は俺らと遊んでくれるまで逃さないじゃんよー」
ナンパ男は掴んだ光ちゃんの腕を無理矢理引っ張ろうとする。
「痛いので離してください! 以前から何度も断っているじゃないですか!」
「うへへへ。いいからこっちへ来るじゃんよー」
光ちゃんはナンパ男の手を振り払おうと抵抗したがその手が離れることはなかった。あまりにしつこく付き纏ってくるナンパ男たちと、無理矢理腕を掴まれ痛がる光ちゃんを見た私は怒りが爆発しそうになり我を忘れてナンパ男の手を掴んだ。
「おい、光ちゃんから手を離せよ。いい加減にしないとそろそろ怒るぞ」
「嫌じゃんよー。遊んでくれるまで離さないもんねー」
しつこいナンパ男に私の怒りはついに爆発した。
「そう……だったらてめぇらのお望み通り遊んでやるよ!」
私は掴んだままのナンパ男の手に力を入れ、光ちゃんの腕からその手を引き離した。そしてナンパ男の手を掴んだまま相手の後ろに回り込むと同時に足を払い、地面にうつ伏せになるように倒して後ろ手で拘束した。
「い、いてててっ! 何しやがる! 痛いじゃんよー!」
地に伏せ痛がるナンパ男の背中を私は踏みつけながらもう一人の静かな方の男を睨みつける。するとその男はナンパ男を助けようと私に向かって突進しながら殴りかかってきた。しかしその男はただ真っ直ぐに私へ突っ込んでくるだけだったので、私は相手の側面へ回避をした。攻撃を回避された男は振り返りもう一度私に殴りかかろうとしてきたが、それよりも先に私の蹴りが男の股間へと入る!
股間に激痛が走った男はその場で地面に膝をつくとそのままうずくまり戦闘不能となった。その光景を見て逃げようとしていたナンパ男の元へ私は戻り、壁際に追い詰めると見下ろすように睨みつける。
「おい、まだ遊び足りないっつーならてめぇで続きやってやろうか?」
「ヒ、ヒィ! ご、ごめんじゃんよー!」
ナンパ男は土下座しながら私たちに謝った。私はナンパ男に二度と関わってくるなと強く言うと、ナンパ男は地面にうずくまっている男を連れて逃げるように去っていった。
うぅ……光ちゃんを守るためとは言え、怒りに我を忘れてやってしまった。せっかくの新しい環境でこれからは可愛い私で生活していくつもりだったのにこれでは台無しだ。きっと光ちゃんもさっきの私を見て引いているに違いないだろう。そう考えた私は恐る恐る光ちゃんに声をかけてみる。
「ごめん。やっぱ驚いたよね」
「うん。少し驚いたけど、守ってくれてありがとう」
「さっきの見られちゃったから、光ちゃんには私のことちゃんと話しておくね」
私はこれからのことを考え、光ちゃんには私の過去のことを話すことを決意した。もしかしたらこのことで光ちゃんから避けられることになるかもしれないが、それでも話さずにはいられなかった。
「大体こんな感じ……かな。喧嘩ばかりしててみんなから怖がられてたんだ。少しでも可愛くなりたかったんだけれど、私にはやっぱり無理だったのかも」
私は今までのことを光ちゃんに話すと苦笑いをしながら彼女の顔を見た。
「そんなことないよ! 可愛い服だって似合ってたよ! それに前の時だって困ってたところを助けてくれたし、今回は私のために怒ってくれたんだもん……すごく嬉しかったよ」
光ちゃんはそう言うと笑顔で私の手を握ってくれた。
「そうだ! 私で良ければ明ちゃんの計画のお手伝いするよ。これでも自分で服を作ったりするの好きなんだ」
「自分で作れるなんてすごい……光ちゃんに協力してもらえるのは嬉しいけれど……本当にいいの?」
「うん! もちろんだよ! それに私自身も可愛い明ちゃんいっぱい見たいし。そうと決まれば学校が始まるまでに計画の実行だよ!」
ナンパ男との望まぬ再会や色々とあったけれど、こうして私の高校デビュー計画は光ちゃんからの協力が得られることとなりました。
私の高校デビュー計画についての話を一旦落ち着けると、私たちは歩いてきた道を戻りなんとか駅前まで戻ってくることが出来た。
駅に辿り着いた頃にはすっかり夕方となってしまっていたので、このまま駅へと入り電車に乗って繁華街の駅まで帰ってきた。そして夕食はまだだった私たちは駅の近くにあるファミレスで済ませてからそれぞれ帰宅した。
アパートに着き、自分の部屋に戻った私は今日買った白いワンピースを着てみると、その姿を鏡で映しながら眺めていた。
(……だちゃん、聞こえるかしらん?)
「うわぁっ!?」
突然、ドクターの声が通信魔法により脳内に響いた。
(なによもう! そんなに驚くことないじゃないの)
「部屋に自分以外に誰もいない状況で突然声が聞こえたら驚くに決まっているじゃないですか!」
以前もそうだが、この通信魔法は相変わらずびっくりする……しかし今はそれよりも白いワンピースを着て浮かれているこの状況でタイミングよく話しかけられたことが気になってしまう。
「えっと……一つ気になったんですが、この通信魔法ってこうやって話す以外に相手の姿や状況がわかったりしませんよね?」
(別の魔法ならそういったものもあるわよん。でもアタシは山田ちゃんに特に興味なんてないから今山田ちゃんが何をしてようとどうでもいいのよん)
ドクターは相変わらずイケメンにしか興味がないらしい。ある意味私は安心した。
「それで……通信魔法を使って話しかけるってことはまた何か用なんですか?」
(ええそうよん。山田ちゃん、急なお話だけれど明日の夜ついに鋼鉄の心臓と戦うわよ。だから明日の夜までに準備をしておきなさいねん。アタシからは以上よ。詳しい話はまた明日。それじゃあおやすみなさいねん)
「えっ!? 明日の夜ですか!? また突然なっ!?」
私が話している途中にドクターは通信魔法を切ってしまった。突然に決まった鋼鉄の心臓との戦いに私は困惑をするも、今日の疲れもあり明日に備えて寝る準備をするのであった。




